愛の戦士たち(第3話) 作・島崎鉄馬 |
第参話「あぶない戦士 危機一髪」
新撰組の公演がいよいよ始まった。帝劇始まって以来、初のアクションを中心にした公演ということで、初日から超満員の状態が続いた。
特に人気だったのはやはり、池田屋騒動のシーンだった。およそ30人の役者達が舞台狭しと暴れまわる大迫力のアクションシーンは幅広い年齢層に大好評だった。
さらに主役にさくらやカンナといったレギュラー陣を入れず、敢えて舞台上では新人の浩忠を入れたことで以前にも増して女性の入場者数が圧倒的に増えた。
当然、大神の仕事もそれだけ忙しかった。恒例のモギリの仕事を終え、ようやく一息ついていた所にかすみがやってきた。
「はい、大神さん。どうぞ。」
冷たく冷えた麦茶を運んできた。
「ああ、ありがとう。」
ゆっくりと飲んでいく。乾ききった喉に心地よく通っていく。
かすみは椿にも麦茶を渡した。
「いやぁ、今日はいつもより余計にお客さんが来たね。」
「そうですね、今日は初日ですから。立ち見の通路も立ち見のお客さんで一杯なんですよ。」
通常、立ち見は禁止されているのだが、あまりにも早く入場券が売り切れてしまい、追加公演を決定してもなお買えなかった客がたくさんいて追いつかない始末だったので、当日券に立ち見の券を加えた。
「新撰組だもんな、俺だって見たいよ。」
一流の剣客でもある大神には新撰組は当然憧れの的である。
椿が思い出したように声を上げた。
「そうそう!今度、浩忠さんのブロマイドが出たんですよ!」
「え!?中佐の!?」
椿が見本を持ってきた。土方歳三に扮した浩忠が血刀を構えてこちらを睨んでいる。
「うわぁ・・・迫力あるなぁ、さすが中佐だ。はまり役だね。」
「そう言えば、さっき早くも女性の方が失神して運び出されてきましたよ。」
まだ始まって10分しか経っていない。
「もうですか!?マリアさんの15分を上回っちゃったじゃないですか!!」
「ええ、新記録達成ね。やっぱり本当の男性だと違うわね。」
そんな話をしているとマリアと由里が走ってきた。
「隊長、司令がお呼びです。」
マリアが「支配人」ではなく「司令」と呼ぶときは大抵何かある。
「わかった、すぐ行く。」
「あ、大神さん。あとは私がやりますから。」
大神に代わって受付に座った。
「ああ、ありがとう。じゃあ。」
マリアとともに支配人室へ向った。
「大神一郎、マリア=タチバナ。ただいま出頭致しました!」
2人ともビシッと敬礼して入ってきた。
米田は支配人の顔ではなく、帝國華撃團総司令の顔になっていた。
「来たか。2人とも座れ。話がある。」
「はい。」
椅子に腰掛け、米田が話すのを待つが米田はまるで気持ちを落ち着けるかのように煙草に火を点けた。
「ふう・・・実は、おめぇ達2人にちょいとしんどい仕事を頼みたいんだ。」
「しんどい仕事?」
「・・・・・実はよ、敵の基地に潜入してもらいてぇんだ。」
「潜入と言われましても、敵の正体も基地の在り処もわからないのにですか?」
マリアの質問に米田は即座に答えた。
「基地の在り処はわかった。昨日、月組の真田が不審な男を捕まえてな、尋問したところ、こいつが敵のスパイだったってわけよ。」
「成る程・・その男が基地の在り処を?」
「そうだ。今、敵の首領の正体を尋問している。スパイ程度がどこまで知っているかどうかはわからんが、聞き出せるだけ聞き出すつもりだ。何しろ何と言う組織かもわからんからな。」
初めに天海が帝劇前に現れて早くも1ヶ月が過ぎようとしていたが、未だに敵の組織名が判明していなかった。
「加えて今回は公演の真っ最中だ。時間に寄っちゃ、花組の援護は受けられねぇかも知れん。」
当然、公演中は最低限の花組隊員しか出撃できない。下手をすれば援護はまったく受けられないことになる。
「だが、一応の事前策は執ってある。あまり期待はできんがな。」
その言葉の意味は後に判明するが、ともあれ2人にはこれまでにない危険な任務が与えられたということになる。
「しんどいかも知れんが、やってくれるな?」
「はい!」
大神もマリアも何の迷いも無く答えた。
「いい返事だ。成功を祈る!!」
その日の深夜、2人は敵の輸送部隊のトラックに潜り込み、潜入に成功した。気付かれないよう、補給品の敵の制服に着替えて。
まずはミサイルの格納庫を捜して歩き回った。
「広いな・・・これじゃ捜すのに一苦労だな。」
「ええ・・・ですがやらなければ・・・また人々の命がかかっていますから。」
「そうだな、俺たちがやらなきゃいけないんだ。」
2人は5日間基地内に潜伏したがなかなか見つからなかった。ミサイルがこの基地にあるのは間違いないということはわかったが発射日時と格納庫は不明のままとなっていた。
6日目。基地内のとある一室。
映像通信機の前で一人の少年が跪いている。彼の名は蒼き刹那。黒乃巣死天王の一人だった。
「・・・・来ています。」
画面に首領が映し出された。
冷たい笑みを浮かべているがどこか神々しい。
『大神一郎がか?何故わかる?』
「奴の霊力を感じました。タチバナ=マリアも一緒です。」
『そうか・・・この件に対しても冷静に対処できるな?』
「もちろんです。」
『奴を絶対にその基地から逃がすな!』
「彼は逃げません。私が相手をします。」
画面は消え、刹那は立ち上がった。
「ククク・・・さて、今度はどんな風に顔を歪めるかな、大神一郎、タチバナ=マリア?」
午前10時。遂に、大神とマリアはMX−20の発射時刻と格納庫の場所を突き止めた。
発射は今日の正午。残り2時間しかなかった。とりあえず帝劇へ連絡した。
「こちら大神、こちら大神。帝撃本部応答願います。帝撃本部応答願います。」
通信に出たのはかえでだった。
『こちら帝撃本部、藤枝かえで。』
「かえでさん、MX−20の発射時刻と所在がわかりました!」
『本当!?それで、いつなの?』
「2時間後、正午ちょうどです。」
『あと2時間ですって!?何てこと・・・今公演が始まったところなの。』
台詞をカットしたりすれば2時間以内で終わらせることは可能だが、それから御殿場へ向うには遅すぎる。だからと言って途中中止というわけにもいかない。
「・・・・かえでさん。ミサイルは、俺たちだけで何とかします。」
大神もマリアも武器は一切持ち込んでいない丸腰状態。戦闘時には花組が2人の武器を持ってくることになっていた。
『無茶よ!丸腰で敵と戦うなんて!!』
「かえでさん。誰かがやらないといけないんです。俺たちのほかに誰がやるって言うんですか?」
『・・・・・』
横で黙っていたマリアが通信に割り込んだ。
「副指令、私たちは必ず生きて戻ってきます。必ず・・・」
「マリア・・・」
『わかったわ。絶対に無茶はしないでね。』
「了解!!」
通信を切り、大神はマリアの顔を見た。涼しげな微笑を浮かべている。
「私は隊長を信じています。だから、生きて帰れそうな気がするんです。」
「マリア・・・ありがとう・・・君がいると心強いよ。」
マリアは少し頬を赤らめた。
「隊長・・・」
「・・・・。さあ、行こう!!」
2人は再び任務に戻っていった。
午前11時 発射制御室前
「・・・・やっぱり警備は厳重だな。」
「なるべく大事は避けたいですが、そうも行かないようですね。」
しばらく2人とも作戦を練っていた。
「よし、こうしよう。俺が囮になって警備兵を引き付ける。その隙にマリアは中に入ってミサイル発射を止めてくれ。」
「わかりました、隊長。」
「しっかり頼むよ。」
大神は口笛を吹きながら警備兵のところに来た。
「よお、異状ないか?」
警備兵達は一斉に銃を構えた。
「何者だ!所属を言え!!」
「所属?俺の所属を知りたいか?」
大神はニヤッと笑い・・・
「帝國華撃團、花組!」
「何っ!?」
ザシュゥッ!!
あっという間に2人斬り捨て、逃げ出した。
「逃がすな、追え!!」
生き残った全員で追いかけた。
誰もいなくなったところでマリアが制御室へ忍び込んだ。
追撃を振り切った大神は原子炉に来ていた。
(そうだ、原子炉を止めれば、この基地の機能は停止する。)
片っ端からコードやスイッチを壊し、原子炉を止める。
「よし、これで・・・・」
背後に気配を感じ、振り向いた。
そこにいたのは刹那であった。
「刹那!?」
「へえ・・・感心に覚えてたんだね、大神一郎。」
「忘れるものか、お前みたいに卑劣な奴は!」
かつて黒乃巣会と戦った折、刹那はマリアを人質に取り、大神を殺害しようとしたことがあった。
「卑劣・・・よく言われるよ。でもね、勝てばいいんだよ。何やっても勝てばいいのさ。『勝てば官軍』の世の中じゃないか。」
「黙れ!お前のように人間の自由を奪い、平和を乱す奴は断じて許さん!!」
「へえ・・・どうするのかな?僕と遊んでくれるのかな?」
大神は原子炉の鉄棒を引き抜き、正眼に構えた。
一方の刹那は鉤爪。これを相手に苦戦したのを大神は忘れていない。
(刹那は動きが速い。ならば・・・)
「行くよ!!」
刹那の姿が消えたその瞬間・・・
突然大神は刹那の姿のあったその方向へ突撃した。
ドスッ!!
突き出された鉄棒は刹那の腹に命中。刹那はその場に転がり、もだえている。
ドゴオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォッ!!
爆発音とともに、地面が激しく揺れた。
「何だ!?」
「隊長!!」
マリアが走ってきた。
「成功です!間もなくここは崩れます。脱出を!」
「よし、行こう!!」
2人は立ち去った。一方の刹那はようやく起き上がり、魔操機兵「蒼角」に乗り込んだ。
正午ちょうどに基地は大爆発した。その頃には大神もマリアも脱出していた。
「よし、戻ろう。」
「そうですね。」
とその時・・・どこからか声がした。
「そうはさせないよ!!」
現れたのは「蒼角」。脇侍も10体以上現れて逃げ場を失ってしまった。
「フフフ・・・これで終わりだな。」
しかし、その時、刹那の背後で声がした。
「大神!!ここは俺たちに任せろ!!」
現れたのは白い光武F−R。加山機である。
「なっ!?加山雄一!!」
「いかにも加山雄一だ!!刹那、お前は俺たちが倒す!!」
「こっちにもいるわ!!」
少し離れた岩場の上に紅い機体が現れた。
「エリカ=フォンティーヌ、ここに!!」
さらに・・・・
「グリシーヌ=ブルーメール参上!!」
「ロベリア=カルリーニ!!」
「コクリコもいるよ!!」
「北大路花火も参りました!!」
全員一箇所に集まり、ファイティングポーズをとった。
「巴里華撃團、参上!!」
欧州仏蘭西の守りの要、巴里華撃團の戦士たちであった。
「か、加山・・・みんな・・・どうしてここに?」
通信機に加山が映像を送ってきた。
『いよぉ、大神。どうやら間に合ったようだな。』
「どうしてお前がここに居るんだ?」
『米田司令から緊急連絡を受けてな。お前がヤバイらしいからすぐに来てくれと言われていただけさ。』
この時、大神は米田の言った言葉を思い出した。
『一応の事前策は執ってある。』
即ち巴里華撃團を呼び寄せることだったのだ。
『さあ、大神さん。光武F−Rは用意してありますから乗り込んでください!』
エリカとロベリアが通信に割り込んできた。
『マリア、アンタの機体も用意してあるよ。』
2人は加山達が時間を稼いでいる間に翔鯨丸で運んできた機体に乗り込んだ。
『隊長。』
通信機にマリアが映った。
「何だい、マリア。」
マリアの表情が少し堅くなっているように見える。
『その・・・先ほど、隊長がおっしゃいましたよね。私が居ると心強いって・・・私も・・・・隊長が居ると、大変心強いです。』
「マリア?」
『隊長、行きましょう。そして必ず生きて帰りましょう!!』
マリアの声は力強かった。何の迷いも無いマリアの心が表れていた。
「ああ、行こう。加山達が待っている。」
大神の心にも迷いは無い。
今の2人に恐れるものは何も無い。
加山達は余りにも素早い刹那を確実に捕らえることが出来ず、苦戦を強いられていた。
「くっ、チョロチョロ動きやがって!!」
ロベリアの鋭い鉤爪が刹那を襲うがかすりもしない。
「おのれ、刹那!グロース・ヴァーグを受けてみろ!!」
グリシーヌが斧を振り回して突進していく。
「もらったぁっ!!」
斧は刹那をとらえた、はずだった。しかし、まったく手応えは無い。
「グリシーヌ!後ろだ!!」
加山の声が響く。グリシーヌの背後に回りこみ、今まさに攻撃せんとする刹那。しかし・・・
「マジーク・ボンボン!!」
コクリコの攻撃が刹那の背後に炸裂。刹那は一瞬の隙を見せた。
「金枝玉葉!!」
あらかじめチャンスを覗っていた花火の放った矢が刹那に向って突き進む。
「まだまだぁっ!」
左腕で矢を叩き落し、攻撃態勢を整えた。しかしそこにエリカがガトリング砲を斉射した。
「ちっ!」
上空に飛び上がり、全弾回避した。
「今だ!龍飛鳳翼・鳳凰烈火!!」
大口径のガトリング砲を連射。刹那に5発ほど命中した。
刹那は落下しながらもバランスを整え、見事着地した。
「おのれ・・・貴様ら寄ってたかって攻撃しよって!!」
蒼角からまばゆい光が発せられるとともに、刹那の妖気が増大していく。
「許さんぞ!!魁・空刃冥殺!!」
無数の刃が巴里華撃團を襲う。加山達は避けきれず大打撃を被ってしまった。
刹那がとどめの一撃を放とうとしたその時、一発の銃声が響いた。
刹那の背後に白と黒の光武F−Rが現れた。
「大神!!」
加山達は起き上がり、態勢を整えた。一瞬よろめいた刹那だが、すぐに大神の方を向いた。
「大神一郎、タチバナ=マリア・・・貴様らも殺してやる!!」
マリアが銃口を刹那に向けて叫ぶ。
「出来るものなら、やってみろ!!」
「亡霊なんかに、俺たちは負けんぞ!!」
大神も続く。そして二刀を抜き、刹那に突進していく。
「無駄だ、僕にそんなのが当たるわけ・・・」
ドガアアァァァッ!!
蒼角の右腕が切り落された。
「なっ!?バカな!!」
「刹那ぁっ!!」
マリアが叫んだ。既に銃口を刹那に向けて身構えていた。
「受けよ、氷の嵐!!ダイアモンド・ダストォッ!!」
一発の弾丸が無数の氷の粒となって刹那を襲う。
「バカなぁぁっ!!」
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォッ!!
避けることが出来ずに蒼角は大爆発を起こした。
刹那は消滅し、敵の秘密基地も完全に破壊された。今回の任務は大成功だったと言えよう。
それも加山達巴里華撃團の援護があってこそだが。
「しかし・・いいタイミングで来てくれたな、加山。」
「もっと早くに来てもよかったんだがな。あまり早く来ても有り難味がないと思ってな。」
大神はニヤッと笑った。
「いい性格してるぜ、まったく。」
「あ!大神さん、あれ!!」
エリカが遠くの空を指差した。
第弐翔鯨丸がこちらに向ってきている。
「翔鯨丸・・・帝撃のみんなだ。」
「さてと・・・俺たちはそろそろ帰る。」
「何だ、会っていかないのか?」
「騒ぎはご免だし、欧州での新しい任務がある。あまりグズグズしてられないんでな。」
「そうか・・・・」
大神と加山は握手した。互いに何かを誓うように。
「帝都の平和、任せたぞ。」
「ああ、お前も、巴里の灯を消させるなよ。」
加山は巴里華撃團をまとめて欧州への帰路についた。
大神とマリアは帰っていく翔鯨丸を見送っている。
「隊長・・・」
「ん?」
マリアの顔が赤くなっている。
「その・・・ほんの数日の間でしたけど、隊長と2人っきりになれて、嬉しかったです。」
普段のマリアからはとても想像できない言葉だ。
「できれば、いつか任務ではなく、2人でどこかに行きたいですね。」
それがマリアの精一杯の言葉だった。
「・・・・・。そうだね、今度は横浜にでも繰り出そうか。」
「はい!」
2人は翔鯨丸に拾われ、帝都へと戻っていった。
To be continued・・・
キャスト
大神一郎
陶 山 章 央
加山雄一
子 安 武 人
エリカ=フォンティーヌ グリシーヌ=ブルーメール
日 高 のり子 島 津 冴 子
コクリコ ロベリア=カルリーニ
小 桜 エツ子 井 上 喜久子
北大路花火
鷹 森 淑 乃
藤井かすみ 榊原由里
岡 村 明 美 増 田 ゆ き
高村椿
氷 上 恭 子
蒼き刹那
石 田 彰
首領の声
難 波 圭 一
米田一基
池 田 勝
マリア=タチバナ
高 乃 麗
次回予告
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