愛の戦士たち(第2話)  作・島崎鉄馬

第弐話「花組大戦争!?」

照和2年 春 大神の復帰から2週間後
既に米田は花組隊員に緊急召集をかけていた。それを受けて川崎市から一台の蒸気自動車が帝劇に到着した。
ドアが開き、下りて来たのは自称花組のトップスタア、神崎すみれであった。
(帝劇も久方ぶりですわね。早く中尉にお会いしなくては・・・)
すみれは急ぎ足で階段を上がり、玄関の扉を開いた。
ロビーには人影が無く、シーンと静まり返っている。
「まったく、わたくしが戻ってきたというのに、お出迎えが一人もいらっしゃらないなんて!」
不機嫌な声が無人のロビーに響く。
(まあ、それもよろしくって。中尉に2人っきりになれるチャンスということですもの。)
階段を2階へ上がり、テラスを通って大神の部屋に向おうとして角を曲がった瞬間、すみれの前に突然大柄で全身黒尽くめの男が現れた。
「きゃっ!?」
声に反応し、男が振り向いた。男は浩忠だった。
「な・・松平中佐じゃございませんこと?」
「・・・確か、神崎すみれとか言ったな?大神にご挨拶か?」
完全に読まれ、すみれは耳まで真っ赤になった。
「な・・・あなたには関係の無いことじゃなくて!」
「勝手にしろ。」
浩忠は部屋に戻った。浩忠の部屋は大神の部屋の隣に作られた。
(松平中佐・・・なにか前と雰囲気が違うような・・・)
しばらく考え込んでいたが、関係の無いことと決め、大神の部屋の前に立った。
(・・・・中尉・・・・)
コンコン・・・
返事は無い。留守のようだ。
(どちらへ行かれたのでしょう・・・・また雑用を?・・・あるいは、舞台に・・・・)
とり合えず事務局に行ってみた。かすみが一人で仕事をしているだけで大神はいない。
舞台を覗いてみるとそこにいたのは大神ではなくさくらだった。
「・・・ここで回って、5歩踏み出す・・・・」
踊りの稽古をしているようだ。
「・・・・・・・」
カーテンに隠れてジーッと見ている。
「・・・・そして、ここで決める!」
決めポーズをとった。
パチパチパチ・・・・
さくらが突然の拍手におどろいて振り返った。
「あ!すみれさん!!お帰りなさいませ!!」
「おほほほ・・・・さくらさん、精進なさっているようですわね。」
「はい!今度の舞台でも頑張ります!!」
「結構ですわね。ところで今度の演目は何ですの?」
「演目はこれです。」
さくらは台本を持ってきた。
「・・・・新撰組?」
「はい!土方歳三を主人公に幕末の動乱を描いた作品です。」
「そうですの。・・・・あら?」
配役の名前一覧を見て、一つ不思議がった。
「主役は松平中佐ですの?」
「はい、あたしもそれを見て驚いたんです。」
「中佐が・・・あんなに舞台嫌いでしたのに?」
浩忠は歌が嫌いで舞台に上がるのを以前からずっと拒んでいた。
「それが、今回は歌や踊りが一切無いと言ったら二つ返事でOKしたそうなんです。」
「・・・・・。あ、そうでしたわ。中尉はどちらにいらっしゃいますの?」
「大神さんなら、月組の皆さんと木材運びをなさってます。」
「木材運び?」
「今回の公演は大掛かりなセットを組むことになったんです。それで、その木材を運ぶために真田さんたちに連れて行かれて・・・」
真田俊樹海軍中佐は浩忠と同じく、かつて花組に増援部隊として配属されたことがある。加山が欧州へ向った現在は月組隊長に任命された。
「ほら、大神!!もっと気合を入れんか!!」
真田の声が響く。
著木場から木材をトラックに載せ、帝劇まで運んで、それを大道具部屋まで運ぶ。また戻ってその繰り返し。月組総動員というわけにはいかないので、一番暇な大神がかり出されたというわけだ。
「早くしねぇと、日が暮れるぞ!!」
「はい!!」
大神も体力には相当の自信を持っているが、何分にも人数が少ない。大神、真田の他には僅か10名程度しかいない。
それゆえに、一人一人にかかる負担も大きい。大神の体力は徐々に消耗していった。

その頃、帝都某所。
大広間の玉座の前に大勢の幹部たちが跪いている。
そのメンバーは南光坊天海、細川ミロク、蒼き刹那、白銀の羅刹、金剛、水狐、土蜘蛛、木喰、火車、サタン、猪、鹿、蝶。
いずれもかつて帝國華撃團に倒された者達だ。
やがて3人の大幹部が現れ、その後に続いて一人の男が玉座に座った。顔などは一切見えない。
「そろったか。さて、諸君。我々もついに帝國華撃團と刀を交える時が来たようだ。天海、報告を聞こう。」
天海は立ち上がった。
「現在、帝國華撃團の主力部隊には7人います。しかしまだ各国に残っている隊員もいますので、ここらで一気に。」
「うむ。よかろう。金剛、水狐!」
「はっ!」
黒鬼会の幹部筆頭の金剛と水狐。黒鬼会との決戦で花組を何度もピンチに追い込んだ2人だ。
「行け。帝國華撃團を血祭りにあげろ。」
「はっ。この金剛の命に代えても!」
「帝國華撃團を必ず葬って見せますわ!」
2人はその場から消えた。


日の沈む頃にようやく大神は木材運びから解放された。
帝劇に帰ってくるなり部屋でバタンキュー。食堂に行って飯を食べる気力すら無かった。
(ダメだ。もう動けない・・・)
コンコン・・・
誰かがドアをノックした。
「ふぁぁい・・・どうぞぉ・・・」
力の無い声を出すのも無理なかった。
「いよぉ!隊長!!飯持ってきてやったぜ!!一緒に食わねぇか!!」
「カンナ・・・あぁ、ありがとう・・・食べるよ・・・」
ベッドからようやく起き上がり、床に座った。
「へへっ、大変だったろうね、木材運び。もうちょっとで用意出来るから、ちょっと待っててくれ。」
次々と食事を床に並べていく。
「よぉし、出来た!さあ、隊長!食おうぜ!!」
「ああ・・・・」
バシッ!
気合を入れるように顔を叩いた。
「よし!食べよう!!」
「よっしゃ、そう来なくっちゃ!!」
あれだけの重労働をした後なのでかなり食が進む。カンナの大食らいは言うまでも無いが、今日の大神はそれに負けない勢いだ。

やがて食事は終わり、2人は床に大の字になって寝そべった。
「ふぅ・・・もう食えねぇ!」
「俺も・・・・食った食った・・・・」
結果的にカンナも大神も食べた量はあまり変わらなかった。
「しっかし、隊長がアタイと同じ量を食うなんてよぉ、よっぽどきつかったんだな。」
「ああ・・・もうご免だね。あんな重労働は。モギリや伝票整理やってる方が楽だよ。」
「そうかい?アタイはそういう労働の方が好きだけどよ。アタイは舞台の稽古で出られねぇからなぁ。」
コンコン・・・
「お?誰か来たみたいだ。はぁい!だぁれ?」
「えっ?か、カンナさんがどうして!?」
ドアの向こうから聞こえたのはすみれの声だった。
「なんでぇ、すみれかぁ。何の用だい?」
バタンッ!
ドアを開け、ヅカヅカと入ってきてカンナに怒鳴りつけた。
「カンナさん!どうしてあなたが中尉の部屋にいらっしゃるの!?」
「何だよ、アタイが居ちゃいけねぇってのか?」
「いけないってものじゃありませんわ!!とっとと出て行ってくださいな!!」
「何だとぉ!?やろうってのか!」
いかにも喧嘩の始まりそうな雰囲気だ。
「あ、あの〜2人とも、ここで喧嘩は止めてくれないかな。」
「あ・・・そ、そうですわね。ここは中尉のお部屋でしたわね。」
「すまねぇ、隊長。・・・隊長、疲れてるのに・・・」
とり合えず喧嘩は回避された。大神はふうっとため息をついた。
「ところで、すみれくん。何か用かい?」
「あ、そうでしたわ。」
すみれはポットとカップを出した。
「中尉にお紅茶を御出ししようと思いまして持ってきましたの。」
紅茶をカップに注ぐ。すみれは丁寧に大神の前に差し出した。
「さあ、中尉。召し上がってくださいな。」
大神は軽く礼をして・・・
「では、いただきます。」
まるで日本茶を飲むようにゆっくり飲んでいく。
すみれとカンナは黙ってそれを見ている。
紅茶を一気に飲み干した大神はプハーッと息をつき・・・
「おいしいよ、すみれくん。ありがとう。」
大神に満足してもらえてすみれも嬉しそうだ。
「まあ、お礼なんて・・・・わたくしはただ、当然のことをしただけですわ。」
「ケッ。調子いいんだから。」
カンナは実につまらなさそうな顔をしている。
「カンナ、すみれくん。俺に気を使ってくれて、ありがとう。お陰で、疲れも吹っ飛んじゃったよ。」
「本当かい!それならアタイも嬉しいぜ!隊長の役に立てたんだからよ!」
「まあ、それもわたくしのお陰ですけど・・・」
気の強いすみれは何かと他人より一歩リードしようとする。

翌日・・・
徹夜で月組が作業してくれたお陰で「新撰組」の池田屋のセットが8割方完成した。
今回の公演は希望参加で、花組のみならず、月組、雪組、風組からも出演者を募り、総勢30名近い出演者が集まった。また、裏方の人員数はおよそ100名と帝劇創設以来、初の大公演となった。

帝國華撃團公演
新撰組
出演者
土方歳三・・・松平浩忠(新人)
近藤勇・・・桐嶋カンナ
沖田総司・・・真宮寺さくら
芹沢鴨・・・真田俊樹(新人)
山南敬助・・・米田一基
桂小五郎・・・レニ=ミルヒシュトラーセ
幾松・・・神崎すみれ

この日は初の予行演習が行われる。池田屋のシーンはこの公演の中で一番の見せ場となるアクションシーンだ。特に綿密な打ち合わせが行われていた。
池田屋事変は新撰組が関わった出来事で最も有名な事件と言えるであろう。江戸幕府転覆を目論む長州派維新志士たちはその手始めとして京都焼き討ちを計画。その密会場所として料亭・池田屋を選んだ。
町では祇園祭が行われ、大変な賑わいを見せていた。新撰組はこの密会の情報こそ掴んだものの、肝心の密会場所が絞り込めなかった。やがて2ヶ所に絞られた。可能性の低い池田屋には少数精鋭、近藤勇、沖田総司、藤堂平助、永倉新八を中心とする8名。もう1ヶ所には土方を中心とする主力が向った。
しかし、土方の読みは外れ、敵は池田屋にいた。

建物の陰から池田屋の2階を見上げる近藤。
「・・・中では、刀を低く使え。うっかり天井に斬り付けると、その隙にやられるぞ。」
黙ってうなずく7名。
ドンドンドンドン!!
戸を激しく叩いた。すると、奥から店の主が出て来た。
「どちら様でごぜぇましょう?生憎今宵は満室でごぜぇますが。」
戸を開けるとそこに居たのは白地に青のだんだら模様の羽織を着た剣士たち。京都に住む人間なら一目でわかる。
「あっ!!お客様ぁっ!!」
主人は2階に向って大声を上げた。それを近藤がどかして叫ぶ。
「御用改めでござる!!」
2階から一人の志士が出て来た。
「何だ?みんな2階に・・・何っ!?」
刀を抜こうとしたが、既に沖田が目の前まで迫っていた。
ザシュウゥッ!!
あっという間に斬り捨てた。
近藤、沖田、永倉、藤堂の4人は2階の部屋へなだれ込んだ。残りの4人のうち2人が表で待機。残る2人は裏手へ回った。
「壬生狼かぁっ!!」
志士の一人が叫んだ。壬生の狼。それが新撰組の仇名だった。
「やああぁぁぁっ!!」
沖田が先陣をきり、近藤も続く。
「うおおぉぉぉぉっ!!」
凄まじい斬りあいが始まった。

戦闘は長時間続いた。そのうちに負傷したり、あるいは疲れきった者もいた。沖田は肺の病が再発し、吐血した。藤堂は顔を斬られ、重傷。やがて志士たちが表から外に出ようとするが・・・
「あっ!?ダメだ!!戻れ、戻れ!!」
主力の土方隊がなだれ込んで来た。
「新撰組副長、土方歳三!見参!!」

「よし、そこまで!!」
米田の声が響き、予行演習が終わった。
「ふう・・・お疲れ様でした、松平さん。」
「・・・血が付いてるぞ、さくら。」
沖田総司の役を演じるさくらだが、劇中で使用した吐血用の血が顔に付着したままだ。
「え?あ・・・ホントだ。すいません、教えていただいて。」
シュルルル・・・
さくらの耳にそんな音が飛び込んできた。
音のした方向にはカンナがいたが、その向こうに居たのは蛇だった。
恐らく運んできた木材に引っ付いて来てしまったのだろう。
「あ!?」
「な、何だよさくら。素っ頓狂な声出して。」
カンナは蛇に気付いていない。
「カンナさん、黙ってそこからそぉーっと下りてきてください。」
さくらは大事に至らないうちに解決しようと図るが、大抵の人間は相手の目線のズレに気付くとついついそっちを向いてしまう。
「何だよ、アタイの後ろに何か・・・・・・」
後ろを振り返り、蛇と目が合った途端、カンナの動きがとまった。文字通り蛇に睨まれた蛙のように・・・そして・・・
「ぎぃやああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
カンナの悲鳴が舞台と客席に響き渡った。
「な、何だ!?」
声が特によく響くように建築されたことが災いし、カンナの大声はその場にいた全員の耳に痛いほど響いた。
そして、その余波は人間にとどまらなかった。
「まったく!カンナさん!!」
カンナは完全にパニックになり、セットを壊していく。
「ぎゃあああぁぁぁ!!蛇、蛇だぁぁっ!!」
すみれはカンナを止めようと舞台に上がるが・・・
ボトッ・・・
すみれの肩に上から何かが落ちてきた。
「・・・ひっ!?・・・こ・・この感触・・・・まさか・・・」
肩には蜘蛛が乗っかっていた。先ほどのカンナの大声に聴覚をやられ、フラフラしているうちに落ちてきたのだろう。
言及の必要は無いと思うが、すみれは大の蜘蛛嫌い。
「きゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
またしても悲鳴が響き渡る。既に大半の者が一時的に聴覚を失っている。
バキバキバキ・・・・
2人は大混乱し、セットを次々と破壊していく。
かろうじて聴覚の残った大神は2人を止めに行こうとするがなかなか近寄れない。
「何とかしないと・・・中佐、手伝ってくだ・・・・」
足下で浩忠が目を渦巻きにしてひっくり返っている。
浩忠は凄腕の剣客。物音を聞く鍛錬を積んでいるため、常人よりも大きな影響を受けてしまった。
「さくらくんは・・・・」
当然、さくらも目をバッテンにしてひっくり返っている。
「もしかして、俺一人であの2人を?」
周りを見ても誰も起き上がっていない。
ミシミシミシ・・・・
池田屋のセットの上部までが崩れ始めた。
「危ない!!」
ガラガラガラ・・・・ガッチャアアァァァァァァァァン!!
セットは完全に倒壊してしまった。


「大馬鹿野郎!!」
支配人室に米田の声が響き渡った。
カンナとすみれの2人はその後も暴走し、帝劇の壁をぶち抜いたり、窓を2、3枚割ったりした。
「まったく・・・なんだってこう苦労が絶えねぇんだ。胃が痛くてしょうがねえ。」
流石にすみれもカンナも小さくなっている。

一方、支配人室前の廊下では・・・
「すごく怒ってますね。」
さくら、大神、マリア、アイリス、レニの5人が盗み聞きしている。
「ええ・・・流石に今回は大事だったから・・・」
「アイリス、まだアタマ痛いよ・・・」
レニはその場にいなかったため、至って平気。
「大丈夫かい、アイリス。よっぽど凄い声だったんだね。」
壁に耳を当てながら聞いていた大神が答える。
「ああ、中佐もさくらくんも目を回してひっくり返ってたからね。」
「そういえば、松平さんはどうなさったんですか?」
「さっき部屋に行って見たけど、まだ目がグルグル回っているみたいよ。」
耳がよければよいほど、治りが遅くなる。
「あたしも、やっと吐き気が治まったところで・・・」
回復が早かったさくらだが、その後も目が回りつづけ、まるで2日酔いのように吐き気と頭痛が続いていた。
何度か大神が看病しに行ったが、さくらはずっと洗面器を持ったままだった。
「本当に鼓膜が破れなかったのが奇跡だよ。」

すみれもカンナも米田に怒られても互いに責任の擦り付け合い、「お前が謝れ」と言い合うだけだった。
「大体、カンナさんが大声出すから、上の蜘蛛が落ちてきたんじゃなくて!?」
「ああ?何だと、このサボテン女!!アタイよりデカイ声出してよく言うぜ!!」
実際、やや太い声のカンナよりも、若干キーの高いすみれの声の方がうるさかった。
「何ですって!?」
「ほーら、その声がうるせえって言ってんだよ!」
「いい加減にしろ!!」
米田の一言でシーンとなる。
「もういい、行け。」
2人は言葉も無く出て行った。

米田は煙草に火を点け、フウッとため息をついた。
「司令、少しばかり怒り過ぎじゃありません?」
かえでがお茶を持ってきた。
「あの2人にゃ、あれぐらい怒ったほうがいいんだ。あれでもまだ足んねぇぐれぇだ。」
「ふふ・・そういう意味ではなくて、あまり怒るとお体に障りますよ。」
実際、米田は昔から問題を抱えることが多く、いつもいつも苦労していた。
「わかってるさ、わかっちゃいるが、これもあいつらのためだ。」

翌日、銀座に再び敵が現れた。指揮するのは金剛と水狐。脇侍・降魔を含んだ大部隊だ。
すぐさま花組隊員は指令室に集合。米田から状況説明を受けた。
「敵は真っ直ぐにここを目指している。」
「ということは・・・狙いは我々帝國華撃團。」
「そうだ。おそらく天海あたりがここのことをしゃべったんだろうよ。なお、敵の戦力は脇侍が20機。降魔が5匹ほどいる。そして2機の大型魔操機兵が中央にいるそうだ。そいつが誰であれ、ここを破壊されるわけにはいかん。すぐに出撃しろ。」
「はっ、了解しました!!」
大神の出動命令も出ないうちに・・・
「よっしゃ!そんな奴らはアタイ一人でぶっつぶしてやるよ!!」
「お待ちなさい!わたくしが敵を蹴散らしてご覧に入れますわ!」
喧嘩しながら出て行った。大神は止めることもできず、ただボーっと立ち尽くすだけだった。
「大神!何ボサーッとしてる!?さっさと出動しろ!!」
「は、はい!!」
花組の方を向き・・・
「帝國華撃團・花組、出動!!」
「了解!!」


既に帝劇の目の前まで迫った金剛たちだが、発動した帝劇防御壁の前に突入できなくなっていた。
しかし、5匹の降魔が上空から帝劇を攻撃。濃硫酸の液を吐き、外壁を破壊していく。
「そこまでだ!!桐嶋流、乱撃・四方攻相君!!」
紅い神龍が1匹の降魔に踊りかかり、一撃で撃退した。
続いて現れたのは紫の光武。得物の薙刀を振り回しながら突撃してくる。
「まったく見ていられませんわ!おどきなさい!!神崎風塵流、朱雀の舞!!」
同一線上に並んでいた降魔2匹を一気に貫き、撃破した。
「ふん、チョロイものですわ。」
「だぁっ!アタイの前に出るな!!」
明らかにカンナの戦闘を邪魔するかのように前に出て来た。
「おほほほほほほ・・・!!脇役は下がってなさい!!」
「アタイは主役だ!!おめぇが脇役だろうが!!」
「おーっほほほほほ・・・・!!新撰組のような荒っぽい公演の主役なんて願い下げですわ!!」

と、そこに5色の花火が上がった。現れたのは白、桜、黄、黒、漆黒の神龍。
「帝國華撃團・花組、見参!!」
5人それぞれがファイティングポーズをとった。
その時、どこからか声がした。
「ほお・・ようやく現れたか、帝國華撃團!!」
「随分と待たせたわね、坊や。」
聞き覚えのある声。7人の目の前に現れたのは大型魔操機兵「大日剣」と「宝玉」。黒鬼会五行衆、金剛と水狐が乗る機体だ。
「大神一郎、久しぶりだな!!」
2人の登場に花組は動揺している。
「お、お前達も反魂の術で・・・・」
「おうよ、ある方の計らいで貴様らを地獄に送り届けるために、わが黒鬼会は蘇った!!」
黒鬼会・・・それは太正14年に帝都を攻撃した暗黒組織。陸軍大臣京極慶吾を首領としていた。
「黒鬼会だぁ?貴様らの親分は先月俺がぶちのめしたぜ!!」
浩忠がまだ月組に居た頃に加山らと京極を撃破していた。新皇に乗れない京極はろくな抵抗も出来ずにあの世に送り返された。
「へっ、それがどうした!鬼王も居ねぇ今は俺が親分だ!!」
「ほお、そうかい。ならアンタをぶっつぶせば、黒鬼会は終わりってわけだ。」
この過剰ともいえる浩忠の自信の理由については後に判明するが、ともあれ、確実に金剛は挑発に乗ってしまった。
「この野郎!!貴様にこの俺が倒せるか!!」
怒り狂う金剛だが、それを水狐が止める。
「熱くなるんじゃないよ、金剛!!」
しかし金剛はそれを聞かず、突撃していく。
「今だ!!」
大神の一声で花組は一斉に突撃する。しかし・・・
「五行相克・雪花波紋十軌!!」
水狐の放った突風により、攻撃するどころか陣形を崩されてしまった。そこへ突撃してきた金剛が追い討ちをかけた。
「五行相克・鬼神轟天殺!!」
凄まじい雷鳴とともに神龍に稲妻が落ちた。
一方的な攻撃で花組は全滅したかに見えた。
「ハハハ・・・・!!どうだ!!これが蘇った俺たちの力だ!!腕を上げたのは自分達だけだと思わんほうが身のためだな!!」
勝ち誇る金剛だが、次の瞬間、金剛の乗る魔操機兵「大日剣」に衝撃が走った。
「ぐおっ!?」
「大日剣」はバランスを崩し、前から倒れた。
背後に立っていたのは紅い神龍。カンナ機だ。
「今の言葉、そっくりお前に返してやるぜ!!」
後ろでそれを見ていた水狐は・・・・
「フフフ・・・新しい黒鬼会の首領がこの程度なんて、あきれたものね。」
「何だと!?」
怒る金剛が機体を持ち上げて見ると・・・
「あきれたのはこっちの方だ!」
水狐は後ろを見た。そこにいたのは紫の神龍。すみれ機だ。
「『新しい黒鬼会の首領がこの程度なんて、あきれたものね』ですって?あなたもあまり大したことありませんわね。」
ザンッ!!
薙刀で宝玉を薙ぎ払った。倒れはしなかったがかなりのダメージを与えた。
「おのれ…たった二人でこの私たちに勝てるとでも思うのか!?」
「あら?誰が2人とおっしゃいました?」
「へっ、生憎、ここに集った仲間の誰一人として命運は尽きちゃいねぇぜ!!」
周りを見ると、大神やさくらたちも立ち上がっていた。
「く・・・・金剛!ここは引き上げるよ!!」
「何!?逃げるのか!?」
「帰りたくなかったら、ここで八つ裂きにされるだけよ。私は帰るわ。じゃあね。」
宝玉は地面に溶けるように消えた。
「くそ・・・仕方ねぇっ!!」
大日剣に稲妻が落ち、消えた。
「追わねぇのか、大神?」
浩忠は追撃を進言したが・・・
「いや、よしましょう。みんなダメージを負っているようですし。」


作戦指令室に戻り、反省会を行った。当然、すみれとカンナの勝手な攻撃は処罰されるはずだったが、五行衆2人を撃破した功績により、特別に不問とされた。
終了後、大神にすみれとカンナが声をかけてきた。
「隊長、悪かったな。」
「今回の戦い、わたくしたちのせいで危ない目に・・・」
深深と頭を下げる2人だが、大神は優しい微笑を浮かべて・・・
「謝ることは無いさ。今日の戦いで俺たちは何も出来なかったんだ。敵はほとんど君たち2人がやっつけたんだ。それにあの金剛と水狐も撃破したんだ。誇れることじゃないか。」
「それは・・・・」
まだ何か気にしている2人だが・・・
「舞台のことを気にしているのかい?」
「ええ・・・何にしても、中尉やみなさんがせっかく作って下さったセットをわたくしたちが壊してしまって・・・」
大神はまた微笑んで・・・
「それは心配要らないよ。行って見ればわかるよ。」


三人は舞台に行ってみた。そこで見たものはほぼ8割方復元された池田屋のセットと、それを急ピッチで作り上げていく花組や月組の隊員たちの姿だった。
「よーし、マリア。その板っきれをこっちにくれ!」
「はい、副長!」
「レニ!こっちの照明が消えてるよ!!」
「了解。アイリス、こっちを頼む。」
「は〜い!」
全員生き生きとした表情で忙しく動いている。
「さあ、行こう。すみれくん、カンナ。」
「ええ・・・そうですわね。」
「へへっ、アタイもこういう仕事は大好きだぜ!!」
2人とも走って舞台に上がる。大神も後に続いて上がる。
「よーし、みんな!今日中にこのセットを直すぞ!!」
「おーーっ!!」
新撰組公演開始まで、後1週間。花組の忙しい日々は続く。

To be continued・・・


キャスト

大神一郎
  陶 山 章 央

神崎すみれ
  富 沢 美智恵

真宮寺さくら    マリア=タチバナ
  横 山 智 佐     高 乃   麗
アイリス       松平浩忠
  西 原 久美子     堀   秀 行
真田俊樹
  小 林 清 志

藤枝かえで
  折 笠   愛

南光坊天海    金剛
  宝 亀 克 寿     立 木 文 彦
水狐
  佐久間 レ イ

首領の声
  難 波 圭 一


米田一基
  池 田   勝


桐嶋カンナ
  田 中 真 弓


次回予告


再び現れた蒼き刹那が新型のミサイルを開発。
これ以上罪の無い人々を苦しめることはさせない!!
刹那は私があの世に送り返す!!

次回、愛の戦士たち
「あぶない戦士 危機一髪」
照和桜に浪漫の嵐!

隊長、信じています!!

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