六月四日。
池田屋には相変わらず続々と浪士が詰め掛けていた。
主人の惣兵衛は商売繁盛だが部屋が足りなくなるという嬉しい悩みを抱えていた。
「はあ・・・もう22人や。満員やな。どないしょ。」
そこへ、いつものように山崎が帰ってきた。
「やあ、どうも。ただ今戻りました。」
「ああ、これはこれはご苦労さんどす。せやけどお祭りの最中で、薬なんか買う人おますのか?」
「ははは・・・飲み過ぎ食べ過ぎに効く薬が飛ぶように売れましたよ。みなさん、祭りを楽しんでいるようですな。」
「そうですか。あ、せや。あんさんにお願いがおますんや。」
「何ですか?」
「上の部屋、もう満員でして、2日ばかり開けてもらえまへんやろか?」
「ああ、そんなことですか。私は寝るだけですから、どこでも構いませんよ。」
「いやぁ、助かるわ。何せもうお侍さんばかりが22人もおられるんや。」
山崎は平静を装いながらも、その言葉をしっかり記憶した。
「へえ。お侍さんばかりが、22人も・・・」
「泊まるのは宵山の夜までやっち言うてなさったけど・・・せやけど、変でっしゃろ?部屋に篭りっ放しで誰も外に出えへん。けったいな客やで。」
桂を除く志士たちは集結を完了し、計画の打ち合わせを行っていた。
「古高俊太郎と押収された武器をどう奪回するかが問題ですな。」
「こうなれば仕方ない。桂先生に頼んで、藩邸から都合してもらうしかない。」
「新撰組が感づいている様子はないのか?」
「詳しい動きはわからんが、大丈夫だろう。」
「よし、・・・諸君。」
吉田が立ち上がり、全員に檄を飛ばした。
「計画の決行は近い! 何としても天子様を長州にお迎えするのだ!!」
「おおぉぉっ!!」
集結した浪士たちの士気は最高点に達していた。
その頃、竜馬暗殺に失敗した大神達は、桂に大目玉を食らっていた。
「馬鹿者!! お前達の勝手な行動で、我々の計画が新撰組に知れたらどうする!! 大神君! 君ともあろう者が・・・情けない!」
大神達はただただ黙って話を聞いている。
「それに何だ、このような一流の剣客が揃いも揃って、新撰組の幹部一人も討ち取れんのか!!」
「・・・・・」
「私の周りに馬鹿者がこれほど多いとは思わなかった!」
桂は怒りながら出て行った。
その後、河上彦斎が大神に謝った。
「すまないな、大神殿。我らが不甲斐ないばかりに、お主だけがお叱りを受ける破目になって・・・」
「気になさるな。やろうと言い出したのは私だ。責任は私にある。」
「・・・・それにしても、あの真宮寺竜馬という男・・・思っていたより手強い相手ですな。」
「ああ・・・・あれでもあの男は本気ではないのだ。」
岡田以蔵もそれに同意した。
「大神殿も感じられましたか。カンに触る男だ。こっちは本気なのに、向こうは手を抜いているとは・・・・」
「いずれにせよ。あの男が本気になったら、我らが束になってかからないと返り討ちに遭いますな。」
斯波正義は己の剣に絶対の自信を持っているためか、事をあまり重く見ていない。
「逃げるような腰抜けに、そんな実力があるとは思えんがな。」
「斯波殿、相手の力量が読めない剣客は、長生きできませんぞ?」
「・・・・・」
大神の言葉に、斯波は何も言わなかった。
結局、その日は何事も無く過ぎていった。そして・・・・
新撰組の最も暑い日、元冶元年・六月五日はやって来た。