愛の戦士たち(第1話)  作・島崎鉄馬

照和2年 春 帝都・東京
あの黒鬼会との戦いから1年が経ち、帝都もかつての繁栄を取り戻しつつあった。
そんなある日、大帝国劇場の米田支配人に緊急報告が入った。
「・・・・・・」
月組からの報せに、米田は暗い表情を見せた。
「・・・どうなさったんですか、司令?」
藤枝かえでもそこにいた。
「・・・読んでみろ。」
手紙を手渡され、かえではその文章を読んでいく。
「・・・・・・」
やがて、かえでも暗い表情を見せる。
「・・・司令・・・これは・・・・」
「恐れていたことが、現実になっちまったな。」
「まさかこんなに早く・・・・」
米田は椅子から立ち上がり、窓から外の景色を見た。
桜の花が満開で、穏やかな春の景色が広がっている。
「・・・・かえで君、大至急、巴里に電文を打ってくれ。」
「巴里に?・・・まさか、司令!?」
「ああ・・・あいつを、呼び戻すんだ。」
巴里にかえでからの電文が届くのは、それから3時間後のことだった。


第壱話「忍び寄る影」

照和2年 春 横須賀港
港に一隻の大型船が到着した。
かなりの長旅に疲れきった表情の乗客たちが次々と降りてくる。
しかしその中に混じってたった一人、生き生きとした表情の軍服を着た男がいた。大神一郎である。
(帰ってきた・・・日本に!)
決意のような強いまなざしで久しぶりの日本の景色を眺めた。
桟橋で一人の男が彼を待っていた。
海軍次官、山本五十六。大神の上司である。
「帰ってきたな、大神。」
「山本次官!ただいま戻りました!!」
2人は互いに敬礼すると、ニッと笑った。

山本の手配した車で帝都へ向かう。
「どうだ?久方ぶりの日本の景色は?」
「そうですね、あの黒鬼会との戦いが嘘のようですね。町も綺麗に復興してますし。」
山本がまた笑った。
「・・?・・・何か?」
「相変わらず堅苦しい奴だな、お前は。」
「・・・そうでしょうか?」
「堅いのは変わらんが、人間としては変わったな。また一回りデカくなった。」
大神は優しい笑みを浮かべた。
「・・・・次官の言葉のお陰ですよ。」
「・・・・俺の言葉?」
「『前に進め。自分の正しいと信じた道をひたすら進め。そうすれば自ずと道は開かれる。』って。自分はこの言葉を心に刻んで、いままで戦ってきました。」
「覚えてたのか・・・・」
話しているうちに車は帝劇に着いた。
大神は着くなり車を降り、帝劇を見上げた。
(大帝国劇場・・・・俺は・・・俺は帰ってきた!帰ってきたんだ、帝劇に!!)
喜びを隠せないようだ。
その時、玄関から米田とかえでが出て来た。
「米田司令!かえでさん!!」
2人は大神に気付いた。
「おっ!大神!!よく戻ってきてくれたな、待っていたぞ!!」
「お帰りなさい、大神君。巴里での任務、お疲れ様。」
「はい、ありがとうございます!!」
再会が一段落すると、米田達は車に乗り込んだ。
「じゃあ、俺たちはちょっと賢人機関に用があるから、あとは任せたぞ。」
「はい!行ってらっしゃいませ!!」
笑顔で送り出した大神だが、数秒であることに気付いた。
(・・・てことは、俺を迎えに出て来たわけじゃないのか?)
ふうっと落胆するようにため息をつき、玄関から中に入った。
「お帰りなさい!大神さん!!」
元気な声が聞こえた。
「その声はさくらくん!」
さくらが玄関の扉の裏で待ち構えていたのだった。
「大神さんが戻ってこられるのに、お出迎えできなくて、ごめんなさい。どうしても稽古が抜け出せなくて・・・」
「いいんだよ、さくらくん。稽古は大事だからね。」
さくらは僅かに顔を赤らめている。
「ありがとうございます、大神さん。」
「・・・・そういえば、他のみんなはどうしたんだい?」
「えぇと・・・いまここに残っていらっしゃるのは、マリアさんと、カンナさん、それにレニとアイリスだけで、すみれさんは川崎のご実家のほうに、紅蘭は花やしき支部で翔鯨丸の調整を。織姫さんは緒方さんと伊太利亜に向われました。」
「そうか・・・大体いつ頃戻るかわかるかい?」
「ええ、ちょっとズレはあると思いますが、夏ごろまでにはみなさん揃われると思いますよ。」
その時、さくらの後ろから声がした。
「さくら、抜け駆けはいただけないわね。」
「そーだよ!お兄ちゃんはアイリスの恋人だよ!!」
「さくらも、やるところはしっかりやるんだな。」
「ボクだって隊長に会いたいのに。」
マリア、アイリス、カンナ、レニの4人がいつの間にか後ろにいた。
「えっ!?み、みなさん、別にあたしは抜け駆けしたわけじゃ・・・」
「よく言うよ、稽古が終わるとミーティングすっぽかしてすっ飛んで行ったのは何処の誰だい?」
さくらは真っ赤になって弁解している。
しかし、大神は後ろでクスクス笑っている。
「な、何がおかしいんですか、大神さん!!」
「いや・・・何かこういう会話を聞いていると、ようやく帝劇に戻ってきたという実感が湧いたよ。」
大神の発言に和やかな空気が流れた。しかし数秒後、さくらの目がつり上がった。
「大神さん!今の言い方だとあたしはそんなに怒られてばかりってことじゃないですか!?」
「いやいや、そういうわけじゃ・・・あ、そうだ。俺、着任届出さなくっちゃ!」
逃げるようにその場から立ち去った。

その日の夕方、大本営から戻ってきた米田とかえでの2人と帝劇三人娘を加えて大神の復帰を祝う宴会が開かれた。
まず、米田が乾杯の音頭をとった。
「え〜、それでは、大神一郎中尉の帝國華撃團花組への復帰を祝って・・・・」
「かんぱ〜いっ!!」
大神も一気に酒を飲み干した。
「さあ、大神さん。お一つどうぞ。」
「ああ、ありがとうさくらくん。」
さくらに酌をされ、大神も思わず表情が緩む。

宴もたけなわになってきた頃、米田が一人で何かを考え込んでいる。
「・・・どうかされましたか、支配人?」
「いや・・・何か忘れてるんだよ。」
コンコン・・・
ドアをノックする音が聞こえた。
「入れ。」
ドアを開けて入ってきたのは無愛想な顔で全身真っ黒の服を来た剣客。両腰には2本の刀、長い後ろ髪を一つに束ねている。
彼の名は、松平浩忠海軍中佐。米田に敬礼し・・・
「海軍中佐、松平浩忠。本日ただいま出頭致しました!」
「そうだ、これを忘れていたんだ!」
米田は立ち上がり手を叩いた。
「みんな聞いてくれ。今度花組副長として配属された、松平浩忠中佐だ。レニは知らないだろうから紹介しよう。」
松平浩忠中佐。大神の教官。凄腕の剣客で北辰一刀流と二天一流を使いこなす。かつて花組に増援部隊として配属されたことがある。
(http://sakurataisen.com・・「大神一郎暗殺計画」参照)
「しかし・・・出頭は正午としていたはずだ。何処で油を売っていた?」
「すいません。餞別代りに巻き上げた車がとんだ粗大ゴミで。」
「まあいい。」
大神は浩忠に声をかけた。
「中佐、お久しぶりです。」
「巴里で随分暴れたらしいな、大神。天狗になるなよ?今は浮かれて笑ってる場合じゃない。」
やや暗いムードだったが、それを何とかしようとさくらが切り出した。
「あの、松平さん。どうぞ。」
普通なら美人に酌を勧められて断る男はいないが、彼は例外だ。
「いらん。別命あるまで自室で待機している。じゃあ。」
浩忠が出て行こうとしたその時・・・・
ビーーーーッ!ビーーーーッ!!
敵襲を報せる警報が鳴り響いた。
「敵襲か!面白い!!」
浩忠は地下へ走っていった。
花組が知っている浩忠はのんびりしたマイペースな男だった。
「な、なんか、感じが違いますね。」
「やけに張り切ってるじゃん。」
「さあ、私たちも行きましょう。パーティーはお開きよ。」
花組の面々も地下へ急いだ。

地下1階 作戦指令室
大神達が到着する頃にはすでに浩忠は情報を確認していた。
「おいおい、勝手に先に進むなよ浩忠。」
「しかし、司令。俺の任務は奴らの壊滅にあります。俺としては一刻も早い壊滅をはかりたいのです。」
「それは結構だが、あまり先を急ぐとロクなことねぇぞ?」

米田より現状が知らされた。正体不明の魔操機兵が数体、この帝劇に向っているとのこと。全花組隊員に出動命令が下された。
直ちに出動。敵は脇侍10体程度で、いとも簡単に撃破できた。
しかし・・・・
ゴゴゴゴゴゴ・・・・・
「な、何だ、地震か!?」
浩忠が何かを睨みつけている。
「・・・・来たな・・・」
ドゴオオオォォォォォォォォッ!!
舞い上がる砂塵。その中から現れたのは、なんと太正12年に大神達が倒したはずの南光坊天海であった。
「フフフ・・・・。久しぶりじゃな、帝國華撃團!」
「て、天海!?」
「そんな・・・あの時、確かに死んだはずなのに・・・」
天海は大神達をあざ笑う。
「ククク・・・我は反魂の術で蘇ったのじゃ!!」
「誰がお前を!?」
「それは後々わかるであろう。今宵は挨拶代わりゆえ、これにて去るとしよう。」
宙を飛び、去っていく天海目掛けて浩忠が一撃を放つ。
「待ちやがれ、テメェ!!」
バシュウウウウゥゥゥゥゥゥゥッ!!
浩忠の放った閃光は天海に当たることなく消滅した。
『フハハハ・・・焦らずとも、いずれまた会おうぞ!帝國華撃團よ!!』

一体何者が天海を蘇らせたのか?何の目的で?そして、あと何人蘇らせたのか?全ては謎に包まれたまま、大神達は帰還するしかなかった。



To be continued・・・


キャスト

大神一郎
  陶 山 章 央

真宮寺さくら
  横 山 智 佐

マリア=タチバナ   アイリス
  高 乃   麗     西 原 久美子
桐嶋カンナ      レニ=ミルヒシュトラーセ
  田 中 真 弓     伊 倉 一 恵

山本五十六
  納 谷 悟 朗

南光坊天海
  宝 亀 克 寿

藤枝かえで
  折 笠   愛

松平浩忠
  堀 秀行


米田一基
  池田   勝


次回予告

おーっほほほほ・・・・みなさま、お待たせいたしましたわ。
この帝劇のトップスタア、神崎すみれが華麗に復帰・・・
えぇい!今度はあたいが主役だぜ!!
ちょいと、カンナさん!?

次回、愛の戦士たち第2話
「花組大戦争!?」
照和桜に浪漫の嵐!

暴れまくるぜ!チェストォッ!!


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