愛の戦士たち(第8話) 作・島崎鉄馬 |
第八話「束の間の平和」
照和3年 元旦
冥界黒騎士団との戦いを終え、帝都に平和が戻った。
不穏な動きは全く無く、街にもかつての活気が戻ってきた。
大帝国劇場 楽屋。
綺麗に飾り付けされ、普段の楽屋のイメージから一転。宴会場となっていた。
米田が乾杯の音頭をとった。
「え〜、それでは新年を祝って・・・」
「かんぱ〜いっ!!」
花組の隊員たちが元気よく続き、各自の飲み物をグイッっと飲み干す。
大神も一気におとそを飲み干した。
「大神さん、新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。」
さくらが酌をしてくれた。
「ああ、こちらこそよろしく。」
美人に酌をされれば、当然酒は美味い。またまた一気に飲み干した。
「中〜尉〜。もっと飲みましょ〜」
すみれは既にベロンベロンになっている。
「す、すみれくんはどうしてそんなにすぐ酔えるんだい?」
「あら・・・わらくひが、酔ってはいけまへんの〜?」
甘酒でも酔えるほど、すみれは酒に弱い。
「オイオイ、酔っ払いが隊長にからんでんじゃねぇよ。」
カンナがすみれを吹っ飛ばして割り込んできた。
「よっ、隊長。まあ今年もよろしく頼むぜ。」
「ああ、よろしく。」
マリアも挨拶に来た。
「隊長、今年一年はゆっくり過ごしたいものですね。」
「ああ・・・そうだね。」
実際、大神が帝劇にいた時は常に何者かと交戦中だった。
「はぁい、中尉さーん!ハッピーニューイヤーでーす!」
織姫が嬉しそうに飛びついてきた。
「お、織姫くん!?何だい、いきなり?」
「何って、新年はこういう風に祝うものでしょー?」
織姫が一人で大神に引っ付いて離れないのを見て、他の花組隊員は「その手があったか・・・」と感心していた。
しかし、それを一人快く思わないものが居た。アイリスである。
アイリスの恋人に任命されている大神にベタベタと触られることはアイリスにとってはいただけない。
「あ〜〜!!お兄ちゃんはアイリスの恋人だよ〜!!」
織姫はそんなことはお構いなしだ。
「ウフフ・・・アイリスもこういう絵が似合う大人になりなさーい。」
「かぁ〜、織姫はんもよう言うなぁ。せやけどあんまり大神はんを独り占めすると、ウチもちょっと起こるで。」
「わかりました、今日はこれくらいにしといてあげまーす。」
ようやく織姫が大神から離れた。
「ふう・・・・」
ずっと織姫に抱き締められっ放しだった大神は呼吸困難に陥っていた。
「隊長・・・大丈夫?」
レニが心配そうに大神の顔を覗き込んでいる。
「ああ・・・・何とか・・・」
宴会も盛り上がってきたところでかえでが手を叩いた。
「みんな聞いて。実は今日、花組に新人が来ることになっているの。」
「え?花組に、また仲間が増えるんですか!」
「ヤッター!また新しい人が来るんだって、ジャンポール!」
さくらやアイリスがキャッキャ言いながら喜んでいる。
「それで・・・どんな人が来るんですか?」
「名前は、佐伯清志と黒田琴音。2人は福岡にある星野鉄鋼の社員よ。」
星野鉄鋼とは、神崎財閥の系列会社で、社長は星野和義。神崎忠義とは古い仲で、帝國華撃團の創設にも一役買っている。霊子甲冑の建造に必要なシルスウス鋼を輸入してくるのが彼らの役目だ。
「へえ、男一人。女一人ってわけかい。」
「その2人も、霊子甲冑に搭乗できるのですか?」
「もちろんよ。既に訓練も積んでいるわ。今日の午後3時に東京駅に着くことになっているわ。」
「3時か・・・明冶神宮に参拝してからでも十分間に合うな。」
「そうですね。それじゃ、今から行きましょう。」
花組一行は明冶神宮に向った。参拝客でごった返している。
「まったく・・・他に行くところは無いんでしょうか?」
すみれは人ごみが嫌いで、ご機嫌斜めだ。
「そう言うな。アタイらだって、ここに来てんだから。」
「みんな、はぐれちゃダメよ。ちゃんとついて来てね。」
やっとのことで賽銭箱の前まで辿り着いた。
「よし、じゃあ願い事を言おう。」
全員目を閉じて柏手を打つ。
(この平和が長く続きますように・・・)
(大神さんといつまでも一緒にいれますように・・・)
(カンナさんの頭の悪さが治りますように・・・無理でしょうけど・・・)
(この先、戦いが起こりませんように・・・)
(ええ発明が浮かびますように・・・)
(もっともっと強くなれるように・・・)
(世界中の人が私を見に来てくれるよーにしてくださーい・・・)
(この花組がいつまでも一緒にいれるように・・・)
らしい願い事と言えばそうだが、大神やマリアの願い事はある意味で矛盾している。帝撃は敵から帝都を守るためにあるものなのだから・・・
「・・・。さあ、東京駅に行こう。」
「新しい人のお迎えだね!!」
一行は人ごみから脱出し、東京駅へ向った。
午後3時 東京駅
駅近くの知人の家に行っていた鉄馬と合流し、出口で新人を待つことにした。
「遅いなぁ・・・」
「もしかして、出口がわからないんじゃありませんか?」
さくらの言葉に鉄馬が吹き出した。
「ふっ、あいつらなら迷いかねんな。」
「え?兄さんは、お2人をご存知なんですか?」
「ああ、あいつらとは古い付き合いだ。」
その時、マリアが遠くを指差した。
「あ、あの2人じゃないですか?」
遠くであたりを見回している者がいる。
「・・・・ああ、確かにそうだ。」
鉄馬が手を振って場所を知らせた。
それに気付いた二人は真っ直ぐに向って来る。
「よお、やっと来たな。」
「お久しぶりです、鉄馬さん!」
男性が元気よく話し掛けてきた。
短く切られた髪の毛。整った顔立ち、黒い肌。しかし不自然なほどに着膨れしている。
「紹介しよう、佐伯清志と、黒田琴音だ。」
2人はかるくお辞儀をした。
「始めまして、佐伯清志です。仇名は勇士っていわれとる。オイもその仇名が気に入っとうとよ。よろしくな。」
陽気に博多弁を使う清志に対し、琴音のほうは・・・
「あの・・・始めまして・・・黒田琴音です・・・よろしくお願いします。」
茶色の髪の毛をおかっぱにしている。身長はことのほか小さい。レニと同じくらい(147cm)しかない。
「随分小さいな、いくつだい?」
カンナにとっては普通の目線では視界に入らない。
「はい、あの・・・今月の15日で20歳になります。」
「かぁ〜、はたちでその身長かいな!?」
アイリスが首をかしげている。
「ねえ、はたちってなに?」
横にいたレニが説明する。
「はたちって言うのは日本でいう20歳の別の呼び方なんだ。同じように、30歳を三十路、40歳を四十路って言うんだ。」
「へえ・・・・よくわかんなーい。」
事実、日本語には同じ意味の単語(あなた、きみ、お前=you・わたし、自分、俺=Iなど)が多数存在していたりする。また、外国語では一つで現されているのに、状態で変化する単語(米、飯、稲=rice)もある。これが日本語が難しいと外国人に言われる所以である。
「・・・それにしても、随分と着膨れしていますね。」
清志の格好は明らかに不自然だ。
「ははは・・・こいつはな、面白いぞ。おい、清志。腕を伸ばせ。」
「はい。」
清志は勢いよく腕を伸ばした。
カチャッ
腕の袖からデリンジャー銃が出てきた。
「なっ!?」
「すごい・・・」
「まだまだ・・・」
鉄馬が次々と清志の武器の在り処を当てていく。
両腕、両足に隠し銃1丁ずつ。背中に携帯バズーカ1丁。胸のポケットには手榴弾が2発ずつ。腰にはガンベルト。ズボンのポケットからはナイフが一本ずつ。
さらに持ってきた鞄の中には組み立て式ライフル、大型バズーカ、軽機関銃などが入っていた。
「あなた、武器の運び屋?よく汽車に乗れたわね。」
「いやぁ、最低こんくらいの装備はいるかと思っとったとよ。東京はヤバか町と聞いとったけん。」
それにしては過剰な装備だ。
「相方はやけにスマートだぜ?」
「あの・・・私も、槍を・・・・」
大きな鞄から二本の短い槍を取り出した。
「出た、二刃乃槍。」
鉄馬がそう呟いた。
「二刃乃槍って・・・どういう意味ですか?」
鉄馬が槍を手に執った。
「これはな、こうすると・・・」
2本の槍の柄頭を連結させ、一本の槍になった。
「ホラ。こことここに一つずつ刃がついてる。だから、二刃乃槍っていうんだぜ。」
「て、鉄馬さん!しまってください!恥ずかしいから・・・」
琴音が顔を真っ赤にして槍を解体した。
一行は帝撃に戻り、2人の歓迎会を兼ねて、新年会の続きを行った。
翌日 支配人室に一人の男が訪れた。
男の名は深川の千葉助。『少年レッド』の原作者として知られている。その彼が新作を米田に見せに来たのだ。
「んで?その新作ってのは、どんなんだい?」
「いやぁ、新作っていうよりも、『少年レッド』の番外編って言う感じなんですけどね。『バトルライダー』って言うんですよ。」
「『バトルライダー?』それをやるのは誰なんでぇ?」
「へぃ、実は、松平浩忠さんにお願いしたいと思ってまして。」
「何っ!?」
松平浩忠と言う男はこの劇場にはもう存在していなかった。浩忠の正体が鉄馬だったということは既に花組には知らされていたが、外部には鉄馬と浩忠は別人と言うことにしていたのだ。
「?・・・何か、悪いことでも?」
「いや・・・実は、松平はもうここにはいねぇんだ。」
「いない!?なぜですか!?」
「いや・・・その・・・あいつな、秋の公演の稽古中に舞台から転落してな、ケガでもう舞台には立てねぇんだと。」
「そうですかい・・・残念だなぁ・・・・いい役者さんだったのに・・・・」
どうやら話を信じてくれたようだ。米田はホッとため息をついた。
「まったくだ・・・だが、その代わりはいるぞ。浩忠に負けず劣らずの俳優。真宮寺さくらの兄で、真宮寺鉄馬ってんだ。顔も似てるし声も似てる。どうだ?使ってみねぇか?」
「そうですか!さくらさんのお兄さんなら、さぞかし運動神経も抜群なんでしょうなぁ!」
「それは俺が保証するぜ。カンナといい勝負だ。」
交渉成立。千葉助の新作、映画『バトルライダー』の主役は鉄馬に決まった。『少年レッド』の番外編でもあるこの作品は早速正月明けに撮影が開始された。
台本などは既に完成していたため、稽古はすぐに開始された。
花組に『バトルライダー』の配役が知らされた。
鮫島一輝
バトルライダー1号
真宮寺 鉄 馬
湯川マサエ
真宮寺さくら
ドクロX 熊殺しのゴウリキ
マリア=タチバナ 桐 嶋 カンナ
貴公子デューク 千本杉のオババ
レニ=ミルヒシュトラーセ ア イ リ ス
地中海の赤い風 悪の手下その一
ソレッタ=織姫 神 崎 すみれ
山岡健二
バトルライダー3号
真 田 俊 樹
湯川博士
米 田 一 基
少年レッド
李 紅 蘭
物語はこうだ。ドクロXが科学者達に命じて少年レッドを抹殺する改造人間3体を開発させた。3体に選ばれたのは鮫島一輝、石毛博、山岡健二の3人。3人は一流のバイクレーサーとして知られていた。ドクロ4人衆は直ちにこの3人を拉致。改造手術を施した。
最も早く完成した鮫島はライダー1号として少年レッドに戦いを挑んだ。
「少年レッド!この俺に勝てるか?」
谷の中央で鮫島とレッドは対峙した。
「お前がドクロ軍団の新しい仲間か!?」
「フフフ・・・貴様が少年レッドに変身しているように、この俺もまた変身するのだ。」
「なっ!?すると、お前もボクと同様・・・」
鮫島は両腕を右方向に突き出し、そのまま徐々に腕を上へ上げていく。
「変身!!」
一気に腕を下ろし、胸の前で十字に組む。
「トオォッ!!」
大ジャンプするとまばゆい光に包まれた。
光が消えるとそこにいたのは赤い目のある青いマスクをかぶり、黒い戦闘服を来た戦士だった。
「行くぞ、少年レッド!!」
バイクにまたがり、レッドに突っ込んでくる。
「トォッ!!」
レッドも愛車・レッド号に乗り、戦う。
やがてレッドは一瞬の隙を突き、レッド号で体当たり攻撃をした。
「うわぁっ!?」
1号は頭から転倒。バイクは爆発、炎上してしまった。
「・・・生きているか・・・」
1号は起き上がった。しかし・・・・
「・・・・俺は・・・・俺は・・・・」
レッドは1号の側に駆け寄った。
「君・・・大丈夫か?」
「レッド?・・・少年レッドじゃないか!?教えてくれ、俺は一体、何をしていたんだ!?何なんだ、この体は!?」
「・・・覚えてないのか・・・」
レッドは鮫島が改造人間にされてしまったことを告げた。
自分が人間でなくなってしまったことに、鮫島はショックを受けた。自殺しようとしたが、レッドが説得。ドクロXに復讐を誓った。
少年レッドはドクロ軍団の別計画を追って東京を離れ、バトルライダー1号・鮫島一輝が東京を守ることになった。
少年レッドの後見人でもあった湯川博士の作ったバイク『ドラゴンウィング』を操り、必殺技『バトルライダーキック』などを使って次々とドクロXの怪人たちを倒すライダー1号。
しかしある日、突如バトルライダーが軍の施設を攻撃。破壊の限りを尽くした。ライダー3号・山岡の仕業だった。
鮫島は自らの潔白を晴らすべく、少年レッドと共に山岡率いる怪人軍団に戦いを挑む。
というのが主なストーリーで、撮影も順調に進んだ。
その頃、恐山の地下では・・・
大勢の降魔が集結し、跪いている。
一段高くなった所に三人の大幹部が立った。彼らは三銃士と呼ばれる。筆頭は不知火。そして陽炎と時雨。
「これより、冥界神風隊の結成式を執り行う。」
時雨が開式を告げた。
筆頭の不知火が一歩前に出て、結成を宣言する。
「冥界黒騎士団は、新たに神風隊と手を組み、冥界神風隊となった。諸君には一層の働きを期待する。」
カーテンの向こうから首領の声が響く。
『諸君。冥界神風隊の結成、おめでとう。ところで早速、諸君には働いてもらう。諸君も知っての通り、帝國、巴里、両華撃團とは別に、我々に対して抵抗活動を展開している集団がある。』
陽炎が一歩前に出る。
「例の神宮党ですな?」
『そうだ。その神宮党の欧州支部が余の正体を掴み、それを日本本部に運んでくるというのだ。活動前に、余の正体が悟られてはいかん。直ちに手を打て!』
「はっ!!」
三銃士は跪く。同時に、降魔も一斉に跪く。
翌日、引き続き『バトルライダー』の撮影が続けられた。
そんなある日。米田のもとに一人の男性が尋ねてきた。
藤原政治と男は名乗った。その名を聞いただけで米田はこの男が何者か理解した。
神宮党首領、藤原政治。神宮党とは、かねてより日本を中心に犯罪行為を行ってきた世界的犯罪組織である。
「それで、神宮党の首領が自ら何の御用で?」
藤原は真っ直ぐに米田の目を見ている。
「神風隊を、知っていますね?」
「ああ・・知ってるよ。東北一体を牛耳ってる組織だろ?」
「その通り。その神風隊が、冥界黒騎士団の残党と手を組み、新たに冥界神風隊となったのは、知ってますか?」
「黒騎士団の残党と?生き残りがいたのか!?」
「思い返してみてください。撃退したメンバーの中に、何人かいない者がいたはずです。」
確かに、黄昏の三騎士などは撃破されていない。行方不明のままだった。
「じつは、その冥界神風隊の首領の正体を欧州支部が暴いたとの報せを受け、是非、帝撃にも立ち会ってもらいたいと思いまして。」
「なるほど・・・しかし、何故だ?ウチとあんたらは敵同士のはずだ。」
「奴等を叩きのめすという目的は同じ。今は、手を組んでもいいと言っているだけだ。勘違いされては困る。」
米田は政治の目を見た。とてもうそをついているような顔ではない。
「わかった。こちらとしても、敵の首領の正体は知っておきたい。」
「同盟成立だ。では、早速・・・・」
米田と大神は政治の案内で港に着いた。
「遅いですな、もう時間のはずだが・・・」
大神が人影に気付いた。
「あれでは?」
黒服に身を包んだ男がやってきた。
「・・・・これを。」
男は大きな鞄を差し出し、政治が受け取った。
「ご苦労・・・気を付けて帰れ。」
『フフフ・・・気を付けるのはお前達だ!!』
男の正体は黄昏の三騎士の一人、鹿だった。
「出でよ!降魔!!」
地中から降魔が出現。大神たちは取り囲まれた。
「何!?降魔!?」
「驚いたか、大神!こいつらは我が首領の力で蘇った、降魔二世部隊だ!!」
「二世部隊だと!?」
蝶も現れ、大神たちは完全に包囲された。
「これでお前達も最後よ!!」
その時、どこからか声がした。
『その言葉はお前達にお返しだ!!』
現れたのは漆黒の神龍。鉄馬だ。
「真宮寺鉄馬か!?」
鹿が叫ぶ。さらに続いて蒼い霊子甲冑が5機現れた。
「な、何だ!?」
大神には見慣れない機体であった。
「帝國華撃團・龍組、見参!!」
「りゅ、龍組!?」
大神には全く知らされていない部隊だった。
なぜ、彼らがここに現れたのか。いや、それよりも何故、鉄馬が彼らと一緒なのか。
「おのれ、華撃團め。俺たちの任務は貴様らと戦うことではない。引き上げだ!!」
降魔たちは地中に消えて行った。
龍組もそれを追うかのように飛び立っていった。
「・・・・・」
大神はわけがわからず、呆然としている。
「司令・・・今のは・・・?」
「あれか?あれはな、鉄馬が独自に創った部隊だ。帝國華撃團・航空支援部隊、龍組。花組を上空から援護する戦闘機部隊だ。」
昨年末に鉄馬の呼びかけで創られた新部隊で、鉄馬が自ら隊長に就任している。花組副長と兼任という形を執っている。
「・・・思ったとおり、こいつは偽物だ。」
政治が鞄を開けて、中身を確認した。書類は全て白紙だった。
「では、本物はどこに?」
その時、どこからか声がした。
『本物はここだ。』
白い服を着た男が鞄を持って近づいてくる。
帽子とサングラスで顔は見えない。
「・・・・欧州の神宮党が、俺を選んだんです。」
サングラスを外すと、そこには大神のよく知っている男の顔が現れた。
巴里華撃團隊長にして、大神のライバル。加山雄一である。
「加山!!お前、なんでここに!?」
米田ですら驚いている。まったく知らされてなかったのだ。
「正月ぐらい、ゆっくりと日本で過ごしたいと思いまして。」
加山は鞄を手渡そうとするが、大神が横からそれを制する。
「待った。今度も偽物と限らない。俺が明けましょう。」
しかし、加山は鞄を渡さない。
「・・・・大神、いつからそのネクタイを?」
緑色であるはずのモギリ服のネクタイの色が黄色になっていた。米田もそれに気付いた。
「そういえば、お前!?」
大神は鞄を力づくで奪い取った。
『少しばかり気付くのが遅かったぜ。加山、欧州からはるばる運び役ご苦労。こいつはありがたくこの俺・・・』
変装の仮面を剥ぎ取った。現れたのは陽炎。
「冥界神風隊三銃士・陽炎が頂戴する!」
「陽炎め、むざむざそれを渡すわけにはいかん!!」
加山は陽炎に飛び掛るが、歯が立たない。
「ハハハ・・・加山雄一!光武に乗って来なかったことが不運だったな。貴様らまとめて片付けてくれる!!」
確かに、いくら加山とは言え、生身で敵の幹部と渡り合うことは出来ない。
「華撃團など、俺が手を下せばチョロイものだ!!」
『そうかな、陽炎!!』
どこからか声がした。倉庫の裏から現れたのは白い神龍。
『この俺に勝てるか!!』
「む?・・・本物の大神一郎!!」
大神は刀を抜き払った。
「俺と勝負だ。行くぞぉっ!!」
大神機は空高く舞い上がり、一気に急降下してくる。
「狼虎滅却・無双天威!!」
ドゴオオオオオオオォォッ!!
「ぐおっ!?」
命中こそしなかったが衝撃で陽炎は吹っ飛ばされた。
衝撃で手放した鞄を加山がキャッチ。
「大神、こいつは引き受けた!」
陽炎は立ち上がり、妖気を集める。
「おのれ・・・そいつをよこせ!!」
妖力を集めて光弾を作り、加山に向けて撃つが・・・
「お前には渡さん!!破ぁぁぁっ!!」
大神の気合で光弾は消滅した。
「おのれ・・・・こうなったら貴様らを道連れにするまでだ!!」
ヒュルルルルル・・・・・ドゴオオオオオオオオォォォォォッッ!!
自爆する前に爆発。陽炎は消滅した。
「何だ!?」
通信が入った。
『大丈夫か、隊長。』
清志の声だった。
「おう、いいタイミングで来たな。」
『オイシイとこを持っていくんがオイの癖タイ。悪かね。』
「ははは・・・その調子でこれからも頼む。」
『了解。』
政治が鞄をチェックして書類を確認した。
「間違いない。本物だ。」
「それで、何と?」
「いや、まだわからん。こいつは我々の仲間内で使っている暗号だ。解読には1週間かかる。」
「そうか、一刻も早く首領の正体を知りたかったんだが・・・」
「解読が出来次第、連絡を入れる。では・・・」
政治は車に乗って去っていった。
「・・・・・彼、連絡してきますかね?」
「ああ・・・くるさ。あいつの目に、うそは無かった。」
大神たちは帝撃に帰投。加山も帝撃に戻った。
翌日、「バトルライダー」の撮影に問題が生じた。
ライダー2号・石毛博役の俳優がまだ見つかっていないのだ。撮影も終盤に移り、少年レッドとダブルライダーでドクロ軍団に戦いを挑むシーンにかかろうとしていた。
「困りましたわね・・・・2号役が見つからないなんて・・・」
「2号が居らんと、クライマックスの撮影がでけへんなぁ。」
千葉助はもちろん、花組の面々にとっても頭の痛い問題だった。
「その・・2号の設定はどんなものなんですか?」
千葉助が初期設定を読み上げる。
「石毛博・・・バトルライダー2号。容姿端麗。特技はオートバイと射撃。極めて陽気だが戦闘中は沈着冷静。頼れる存在っていうのが初期設定なんですが・・・・」
「やっぱり、清志さんにお願いするしか・・・」
「ばってん、オイはバイクに乗れんとよ?」
何度か清志に2号役をやらせるという話は出たが、本人がバイクに乗れないことと博多弁が抜けないことが原因で没になっていた。
「ちょっと待って、ピッタリの男がいるよ。」
大神が加山の顔をニコニコしながら見た。
「・・・・・?・・・お、おい、俺か?」
千葉助もそれに賛同する。
「おお、いいねぇ!よし、2号役はアンタに決まりだ!!」
「よっしゃ!んじゃ、早速取り掛かろうぜ!!」
「頑張って遅れた分を取り戻しましょう!!」
意気込む花組だが加山はまだボーっとしている。
「おい、大神。これは貸しにしとくぞ。」
「ははは・・・いいじゃないか。目立ちたがり屋にはいい仕事じゃないか。」
「・・・そうだな。よし、俺の演技力を見せてやるぞ。」
「頑張れよ、ライダー2号!」
かくして「バトルライダー」の撮影が再開された。
そして、ストーリーもクライマックス。ダブルライダーは悪事の限りを尽くしたライダー3号を追い詰めた。
「おのれ・・・ダブルライダーめ・・・・」
3号は既にフラフラしている。
「今だ、行くぞ!!」
「トオォッ!!」
1号、2号そろって大ジャンプ。空中回転して急降下してくる。
「バトルライダー・ダブルキック!!」
ドガアアアァァァァァァッ!!
止めを刺された3号は大爆発を起こした。
「カット!!」
千葉助の声が響いた。
撮影終了。何とか、無事に予定期間内でクランクアップした。
翌日、加山は港から船に乗って巴里へ戻ることになった。
「じゃあ、俺はもう行く。」
「ああ、向こうのみんなによろしく。」
「お前も、しっかりやれよ?」
2人は握手した。互いの意志を確認するかのように。
加山雄一は再び欧州へ戻っていった。まだ正月の酔いも醒めない1月7日の寒い日の朝のことだった。
To be continued・・・
キャスト
大神一郎
陶 山 章 央
佐伯清志
鈴 置 洋 孝
黒田琴音
久 川 綾
真宮寺さくら 神崎すみれ
横 山 智 佐 富 沢 美智恵
マリア=タチバナ アイリス
高 乃 麗 西 原 久美子
李紅蘭 桐嶋カンナ
渕 崎 ゆり子 田 中 真 弓
ソレッタ=織姫 レニ=ミルヒシュトラーセ
岡 本 麻 弥 伊 倉 一 恵
真宮寺鉄馬
堀 秀 行
藤枝かえで
折 笠 愛
陽炎 鹿 蝶
若 本 規 夫 辻 親 八 石 田 彰
首領の声
難 波 圭 一
藤原政治
中 村 大 樹
深川の千葉助
千 葉 繁
米田一基
池 田 勝
加山雄一
子 安 武 人
次回予告
いよう、大神ぃ。 |