愛の戦士たち(第7話)  作・島崎鉄馬

第七話「この命ある限り」


 日本橋地下大空洞。
 かつて帝撃と黒乃巣会が壮絶なる戦いを繰り広げたこの場所は落盤で完全に崩壊したが、首領の力で元の姿に戻された。
 ミロクに捕えられたさくらは十字架にかけられ、首領の前に晒されていた。
「・・・お前か、破邪の血を引く女とは。」
 さくらからは首領の顔は見えない。
「・・・・あなたが、冥界黒騎士団首領、ハーデス?」
「ほお。なぜ余の名を知っている?」
「紅のミロクが、雷を落とす前にそう叫んだわ。」
「そうか。あの女がな・・・」
 ハーデスの脇から2人の男が現れた。
 サタンと天海の2人だ。
「久しぶりだな、真宮寺さくら。」
「・・・サタン?あなたまで・・・」
 サタンとは葵叉丹こと山崎真之介の肉体に眠っていた堕天子のこと。
「ククク・・・貴様さえ捕えれば、破邪の力を使える者はいなくなる。この機を逃す手は無い。間もなく攻撃部隊が出撃する。」
「・・・・・くっ!」
 さくらは何とか十字架を抜け出そうとするが鎖で完全に動きを封じられているため、まったく動けない。
「無駄じゃ、お前の力では外れん。」
「貴様には特別に帝國華撃團が全滅するのを見せてやろう。その顔が、どう歪むかな?」
 ドゴオオオオオオオオオオオオォォォォォォッ!!
 爆発音と共に部屋のドアが倒れた。
「何だ!?」
 煙の中から現れたのは漆黒の服を着た男。長い後ろ髪を束ね、二本の刀を持っている。
「貴様は!!」
 天海は顔を知っているようだった。
「帝国陸軍対降魔部隊準隊士、真宮寺鉄馬!!」
 そう男は名乗った。
 準隊士とは言え、父一馬と共に降魔戦争を戦い抜いた男だ。
「ふっ、今は松平浩忠ではないのか?どちらでも同じこと。一人で来るとはいい度胸だな?」
「それで、何をしにきたのじゃ?」
「知れたこと・・・さくらを取り戻しにきた。」
 鉄馬は二刀を抜き放ち、十字に構えた。
「貴様、我ら2人を倒すつもりか?」
「違うな、貴様らを、殺す!!」
 鉄馬は猛然と突進し、天海を斬りつけた。
天海は右肩を斬られたがピクリとも動かない。
「どうした、そのままあの世に帰るつもりか?」
「ククク・・・所詮貴様は出来損ない。わしが確実に貴様を葬り、スクラップにしてやる!」
「スクラップ?」
 さくらには意味がわからなかった。天海は冗談や皮肉を言うような者ではない。
 その意味は後に判明するがともあれ、天海は鉄馬のほうを向き、鉄馬を睨みつけた。
「行くぞぉぉっ!!」
再び斬りかかろうとする鉄馬だが・・・
「・・・・かああぁぁぁぁっつ!!」
 天海は鉄馬に法力をかけた。
「ぐおっ!?」
 突然、鉄馬はまるで地面に引っ張られるように倒れた。
「兄さん!!」
 さくらが叫んでも、鉄馬は起き上がらない。正確に言うと、起き上がれないのだ。
「苦しいか、鉄馬?いま、お前の体は普段の20倍の重さになっておるのだ。蛙のように這いつくばって死ぬがいい!!」
「ぐ・・ぬぬぬ・・・・!!」
 いくら起き上がろうとしてもまったく体が動かない。
「つまらん・・・破邪の剣士もこの程度か・・・もう少し楽しめるかと思ったのだが・・・」
「ふん。貴様にはもう少し怒ってもらおうか。」
 天海はさくらを睨みつけた。
「かああぁぁぁぁっつ!!」
「ぐっ!?」
 さくらも鉄馬と同じように重力が加えられた。
「さくら!?・・・貴様・・・さくらに何を・・・」
「ふふふ・・・法力を少し強めにかけた。もってせいぜい2分。この小娘がどれだけ絶えられるか、見物だぞ鉄馬。貴様が先に死ぬか、それとも小娘が先に死ぬか。」
 天海は笑いながら鉄馬の顔を覗き込む。
「さて、後何秒もつかな?」
「さあな。」
 鉄馬が顔を上げた。なぜか余裕に満ちている。
「何っ!?」
「破あぁぁぁぁぁっ!!」
 自らに気合を入れ、法力を解いた。
「何だと!?」
「貴様の法力はいわば気合の勝負。相手の気合を上回れば破ることなど造作も無い。」
「小癪な!!」
「さっさと殺すべきだったんだ、地獄に落ちろ!!」
 ザシュウウゥゥッ!!
 鉄馬の刀が天海の胴を貫いた。
「おわぁっ!?ば・・・バカな・・・」
 天海は力無く倒れた。
「さくら!!」
 さくらはまだ苦しんでいる。
「く・・・に・・・兄さん・・・・」
「もう少し頑張れるか?」
「・・・はい・・・」
 さくらは苦しみながらも笑顔を作った。
「・・・・よし。」
 サタンはさくらを見ながらじっと考え込んでいる。
(妙だな・・・なぜあの小娘の法力が解けん?天海が死ねば、法力は解けるはず・・・ということは・・・)
 鉄馬はサタンの方を向き、刀を構えた。
「サタン、貴様も倒す!!」
「・・・・ふん、小癪な。斬り刻んでやる。」
 2人の霊力が高まり、地響きが起こった。


 その頃、帝劇では・・・
 蒸気探信機が原因不明の波動をキャッチし、米田は花組隊員を集めた。
「つい先ほど、蒸気探信機が日本橋付近に強力な波動を捉えた。加えて、月組からの情報ではここに敵の首領、ミロクの言葉によれば、ハーデスがいるそうだ。」
 米田は一呼吸置いて続ける。
「そしてこの波動だが、これは敵の手によるものではない。」
 花組全員に動揺の色が浮かぶ。
「アイリス・・・わかる。・・・あの力、悪い人の力じゃない。」
「これほど巨大な霊気が敵のものでないなら、一体誰のものなのですの!?」
 すみれもアイリスも霊感が強く、他の隊員たちよりも霊力の波動には敏感である。
「それはな・・・」
 米田は話そうとしない。
「米田長官。」
 横にいたかえでに促され、ようやく米田は口を開いた。
「こいつは、真宮寺鉄馬の力だ。」
「真宮寺って・・・まさかさくらはんの!?」
「さくらの実兄だ。かつて、帝国陸軍対降魔部隊で準隊士として共に戦ったことがある。お前達よりも敵をよく知り、剣術の腕においてもさくらとは比べ物にならないほど上だ。」
 大神もこれには驚いた。
 さくらに兄弟がいたことなど全く聞かされていなかったからだ。
「しかし、司令。さくらくんは確か一人娘だと・・・」
 米田は下を向き、黙ってしまった。
「彼は、真宮寺家から追放されたの。」
 かえでが代わって話し始めた。
「みんなも知ってると思うけど、破邪の血を受け継ぐものは時として命を捨てて魔を封じなければならないというつらい宿命があるわ。」
かつて、さくらもその問題に直面したことが2度ある。
 1度目は黒乃巣会との戦い。
 帝都放棄を辞さない覚悟で黒乃巣会に臨んだ賢人機関は、米田に魔神器の使用を要請。しかし、その時さくらは原因不明の力に触れ、意識不明。魔神器の使える状況ではなかった。
 2度目は黒鬼会との戦い。
 陸軍のクーデターが勃発し、帝劇が占拠された時、米田は初めてさくらに破邪の血の宿命を話した。さくらは自分が命を捨てて帝都を守るべきか否かの重くつらすぎる選択を迫られた。それを見た大神はさくらの目の前で魔神器を破壊した。
「その宿命を彼は真っ向から否定したがために真宮寺家から永久追放されてしまったの。」
「へえ・・・さくらに兄貴がね。・・・で?そいつは今でも味方なのかい?」
「もちろん、味方よ。あなたたちにとっては心強い存在よ。」
 しかし、喜ばない者が居た。すみれである。
「自分の妹が死ぬか生きるかの選択を迫られている時に助けもせず、魔神器が壊されるなりノコノコと出てくるような弱い方の助けなどいりませんわ。」
「そうでーす!大体ムシが良すぎでーす。」
「黙れ、すみれ、織姫。」
 米田が怒った口調で2人を制する。
「あいつにはな、俺たちには理解できない特別な過去があるんだ。あいつは決して弱くない。それは俺が保証する。」
「それじゃ、何ですの?その方がこのわたくしよりも強いとおっしゃりたいのですか?」
「そうだ。・・・すみれだけじゃねぇ。大神、マリア、カンナ、花組全隊員よりも強い。」
 あっさりと答えられ、すみれは返す言葉も無かった。
「説明は以上だ。大神、直ちに出動し、さくらと鉄馬を救出しろ。それから、浩忠は今月組と行動中だ。戦闘には加われない。」
「了解しました。帝國華撃團花組、出動!!」


 その頃、鉄馬はサタンと凄まじい戦いを繰り広げていた。両者一歩も譲らない。
「くそ・・・こんな人間にてこずるとは・・・」
 鉄馬もサタンも疲れが溜まっている。
「俺をなめるなよ?・・・俺はただの人間じゃねぇ!!」
 鉄馬、サタンともに刀を振り上げた。
「はああああぁぁぁぁぁぁっ!!」
「やああああぁぁぁぁぁぁっ!!」
 中央で交差し、鍔競り合いになった。
 その様子をハーデスがじっと玉座から見守っている。
(これでは千日戦ったとしても決着はつかぬ。真宮寺鉄馬、侮り難し。)
 一方、天海の呪縛にかかったままのさくらは朦朧とする意識の中、鉄馬の戦いを見ていた。
(兄さん・・・勝って・・・必ず・・・勝って・・ね・・)
 さくらの命はいつまで持つかわからない。
 サタンは鉄馬の焦りを見抜いていた。
「どうした、鉄馬?早く天海を殺さねば妹は死ぬぞ。」
「黙れ!貴様から先に・・・」
「ほう。殺せるかな?」
 サタンはなぜか余裕に満ちた表情をしている。
「お前に人が殺せるのか?貴様、天海を殺そうと思えば殺せたはずなのに、わざと急所を外したであろう?」
「・・・・・」
 実際、天海はまだ息があった。
「天海の部下に前に聞いたことがある。貴様、古い友人と人を殺さないと誓ったそうではないか。」
 さくらもそれを知っている。鉄馬は生涯人を斬らないと誓っていたのだ。
「黙れぇぇぇっ!!」
 バキイイイィィィィッ!!
 鉄馬はサタンの顔を殴り、刀をサタンの顔に突きつけた。
「さくらを助けるためなら、俺は・・・人を斬る!!」
しかしサタンをまるで鉄馬をあざ笑うかのように見ている。
「だったら・・・今俺を殺せ。」
「・・・・」
 鉄馬は刀を振り上げた。
「・・・死ね。」
 今まさに鉄馬が刀を振り下ろさんとした時・・・
「やめてぇぇぇっ!!」
 さくらが叫ぶと鉄馬は刀をサタンの顔に触れる前で止めた。
「さくら!?」
 十字架にかけられたさくらは汗まみれになって鉄馬を見ている。
「兄さん・・・あたしのためなんかに・・・誓いを破らないで・・・」
 鉄馬はグッタリしたさくらに駆け寄った。
「さくら!!」
 さくらはゆっくり顔を上げた。ニコッと笑って。
「大丈夫・・・大丈夫ですから・・・兄さん・・・」
「まさかお前・・・自力で?」
「・・はい・・・兄さんに、これ以上つらい想いをさせたくないって、心で叫んだら・・・」
「お前・・・そんなことで?」
 鉄馬は少し笑っていた。
「・・・。兄さん、後ろ!!」
 鉄馬が振り向くとサタンが立っていた。
「妹の声に動揺して止めも刺さぬとは、貴様も大神も弱いな。」
「何だと?」
「いわばお前達2人は同類ということだ。」
「俺と奴が同類かどうかは知らん。だが、奴がお前より弱いとは、俺にはどうしても思えん。」
 ドゴオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォッ!!
 爆発音と共に霊子甲冑が突入してきた。
「帝國華撃團花組、参上!!」
 大神の神龍が2人に駆け寄ってきた。
『大丈夫ですか、鉄馬さん?』
「おう、大神。俺もさくらも大丈夫だ。」
『え?どうして、俺の名を?』
「いずれわかるさ。今はこいつらを始末することに集中しろ!」
『はい!さくらくん、ここは俺たちが引き受ける。君はお兄さんと一緒に退いてくれ。』
 さくらは首を横に振る。
「大神さん、あたしも兄さんも戦います。せっかくここまで来たんです。今更引き返したくありません!」
『おっ、言うじゃねぇか、さくら。』
『そのお志、ご立派ですわよ。』
 カンナとすみれが拡声器で話している。
『・・・わかった。一緒に戦おう!』
「はい!!」
 相手はサタンと重傷の天海。そして・・・
 大神は玉座の間の人影に刀を向けた。
「姿を見せろ、ハーデス!!」
 ハーデスは黙ってカーテンを開けた。
「なっ!?」
「あれが、ハーデス?」
 カーテンの向こうから現れたのはまるで善人のような優しい目つきの男。
「お前達が、帝國華撃團か。なるほど、女ばかりだな。」
 優しさの中に威厳を漂わせる、そんな感じの声だった。
『女ばかりで、悪かったな!なめると痛い目に遭うぜ!!』
 カンナが拳を振り上げ、ハーデスに向っていく。
「愚か者め!!」
 ガシイイイイイイィィィィィッ!!
 カンナの拳を何者かが受け止めた。
 現れたのは銀色の魔操機兵。
「手荒なことをされては困る。ハーデス様に指一本触れれば、お前の命が幾つあっても足りんからな。」
 黒騎士団大幹部、冥界三巨頭の一人、アトラスである。
「その通り、貴様らの相手は俺たちで十分。」
 横から赤茶けた魔操機兵が現れた。同じく三巨頭の一人、イオである。
「もっとも、そんな子供だましの霊子甲冑で、俺たちに勝てるはずが無い。」
 さらに灰色の魔操機兵。三巨頭の一人、ジャガー。
「フフフ・・・三巨頭。何もその方らが相手するまでも無い。余の力を見せれば、こやつらも恐れをなすであろう。」
 ハーデスは手を天にかざした。
「地よ、吼えよ!!」
 ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・!!
 激しい地震が起こった。
「わああぁぁぁっっ!?何だ!?」
「じ、地震でーす!!」
 ビキィィィッ!!
 地面に亀裂が走った。
「アカン!地割れが起こるで!!」
「全員脱出!!」
 大神の脱出命令と同時に、地割れが起こった。
「さくらくん!!」
「えっ!?」
 さくらに向って亀裂が走っていく。
「さくら、跳べ!!」
 鉄馬が後ろからさくらを突き飛ばした。
 さくらは地割れを飛び越え、何とか大神達と合流した。
「兄さん!!」
 地割れによって浩忠は完全に孤立してしまった。
 既に数十メートルの亀裂があり、とても飛び越えられそうに無い。
「やれやれ・・・」
 鉄馬は少し微笑みながら、奥へ消えていく。
「兄さん!!」
 さくらがいくら叫んでも鉄馬は振り向かない。
 やがて完全に基地が崩壊してしまった。
 さくら達は何とか脱出できたものの、やはり鉄馬の姿はどこにもなかった。


 帝劇に戻ったさくらだが、帰ってくるなり自分の部屋に閉じこもり、出てこなくなった。
 花組一同はサロンに集まり、ミーティングを開いていた。
「やっぱり、兄貴が死んじまったのがこたえてんだろうな。」
「ふん、さくらさんも、まだまだ甘いのではなくて?」
 すみれの態度にカンナが怒った。
「おい、すみれ!何だその態度は!お前、自分の身内が死んでも何とも思わないのか!?」
「みなさん、何か勘違いしているのではなくて?わたくしたちは命をかけて戦っているのですわよ。いつ死ぬかわからない、死と隣り合わせの戦いですわ。それを今更・・・」
「テメェ、それでも人間か!?」
 すみれはカンナを睨みつけた。
「わたくしが言いたいのは、いつまでもウジウジ泣いていて、死人が蘇ったりするものでは無いという事ですわ!今さくらさんがなさっている事は、前に進まず、身内の死に甘えて立ち止まっていることですわ!!」
 カンナは何も言わない。言えないのだ。すみれの言うことに間違いは無かった。
 しばらくすみれを睨みつけていたが、黙ったまま座った。
 ちょうど、さくらの様子を見に行っていたマリアが戻ってきた。
「マリア、どうだった、さくらくんの様子は?」
 マリアはひどく疲れていた。
「しばらく声をかけてみましたが、やはりドアを開けてはくれませんでした。」
「そうか・・・・・。みんなも、今日は疲れただろう。もう部屋に戻って休むといい。」
 花組隊員たちは重い足取りで自室に戻っていった。
 大神はしばらくそこに残り、さくらのことを考えていた。
 さくらは花組の重要な戦力だから・・・いや、それだけではなかった。さくらに対する特別な想いが、大神を悩ませていた。
「あの・・・中尉。」
 後ろにすみれが立っていた。
「すみれくん・・・まだ休んでなかったのかい?」
「ええ・・・中尉に一つお願いがありまして。」
「何だい?俺に出来ることなら、何でも。」
「その・・・さくらさんと話をしてみて下さいな。先ほど、ああは言いましたが、さくらさんはまだ弱い方ですわ。さくらさんには中尉のような強い殿方の支えが必要ですの。」
「すみれくん・・・」
 いつもさくらと喧嘩ばかりしているすみれも少しは心配しているのかと、大神は思ったが、その大神の心を読んだかのように、すみれは顔を赤らめ、プイッと横を見て言う。
「別にさくらさんが心配なわけではありませんわ。ただ、さくらさんがいつまでもウジウジと泣いているのは見たくないだけですわ!」
「わかってるよ、すみれくん。さくらくんと話をしてくるよ。」
 大神はさくらの部屋に向った。
 すみれはそれを黙って見送った。
「中尉・・・さくらさんを、よろしく頼みますわ。」
 そう呟くと椅子にすわり、紅茶を入れ始めた。


 大神はさくらの部屋に行って見たが、扉が開いていて、さくらは居なかった。
 2階をしばらく捜すと浩忠の部屋からさくらのすすり泣く声が聞こえてきた。
 中に入ると、部屋の隅でうずくまっているさくらがいた。
 大神にはなぜさくらがこの部屋にいたのかわからなかったが、今はそんなことを気にしている場合ではなかった。
「さくらくん・・・」
 大神が声をかけても、さくらは返事をしない。
 肩に手をかけ、もう一度声をかけてみた。
「さくらくん、こんな所にいると風邪引くよ。」
「あ・・・・大神さん・・・」
 今初めて大神に気付いたように顔を上げた。
 顔に幾筋もの涙が伝わっている。
「大神さん!」
 さくらは大神に泣きついてきた。
「さくらくん。」
 大神はさくらをきつく抱き締めた。
 さくらは泣きやまず、まるで子供のようにわんわん泣きつづける。
「さくらくん、お兄さんが亡くなって悲しいのはわかる。でも、いつまでも泣いてちゃいけないよ。」
「でも・・・」
「いくら泣いてても、お兄さんは帰ってこないよ。今、君がやるべきことは、前に進むことだよ。今の君は立ち止まったままだ。」
「・・・・」
「俺の上司の山本次官や教官の中佐が俺に言った言葉があるんだ。」
 その瞬間、さくらが「えっ?」という表情になった。
「『前に進め。立ち止まらずに自分の信じた道をひたすら前に進め。そうすれば道は自ずと拓かれる。』ってね。山本次官の言葉を、中佐が受け継いで、それを俺がまた受け継いだんだ。俺はいつもこの言葉を胸に、戦っている。」
「・・・・・」
 鉄馬がさくらの憧れの隊長である大神に教えた言葉。
 さくらは泣きやみ、大神の言葉をただ黙って聞いている。
「俺は軍人だから、友人の何人かが訓練中に事故死しまったことがある。でもね、大切なのは、それに甘えないことなんだよ。他人の死に逃げて、立ち止まるのは、俺は好きじゃない。」
「・・・・・」
「今の君を見たら、中佐は物凄く怒るよ。『いつまでも泣いてないで、兄貴の仇でもとって来い!』ってね。」
 さくらは思わず吹き出した。
 大神の物真似が意外と似ていたからだ。
「大神さん、意外と似てますね。」
「ははは、実は士官学校で結構評判だったんだよ。」
 さくらの顔にようやく笑顔が戻った。
「やっと、いつもの君らしくなったね。君には、笑顔がよく似合うよ。泣いている顔は、見たくない。」
「はい・・・ありがとうございます、大神さん。大神さんと話してたら、何だか、元気が出てきました。」
「よし、もう大丈夫だね。さあ、今日はもう休むといい。」
「はい、そうします。お休みなさい、大神さん。」
「ああ、お休み。」
 さくらはお辞儀をして、部屋へ戻っていった。
「・・・・」
 大神も浩忠の部屋を出ようとしたが、その時、何かを足で蹴った。
「ん?」
 拾ってみると鎖の付いたロケットだった。
「・・・これは・・・」
 士官学校時代、大神はこれと同じ物を見た。
 浩忠が一人でこれを悲しそうに見ていたのだ。
 大神が声をかけると浩忠は慌てて隠して去っていった。
「・・・・中佐のかな?」
 開けてみて大神は目を疑った。
 そこに写っていたのは自分もよく知っている女性だった。
 さくらの写真が、そこに納められていたのだ。
 周りを見回し、机の上の写真を見ると、一馬と若菜、そしてさくらと鉄馬の写真があるではないか。
「どういうことだ!?」
 その時、大神は鉄馬の言った言葉を思い出した。
『いずれわかる。』
 なぜ、鉄馬が初対面の自分の名前を知っていたか。
 鉄馬=浩忠。
 それが大神の頭に浮かんだ。


 大神は支配人室へ行き、米田に尋問した。
「司令、教えて下さい。中佐は、本当はどちらへ行かれたのですか?」
「ああ?オメェ何言ってんだ?月組と合同で調査中だと言っただろう?」
「ええ、そうおっしゃいました。ですが、司令。中佐は既にこの世にはおりません。」
「何だと?」
「中佐は、真宮寺鉄馬として、亡くなられました。」
 米田は何も言わず、ただ大神の顔をじっと見ている。
「これが、中佐の部屋に落ちていました。少し前に撮られたさくらくんの写真です。机の上には大佐や奥さんの写真も。恐らく、さくらくんも中佐がお兄さんだと知っていたのでしょう。さっきまで中佐の部屋でずっと泣いていました。」
 米田はようやく口を開いた。
「そうか・・・お前も気付いたか・・・全てお前の言う通り、浩忠の正体は鉄馬だ。あいつは、あれでも妹想いでな。花組に入ったのも本当はさくらを守るためだったんだ。」
「・・・・・」
「あいつはさくらを守るためなら自分の命を惜しまない。命がけでさくらを守る。」
 米田は沈痛な面持ちで語る。
「真宮寺家を追放されると真っ先に俺の家にきた。『いずれ、さくらの力が必要になる時が来るでしょう。その時までには、俺も戻ってきます。それまで、あいつをよろしくお願いします。』ってな。あいつはいつでもさくらの心配をしていたんだ。」
「そんな人が、どうして名前を変えて、さくらくんの前に・・」
「それはな・・・あいつには、黙っていなくちゃいけねぇわけがあったんだ。」
「わけ?」
 米田は答えない。ただ黙って酒を飲んでいる。
「それは言えねぇ。」
「司令!教えて下さい!」
「この4年間さくらにすら話さなかったことだ。どうしてお前に軽々しく話せる?」
 大神は何も言えなかった。さくらにも言えない秘密。
 そんなことを自分に話してもらえるわけが無いのは当然だ。
「もういいだろ、行け。」
 大神は敬礼し、
「はい、失礼します。」
 と、部屋を後にした。


 翌日、首相官邸に矢文が届いた。
「総理!大変です!!」
 使用人がドタバタと走ってきた。
 まるでこの世の終わりのような顔をして。
「どうした、騒々しい。」
 落ち着いた感じのこの男。時の首相、田中義一である。
「今朝、玄関にこんなものが!」
「矢文か・・・見せなさい。」
 手紙を読んでいくにつれて、田中の表情が変わっていく。
「すぐに、防衛委員会を招集したまえ。私も行く!」
「はい!!」


 2時間後、出席者がそろった。
 帝國防衛委員会。留まるところを知らぬ降魔の被害に対し、帝國政府が照和元年に設立した組織。
 そのメンバーは、総理大臣・田中義一。海軍大臣・山口和豊。外務大臣・高橋是清。神崎財閥社長・神崎重樹。同代表・星野和義。GF司令・吉田善吾。海軍次官・山本五十六。賢人機関代表・花小路頼恒。帝國華撃團総司令・米田一基。
「こんな時間にお呼び立てして申し訳ありません。早速ですが、本題に入ります。今朝、首相官邸の玄関にこの様な矢文が届けられました。」
 田中が話を進める。
「『これより我々は、この日本の占領を宣言する。よって、帝國政府は1時間以内に解散。この国の領土全てを我が組織に差し出せ。この命令が受け入れられない場合は、呉軍港、及び東京丸の内に我が力を見せるであろう。これがただの脅しでないことがわかるはずだ。良い返事を待っている。冥界黒騎士団首領、ハーデス。』」
「ハーデスだと?馬鹿げている。」
 高橋が鼻で笑った。
「・・・・帝國華撃團の報告によれば、現在戦闘中の敵の首領の名前と一致しているそうだ。」
 花小路が少し怒ったような口調で話す。
「東京と、呉が攻撃される・・・」
「防がなければ!」
 山本も吉田も海軍の母港を攻撃されるとあっては黙っていられない。
「落ち着きたまえ、2人とも。まだ時間はある。」
 山口が2人を静める。
 田中が話を続ける。
「いずれにせよ、この件が悪戯でない事がはっきりしています。神崎さん、星野さん。何か妙案がございますか?」
星野は首を横に振る。
「・・・・申し訳ありませんが、今の私にしゃべれることは何もありません。」
「・・・・・この際、防衛に徹するしかないと思いますが、あくまでこれは素人の意見です。作戦に関しては、米田中将閣下の方が詳しいはずです。」
 一同の視線が米田に注がれる。
 米田はずっと腕を組んで考え込んでいたが、意を決したかのように、立ち上がった。
「・・・・作戦も何もありません。現場の指揮一切は、大神一郎に委任してあります。」
「大神に・・・か。」
 教え子である大神の成長を誰よりも理解している山本は大神に厚い信頼を寄せていた。
「あいつなら、きっとやってくれる。いや、必ずやる!あいつはそういう奴です。」
「現在花組は、富士へ向けて出撃態勢を整えています。間もなく出撃できるでしょう。」
「よろしい。陸軍、海軍共に帝都、広島の防衛線を展開している。守りは彼らに任せて、心置きなく戦ってくるよう、彼らに伝えてください。」
「了解しました。」
 米田は立ち上がって敬礼した。


 既に花組は浅草花やしき支部において出撃態勢を整えていた。
 あとは司令の到着を待つのみという状況だった。
 司令が来るまで、かえでが戦況を説明する。
「現状を説明します。現在、敵の手によると思われる謎の建造物が富士山中腹に出現。敵の交信記録によると、妖魔城と呼ばれている城のようです。」
 スクリーンに富士山が映る。
「何やねん!?ごっつデカイがな!!」
「あのようなものが、富士山の中に・・・・」
「どうやって、アレと戦うですかー!?」
「まず、翔鯨丸で妖魔城に接近。砲撃で突破口を開きます。そして花組が突入し、敵の中枢を破壊する。これ以外に方法はないわ。」
 これまで何度も行ってきた戦い方だ。
「懐に潜り込んで一気に叩く、か。いつもの戦い方だな。」
 逸るカンナにマリアが釘を刺す。
「ただし今回は、敵の幹部がほとんど生き残っているわ。これまで以上に激しい戦いが予想されるわ。」
「ボクたちがこれまでに撃破した敵の幹部は刹那と火車の2人だけ。大半がまだ生き残っている。お互いに手の内は知っていても、苦戦は免れない。」
「マリアとレニの言う通りだ。敵の戦力は強大だ。今までの戦いの比ではない。各員、そのつもりで。」
 さらに大神は続ける。
「敵の幹部のほとんどは一度戦ったことのある者達だ。しかし、みんな知っての通り、まだ一度も戦っていない大幹部が2人居る。また、首領・ハーデスの力も不明だ。さらに、今回はミカサの援護が受けれない。はっきり言って、生還できるかどうかはわからない。」
 アイリスは小さな体を震わせている。
「アイリスたち・・・死ぬかも知れないってこと?」
 レニがそっと肩に手を置いてきた。
「大丈夫だよ、アイリス。ボクたちは死なないよ。隊長がいるんだから。」
「レニの言う通りでーす。わたしたちは絶対に負けませーん!!」
「そうですとも、この神崎すみれが黒騎士団を全滅させてご覧に入れますわ。」
 すみれが高らかに笑っているが、それを見たカンナが呟く。
「オメェみてぇなチャラチャラした奴にやられる奴の顔が見てぇよ。」
「こら、2人とも。出撃前に喧嘩はダメよ。」
「せやで。余計な力使うたらアカンで。」
 大神は花組隊員のやり取りを微笑みながら見ている。
「・・・・・」
 死ぬかもしれない戦いに出撃するというのに、まったく緊張感の無い隊員たち。
 緊張していないわけがない。誰もがガチガチに固くなっているはずだ。しかし、それを決して表に出さず、互いに励ましあって己を奮い立たせる。
 そして無事な帰還を誓い合う。
 (心強い仲間達だ・・・俺が励まさなくても、大丈夫か。・・・一人を除いて・・・)
 先ほどから、話の輪に入っていない者が居る。さくらだ。
 一度大神が励まし、立ち直らせたとは言え、まだ兄を失ったショックが残っている。


 司令が戻るまでの間、隊員たちは一旦解散し、僅かな休息をとった。
「さくらくん、ちょっと。」
「はい?」
 さくらを呼び止め、作戦指令室で話した。
「いつまでそんな顔をしているつもりだ?」
「え?」
「君は今にも泣き出しそうな顔をしている。」
「・・・・・」
 さくらは何も言わない。悲しい表情で下を見ている。
「つらいのはわかる。でも、いつまでもそんな顔をしている君を戦場へ行かせる訳にはいかない。」
「・・・・・」
「言ったはずだよ。前にひたすら進めば道は拓かれるって。今の俺たちに、立ち止まったり、後に下がることは許されないんだ。」
「・・・・でも・・・・」
 さくらは何か言いたそうだが、気持ちの整理がつかないのか、何も言い出せない。
「甘いよ。君は・・・」
「えっ!?」
「いつまでも、そうやってお兄さんや、お父さんに甘えてられると思ったら大間違いだ!」
 言ってしまった。
 大神は自分が何を言っているかはわかっていた。
「破邪の宿命」を若くして受け継いださくらにはあまりにキツイ言葉だ。だがそこまで言わなければ、今のさくらは立ち直れない。
「今の俺たちの誰かが、親か誰かに甘えている者がいるか!?アイリスだって自分で生きていこうとしている!それなのに君はいつまでもお兄さんのことを!」
「・・・大神さん・・・」
 さくらはまた泣き出しそうな顔をしている。
「そんな顔は見たくない!君が誰かを思い出すまで、一切の任務から君を外す!!」
「・・・・・」
 さくらは何も言わない。
 しばし沈黙が続いた。二人ともお互いを見つめたまま何も言わない。
「・・・・失礼します。」
 さくらは軽く一礼して出て行った。
 大神は椅子に座り、ただ黙っていた。
 すると、横から一杯の珈琲が差し出された。横にはかえでが立っていた。
「かえでさん・・・」
「よく言い切ったわね、大神君。」
「・・・・俺は・・・・」
 かえでは優しい笑みを浮かべている。
「大丈夫。さくらは強い子よ。必ず戻ってくるわ。あなたも、それを信じて言い切ったのでしょう?」
「・・・はい。」
 大神は珈琲を一気に飲み干した。


 さくらは休憩室のベッドに倒れこんでいた。
(甘い・・・・あたしが・・・兄さんや、お父様に甘えている?)
 ふとさくらの目に霊剣荒鷹が映った。
(荒鷹・・・あたしは・・・あなたにも甘えているの?)
 荒鷹は何も応えない。自分で悟れと言わんばかりに。
(・・・・・あたしは、どうすればいいの?)
 さくらは目を閉じた。
 何も聞こえない。全く音の無い世界に入ったかのように。
「・・・・・」
 ほとんど無意識だ。ただ、時間だけが過ぎていく。
『・・・・ら・・・さくら・・・・さくら・・・』
 どこからか声が聞こえてきた。
(・・・・誰?・・・・)
『さくら・・・お前は忘れたのか?』
 その声は父一馬の声だった。
 しかし、どこにもその姿は見えない。
「お父様、あたしは・・・あたしは!」
『お前を忘れることは私や鉄馬を忘れることだ。今のお前は、本当のお前ではない。思い出せ、お前が誰かを。そして、お前の使命を。』
「・・・お父様・・・」
 それっきり声はしなくなった。
「お父様・・・あたしは・・・あたしは真宮寺一馬の娘、真宮寺鉄馬の妹。あたしの使命は、悪を蹴散らし、正義を示すこと!!」
 さくらは霊剣荒鷹を手に執る。
「・・・・荒鷹・・・あたしに、力を貸して・・・」
 荒鷹は優しい桜色の光を放つ。


 その頃、翔鯨丸に神龍の積み込みを終え、米田も到着したため、花組は翔鯨丸搭乗口前に集合した。
(やはりさくらくんは・・・)
 さくらだけはまだ来ていなかった。
「大神、これより、出撃態勢に入れ。さくらがいねぇが、仕方ない。」
「・・・・了解。全員・・・・」
「待って!!」
 さくらの声がした。整列している花組隊員の後ろにさくらがいた。
「大神さん、あたしも行きます。」
「・・・・・」
 大神は隊員たちの間を抜け、さくらの前にきた。
「さくらくん、いいのかい?」
「あたしはいいですけど、決めるのは大神さんやみなさんです。」
「・・・・・」
 大神は振り向き、花組の顔を見る。みんな優しい笑みを浮かべている。
「隊長、私たちは全員そろって花組です。誰が欠けても、花組は成り立ちません。」
 マリアが一歩前に出て言う。大神は黙ってうなづき、再びさくらの方を向く。
「真宮寺さくら。右の者の任務復帰を認める!!」
 大神はさくらに敬礼する。さくらも敬礼する。
 さくらの目には一点の曇りも無かった。
「よし、帝國華撃團花組、出動!!」
 翔鯨丸に乗り込み、一路富士山へ向った。


 広島 呉軍港
 既に戦艦長門、陸奥、扶桑、山城の4隻が戦闘準備を整えている。
 艦橋の艦長に戦闘準備完了の報告が入る。
「諸君、いよいよだ。気を抜くな!」
 4隻ともに警戒を続けている。
 既に1時間は経過している。
「・・・まだか・・・」
 艦長がそう呟くと同時に、対空監視兵の声が響いた。
『右舷上空、急降下(爆撃機)!!』
「何!?」
 太陽を背にして無数の降魔が飛来してくる。
「3番砲塔、撃てぇぇっ!!」
 あらかじめ最大仰角に設定されていた3番砲塔が砲撃を開始。
 新兵器の時限式対空砲弾で、時間が来ると大爆発を引き起こす仕掛けになっている。
 見事、降魔の先頭集団に命中。数匹撃破された。
『左舷水平線上にも敵接近!!』
 まるで雷撃機のように降魔が近づいてきている。
「1番、2番、撃てぇぇっ!!」
 すぐさま主砲が火を噴く。
 高々と立ち上がる水柱に激突して波間に消えていく降魔が数匹。
「山城後方に急接近!!」
 砲撃で落とせなかった降魔が山城に接近。
 ギシャアアアァァァァッ1!
 口から液体を吐き出し、山城の5番砲塔を溶かしてしまった。
「酸だ!あれにやられるとひとたまりも無い。あれを集中攻撃だ!!撃ちまくれ、何も通すな!!」
 遂に4戦艦の全砲門が開かれた。


 一方花組は既に富士山に到着。戦闘準備を整えていた。
「主砲、発射用意。」
 翔鯨丸の主砲が妖魔城の城門を捕捉している。
「発射用意よし!!」
「射ぇぇぇっ!!」
 城門は跡形も無く吹っ飛んだ。
「よし、大神。突破口は開いた。後はお前達に任せる。」
『了解!』
「いいか、死ぬんじゃないぞ。必ず帰って来い!」
『はい。行きます!!』
 城門跡に花組を降ろし、翔鯨丸は上空に留まった。


 妖魔城内部に突入した花組だが、突如発生した濃い霧によって散り散りになってしまった。
「くそ・・・みんなはどこだ?何なんだ、この霧は?」
 大神は確実に奥に進んでいる。
『くくく・・・待ちかねたぞ。大神一郎。』
 その声には聞き覚えがあった。
「そうか、やはり俺たちがここに来るのは先刻お見通しか。」
 大神の前に現れたのは、三巨頭の一人、イオ。
『巴里での決着、今こそ付けてくれる!!』
 大神は二刀を構えた。
「行くぞ、イオ!!」
『ふん、八つ裂きにしてくれる!!』
「狼虎滅却・三刃成虎!!」
「遅い!!」
 必殺技を繰り出す前にイオの攻撃が命中。
 大神は倒れそうになるが何とかふんばる。
「その程度か、くらえ!!」
 イオの両腕から雷が発せられ、大神の機体に落雷する。
「ぐわあああぁぁぁっ!!」
「くくく・・・くたばれ、大神一郎!!」
 電流を流しつづけるが、大神は倒れない。
「ま・・・負けるものか・・・負けるものか!!」
 激しい電流を流されながらも大神は刀を振り上げる。
「な・・・・なぜだ!?なぜまだ動ける!?」
「イオ・・・・所詮貴様は・・・・あの世の者に過ぎん・・・ここは俺たちの世界だ・・・・貴様らには渡さん!!」
 大神は突進し、イオに斬りかかった。
「地獄に帰れ!!」
 ザンッ!!
 イオは真っ二つになり、電流はやっと止まった。
「くそ・・・・」
 機体の損傷も激しいが、大神自身も強力な電流により体が痺れていた。
「・・・・ダメか・・・・」
 大神はその場に倒れこんだ。


 すみれとカンナは金剛と土蜘蛛の2人と対峙していた。
「あなたがたがわたくしたちのお相手ですの?」
「へっ、貴様らには俺一人で十分だ。」
「そうはいかないよ、ハーデス様のご命令だ。」
「へっ、一人一殺の命令でも出てんのか?すみれ、アタイは金剛をやる。土蜘蛛は任せた。」
「あなたにいちいち指示されなくとも、わたくしは金剛のような野蛮な方は相手にしなくてよ。」
 金剛たちは余裕の笑みを浮かべている。
「ふん、腕を上げたのは、お前らだけと思わんほうが身のためだぞ。」
「狩りとってやる!!」
「行くぞ!!」
「シキるんじゃありませんよ!!」
 それぞれ戦い始めた。
「オラオラオラオラ!!かかってこい!!」
「くらえ、チェストォッ!!」
 ドガァッ!!
「手応えあり・・・何っ!?」
 金剛はまったくダメージを受けていない。
「その程度か!!」
 ガキィィッ!!
 金剛の攻撃をもろに受け、カンナは大きく後方に吹っ飛ばされた。
「カンナさん!!」
「隙あり!!」
 気を取られたすみれに土蜘蛛の攻撃が炸裂。
 2人とも倒れ、動かなくなった。
「ふん、他愛の無い。止めを刺してやる。」
 金剛と土蜘蛛がまさに最後の一撃を放たんとしたその時。
 ドガァァァッ!!
 ザシュゥゥッ!!
 2機の神龍は突然起き上がり、カンナは金剛の胴を貫き、すみれは土蜘蛛を両断した。
「へっ・・・・こんな奴を倒すのに、余計なダメージ食らっちまったな・・・・」
「悔しいですけど・・・・しばらく動けそうにありませんわね。」
 2機の神龍は金剛たちを葬った状態で停止した。


 その頃、マリア、紅蘭、織姫は羅刹、木喰、猪と交戦中だった。
「紅蘭、援護を!!」
「はいな、それっ!!」
 ロケット弾が木喰に迫る。
「おのれ、小癪な!!発射!!」
 対空迎撃弾で応戦する。しかし、何発かは命中した。
「今だ、ダイアモンド・ダスト!!」
 無数の氷の刃が木喰に突き進む。
「バカな!!」
 至近距離からの発射のため、為す術も無く全弾命中。
「よっしゃ、まずは一人や!」
 その頃、織姫は羅刹、猪と戦っていた。
「スパークレーザー!!」
「無駄だ!!」
 織姫のレーザーが猪の火球にかき消された。
「うおおおおおおぉぉぉぉぉっ!!」
 羅刹が織姫に急接近。
「来ないで下さーい!!」
 羅刹を蹴飛ばし、レーザーを乱射する。
「これでもくらえ!!」
 猪が大火球を放った。
「なっ!?」
 大きすぎて避けきれない。織姫はこれまでか、と目を閉じた。
 ピキイイイイイィィィィィィン!!
 織姫に痛みは来なかった。恐る恐る目を開けてみると目の前で大火球が凍り付いているではないか。
「織姫はん!大丈夫でっか!?」
「紅蘭!マリアさーん!!」
「さあ、行くよ!!」
 マリアが銃を乱射。加えて紅蘭と織姫も攻撃を開始。
「おのれ、貴様らにこの俺が負けるかぁぁっ!!」
 猪は頭に血が上り、文字通り猪突猛進してくる。
「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
 「ダイアモンド・ダスト!!」
 必殺技が命中したにも関わらず、猪はマリアに体当たり。猪はそのまま息絶えたが、マリアもかなりのダメージを受けた。
「マリアはん!?」
 紅蘭がマリア機に駆け寄ろうとした時、
「紅蘭、後ろ!!」
 紅蘭機の背後に羅刹が迫っていた。
「うおおおおおおぉぉぉぉっ!!」
 羅刹は怪力を活かして紅蘭機を持ち上げ、放り投げた。
「紅蘭!!」
 紅蘭は動かない。残るは織姫。
「あなたみたいな怪力バカに、わたしは絶対負けませーん!!」
「ほざけ!今、楽にしてやる!!」
 羅刹は織姫に向って来るが、
「スパーク・レーザー!!」
 バシュゥッ!!
 レーザーは羅刹の胴を貫通。しかし羅刹は最期の力を振り絞って織姫の機体を殴り飛ばした。
 羅刹はそのまま絶命。織姫の方もまったく動かなかった。


 一方、玉座の間近くまで到達していたレニとアイリスは・・・
「ねえ、レニ。何だか、気味が悪いよ。」
 アイリスは神龍の中で小さな体を震わせている。
「大丈夫だよ、アイリス。ボクが必ずアイリスを守るから。」
 その時、どこからか声がした。
『ふふふ・・・・待ちくたびれたよ、帝國華撃團。』
『貴様らの相手は俺たちで十分。その間に、他の隊員たちは皆殺しにされる。』
 現れたのはジャガーと水狐。
「出たな黒騎士団!」
 レニはランスを構える。
「レニ、久しぶりね。首領はあなたを仲間に加えてもいいとおっしゃってるわ。どう?また私の仲間にならない?」
「見くびるな!お前の術に2度もかかるほどボクはバカじゃない!!」
 ジャガーが一歩前に進み出て、レニの目を見る。
「そうか。だが、この俺の術に勝てるかな?」
 ジャガーの目が怪しく赤色に光る。
「うっ!?」
 レニを激しい頭痛が襲う。
「レニ!?どうしたの、レニ!?」
 アイリスの声も届かない。レニは操縦席で苦しんでいる。
「くくく・・・苦しいか、レニ。楽になりたければ、その小娘を殺せ。」
「く・・・・・うぅ・・・・」
 レニは苦しみながらもランスを構える。
 その攻撃目標は、アイリス。
「うそ・・・レニ・・・うそだよね?」
「・・・・・」
 レニは何も言わず、ただランスを構えている。
「・・・・ろ・・・・・逃げろ、アイリス!!」
「・・・・・」
 アイリスは動かない。
「くくく、小娘。逃げても構わんが、その時はレニが死ぬ。レニに殺されるか、レニを見殺しにして自分だけ助かるか。好きなほうを選べ。」
「ふふふ・・・さあ、アイリス。どうするの?」
「・・・・・」
 アイリスはただじっとその場に立ち尽くしている。
 (レニを置いて、逃げられるわけないでしょ!)
 アイリスは戦闘態勢を解き、両腕を広げてレニの前に立つ。
「何のマネだ?」
「・・・レニは・・・レニは、絶対アイリスを傷つけたりしない!だって・・・レニは・・・アイリスの、お友達だから・・・」
 アイリスの目には強い意志が現れていた。
「・・・・・・」
 レニはまだ攻撃しようとしない。
「どうした、レニ。さあ、やれ!やるんだ!!」
「アナタは戦闘機械よ!仲間なんか要らない戦闘機械よ!!」
 レニは頭痛に苦しみながらしゃべりだす。
「仮に・・・ボクが戦闘機械になったとしたら・・・仲間なんかいらないだろう・・・つまり・・・戦闘機械になった時の仲間はお前達だ!!」
 レニはランスをジャガーたちに向けた。
「ボクは帝都を守る、帝國華撃團の一人だ!!お前達の言いなりになんかなるものか!!」
 レニの機体から邪悪なオーラが抜け出ていった。
「おのれ、我が術が通用せんとは・・・」
「えぇぃ、またしても!!」
 2人とも戦闘態勢に入った。
「レニ!」
 レニのところへアイリスが駆け寄ってきた。
「アイリス、ありがとう。ボクを正気に戻してくれて。」
「ううん、アイリスじゃないよ。正気に戻れたのは、レニの強さだよ。行こ、レニ。」
「うん、これからが勝負だ!!」
 2人の霊力が最大に高まった。
「くらえ!」
 ランスをジャガーに突き出す。
「やあぁぁっ!!」
 手応えは無い。ジャガーは宙に舞い、レニに斬りかかった。
「死ね、ビッグトルネード!!」
「五行相克・雪花波紋十軌!!」
 二つの技がレニを襲う。
 しかしその間に割って入った物があった。
 黄色の神龍。アイリス機だ。
「レニはアイリスが守る!!」
 アイリスは全霊力を使ってバリアーを張ってこれを防いだ。
「何っ!?」
「かき消された!?」
 レニが既に次の攻撃の構えをとっていた。
「ジークフリート!!」
 ランスを地面に突き刺すと地面から凄まじい霊力波が噴出し、ジャガーと水狐を巻き上げた。
「うおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!?」
 ドガアアアアアアアアァァァァァァァッ!!
 水狐は地面に激突し息絶えた。
「ぬぅ・・・」
 ジャガーはまだ息があった。
 そして立ち上がって叫ぶ。
「これで勝ったと思うなよ・・・最後に笑うのは黒騎士団だ・・・我が偉大なる首領に・・・・栄光あれぇぇぇぇぇっ!!」
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォッ!!
 ジャガーは壮絶なる自爆を遂げた。


 その頃さくらはサタンと凄まじい戦いを繰り広げていた。
「はあああああぁぁぁっ!!」
 さくらの剣撃はまったくサタンに当たらない。
 そしてまたサタンの剣もさくらに当たらない。
「ぬう・・・やるな・・・」
「あの頃より格段に腕を上げたから、そう簡単には負けないわ!」
 さくらは剣を鞘に納め、抜刀術の構えをとった。
「さあ、真宮寺さくらの実力、見せてあげるわ!!」
「ほざけ!でやああああああぁぁぁぁっ!!」
「はあああああああぁぁぁぁぁっ!!」
 ザシュウウウゥゥッッ!!
「ぐぅわぁっ!?」
 サタンは胴を斬られ、絶命した。
「はぁ・・・・はぁ・・・・やっと・・・倒した・・・・」
 長時間にわたる戦いでさくらには相当の疲労が溜まっていた。
「早く・・・大神さんのところへ行かないと・・・」
『そうはさせないよ!!』
 突如ミロクの声が響き、さくらの機体に鎖が巻きつけられた。
「なっ!?く・・紅のミロク・・・・」
 完全に動きが封じられ、さくらは全く動けない。
「ふふふ・・・お前の相手はこのわらわだよ。」


 ちょうどその頃、上空で待機していた翔鯨丸は・・・
「レーダーに反応!正体不明の敵機確認!!」
「何っ!?」
 米田がスコープを覗き込む。
 一点の光の点が超高速で向ってきている。
「何だ、これは!?・・・味方か?」
「確認中です。ですが、特に緊急連絡はありません。」
「間もなく肉眼で捕捉出来ます。」
望遠鏡で外を見ると確かに何かが接近しつつある。
「・・・・迎撃用意!!」
「はいっ!」
 全対空砲、主砲の発射準備が整った。
「迎撃準備完了しました。」
「・・・・・・」
 米田はまだ迎撃の指示を出さない。
「米田長官?」
「待て。敵かどうか確認する。」
 物体はどんどん近づいてくる。徐々にそのシルエットが見えてきた。
「・・・・あれは・・・・」
 米田は目を疑った。
「神龍だ!!」
 米田の言葉に全員が疑いながら外を見た。
 物体は高速で艦橋をかすめて富士山に向っていった。
 その時米田達ははっきりと見た。
 通過したのは漆黒の神龍。
「あの機は・・・」
 米田はそれ以上言わず、神龍が妖魔城の中へ消えていくのを見守っていた。


 その頃、さくらはミロクに苦戦を強いられていた。
 さくらは既にサタンとの戦いでほとんどの力を使い果たしていた。そのため、残された力はわずかなものだった。敗れるのは時間の問題だった。
「ふふふ・・・どうした、真宮寺さくら?もっとわらわを楽しませてくれないか?」
 さくら機は既に大破寸前だった。
「く・・・・・もう・・・力が・・・・・」
 ミロクは銃でさくらを狙う。
「これで止めだ。死ね、真宮寺さくら。」
 ミロクがまさに引き金を引かんとしたその時・・・
 突然、銃に何かが刺さった。
「これは!?」
 刺さったのは神龍に装備されているニードルショットだった。
「な、何だこれは!?」
 その時、どこからか声がした。
『貴様を地獄へ送り返す路銀代わりだ。遠慮はいらん、とって置け。』
「だ、誰だ!姿を見せろ!!」
 暗闇の中から漆黒の神龍が現れた。
『帝國華撃團・花組副長、真宮寺鉄馬。』
 死んだはずの鉄馬だった。さくらは鉄馬を見て泣き出した。
「兄さん・・・」
「情けない声を出すな。だらしないぞ、さくら!」
 ミロクが再び銃を構える。
「よかろう、ならば兄のお前から先に葬ってやる。」
「ふん、貴様にこの俺が倒せるとでも思ってるのか?」
「何だと!?」
「自分で自分を美しいと思い込んでいるが、美しいのは外面のみ。その正体は血に飢えた醜い餓鬼。貴様に地獄を見せてやる!!」
 鉄馬は刀に霊力を宿し、それをミロクに放った。
「天空破邪・龍神幻破!!」
 ミロクの眉間に命中したが、何のダメージも無い。
「龍神幻破だと?このミロクの薄皮一枚傷つかなかったではないか、鉄馬?」
「それはどうかな?」
「ほざけ!!」
 ミロクは鉄馬の機を撃ち抜いた。
「ふん、口ほどにも無い。」
「どうした、ミロク?もう終わりか?」
 見てみると鉄馬の機は胴に大穴が開いているにも関わらず動いている。
「おのれ!!」
 銃を連射し、次々と大穴が開いていくが鉄馬は倒れない。
「まだ傷は浅いぞ。どうした、ミロク?」
「何だ、こいつは!?」
「どうだ、地獄を見た感想は?貴様の姿をよく見ろ!!」
 ミロクは足元の水溜りに映る自分に目をやった。
 そこに映っているのは見るも無残な醜い顔だった。
「うああああああぁぁぁぁぁぁっ!!」
 ミロクは発狂したが、さくらは何が起こっているのかわからなかった。
「な・・・何が一体・・・」
 ミロクが再び目をやると元の自分の姿だった。
「・・・鉄馬・・・貴様何をした!?」
「最後のはほんのおまけだが、もうすぐ現実になる。」
「おのれ!このわらわをここまで侮辱するとは!許さんぞ鉄馬!わらわの持つ全ての銃弾を撃ち込んでくれる!!」
 鉄馬は鼻で笑いながら・・・
「生憎だが俺には銃は似合わん。」
 霊力を集中し、二刀を十字に構えた。
「死ねぇぇぇっ!!」
「くらえ、天空破邪・龍神攻防陣!!」
 ミロクの銃弾を跳ね返し、さらに霊力の塊をぶつけた。
「うわああああああぁぁぁぁっっ!!」
 ミロクの断末魔が響いた。
 それを見ていたさくらは疲れきった体を起こして、
「兄さん・・・・生きていたんですね・・・・」
 鉄馬は振り返らない。
「大神を救いたければ、自分の力で立ち上がって来い。さくら。」
「え?」
「相打ちで敵を仕留めたところで、お前達の戦いが終わったわけではない。大神もマリアもすみれも、ハーデスとの戦いはまだこれからだ!!」
 そのまま玉座の間に向って走り出した。
 さくらを置いたままで・・・


 夕日が沈む頃、大神はようやく玉座の間に辿り着いた。
 すでに機体は中破し、装甲が破れているところがある。
「ふん、イオめ。少しこの男を甘く見すぎていたようだな。」
「お・・・お前は、アトラス!」
 三巨頭の筆頭であるアトラス。当然、三巨頭で最も強い。
「くくく・・・その体で俺と戦うつもりか?よかろう、来い!!」
 大神は刀を構え、突進する。
「狼虎滅却・天地一矢!!」
 アトラスは避けようともしない。
 ビュン!!
 大神の刀はアトラスに当たらず、空を斬った。
「何っ!?」
「くくく・・・間合いを見切ることも出来ないのか?」
「バカな!?」
「貴様、イオと戦って無事に済むとでも思ったか?イオは貴様に全ての感覚を失わせる毒を吸わせたのだ。お前の気付かないうちにな。」
「何だと!?・・・うぅっ!?」
 大神は突如倒れた。
「くくく・・・毒が全身に回ったか。覚悟しろ。」
「くそぉっ!!」
 大神は立ち上がり、刀を構える。
「無駄だ、やめておけ。」
「黙れ!そこをどけえぇぇぇっ!!」
 大神は猛然と突進していく。
 ガシィッ!!
 何者かが大神機の腕を掴んだ。
 現れたのは漆黒の神龍。鉄馬だった。
「待て、大神。その体ではこいつは倒せん。ここは俺に任せろ。」
「・・・・・」
「大神?」
 大神はフラぁっと倒れた。
「おい、大神!!」
 鉄馬は大神を呼ぶが返事は無い。
「無駄だ、大神は助からん。貴様もすぐに同じ運命をたどる。」
「何ぃ?死ぬのはどっちか。行くぞ!!」
鉄馬、アトラスの刀が交わると激しい火花が飛び散る。
「やるではないか。」
「お前もな。」
「獲物は強いほうが面白い!来い、鉄馬!!」
「くらえぇっ!破邪の剣を!!」
 互いに激しい攻撃を繰り出した。
 しかし次の瞬間、お互いの攻撃がそれぞれヒットした。
 どちらかが目測を誤り、攻撃の高低がずれたのだ。
 鉄馬は操縦席付近を攻撃され、倒れた。
 アトラスもエンジン付近を損傷し、機能が鈍っている。
「て、鉄馬。この俺を相打ちに持っていった事は誉めてやる。だが、お前も大神と同じ運命・・・」
「貴様こそ、この俺の一撃を受けて立っていられることを誉めてやる。だが・・・次はそうは行かんぞ!!」
 鉄馬は立ち上がり、刀を十字に構える。
「むっ!?」
「くらえ!天空破邪・龍神攻防陣!!」
 エネルギーの塊がアトラスを襲う。しかし・・・
「ふっ、バーニング・ガンファイア!!」
 無数の火の玉がそれをかき消し、なおかつ鉄馬の神龍に直撃した。
「ぬぅぉっ!?・・・バカな・・・」
 鉄馬は後ろに倒れた。
「ふん・・・これで全て片付いた。」
 アトラスは玉座の前に跪いた。
「ハーデス様、これで帝國華撃團は全滅したも同然・・・わが冥界黒騎士団は敵なしと、いうわけです。」
『愚か者め。貴様の目は節穴か?』
 ハーデスの起こった声が響く。
「は?」
『後ろを見ろ!』
 アトラスが振り返ると、なんと先ほどまで動きもしなかった大神が立ち上がっているではないか。
「貴様ぁぁっ!!死ね!!バーニング・ガンファイア!!」
 その衝撃に鉄馬が意識を取り戻した。
「大神!!」
 大神をかばおうとするが、間に合わなかった。
 火の玉の直撃を受け、大神機は崖の下まで落ちていった。
『フフフ・・・これで、帝國華撃團も終わりだな!三巨頭を2人も倒すとはなかなか見事な戦い振りであったが、ここまでだな。』
 ハーデスは勝利を確信していた。

 大神をかばいきれなかった鉄馬は起き上がって大神を助けに行こうとする。
「大神・・・・大神・・・・」
 しかし、その前にアトラスが立ちはだかった。
「・・・そこをどけ。俺は大神を・・・」
「無駄なことを。しかしなぜそうまで大神を助けようとする。」
 鉄馬は少し微笑みながら答えた。
「仲間・・・だからだ・・・」
「例え仲間であろうと、戦いに敗れた者に情けは無用。それが真の勇者たる戦士というものだ。」
「戦うことしか知らぬお前にはわかるまい・・・俺たちは、平和を愛し、この世界に生きる人々を守るために戦う・・・・」
 満身創痍の鉄馬だが、その目には強い意志が見えていた。


 崖下に落ちた大神は、既に感覚はおろか意識をも失っていた。
(何も見えない・・・・何も感じない・・・・何も聞こえない・・・・これが・・・・死というものなのか?)
『・・・・さん・・・・大神さん・・・・』
 大神の脳裏にさくらの声が響く。
(さくらくん?)
『死ぬことなんて、簡単なことです。でも・・・あたしは諦めません!!』
『そうです、苦しいのはあなた一人ではありません。私たちもまだ戦っています!!』
『中尉、わたくしたちはハーデスを倒し、誰も欠けることなく帝劇に戻ると、誓ったではありませんか!!』
 さくらに続いて、マリアとすみれの声が聞こえてきた。さらに・・・
『お兄ちゃん。アイリス、おウチに帰るときはお兄ちゃんと一緒じゃなきゃヤだ!!』
『せやで、大神はん!ウチらは大神はんあっての花組なんや!!』
『そうでーす!あなたはいつもネバーギブアップの精神を私たちに教えてきたはずでーす!!』
 アイリス、紅蘭、織姫の声も。そして・・・
『さあ、隊長!立て!立つんだ!!』
『あきらめてはダメだ!隊長!!』
(カンナ・・・レニ・・・・そうだ・・・負けられない!絶対に負けられない!・・・俺にははっきりと、共に戦う花組の声が・・・みんなの声が聞こえる!!)
 大神は立ち上がり、崖を登り始めた。


「そこをどけぇっ!!」
 鉄馬は刀を構えた。
「そこまで大神を助けたければ、お前も大神のもとへ行くがいい。同じ俺の技で!バーニング・ガンファイア!!」
 無数の火の玉が鉄馬に向って突き進む。
「同じ技は通用せん!!破邪剣征・桜花放神!!」
「何っ!?ぐわあああぁぁぁぁぁっ!!」
 桜色の光が火の玉を全て飲み込み、アトラスに命中した。
「み・・・・見事だ鉄馬・・・・お前達こそ・・・・真の・・・戦士だ・・・」
 アトラスは息絶えた。
 が、鉄馬も倒れた。力を使い切ったのだ。
『くくく・・・お前はよくやったが、ここまでだな。せめてもの情けだ。余が止めを刺してやる。』
 ハーデスが刀に手をかけたその時・・・
『待てぇっ!!』
 崖下から大神が這い上がってきた。既に甲冑はボロボロ。とても戦える状態ではない。
『ば、バカな・・・お前にはもう・・・・』
 既に感覚を失った大神が何故ここまで上がってきたか。ハーデスには不思議だった。
『今の俺には確かに何も見えないし、聞こえない。感じることも出来ない。だが、さくらくんたち花組のみんなが俺を再び蘇らせた!!俺は花組の隊長、大神一郎!!俺は必ずお前を倒す!世界は、俺たちが守る!!』
 大神機から白いオーラが上る。
『笑止、お前達2人で何が出来る?』
「2人じゃないわ!!」
 現れたのは8機の神龍。花組の隊員が全員揃った。
「帝國華撃團・花組、参上!!」
 ハーデスはカーテンを開け、遂にその姿を現した。
 漆黒の髪、まるで善人のような顔つきをした男。どこか神々しい。
「我が下僕たちがお前達の一人も倒すことなく敗れるとはな。どうやら余はお前達の力を甘く見ていたようだ。」
 ハーデスは腰の長刀を抜き、天にかざす。
「人間どもに、黒騎士団が全滅するとはな・・・」
 既に花組は戦闘態勢に入っている。
「ハーデス!残るはお前一人だ!!」
「観念しろ!ハーデス!!」
 ハーデスは動かない。
「ヤロウ!!」
 カンナが突っ込もうとするが、ハーデスは意外な行動に出た。
 何と、持っていた長刀で自分の胸を貫いたのだ。
「な、何っ!?」
 ハーデスは苦しむどころか笑みを浮かべている。
「ふ・・・ふふふ・・・余は、栄光のために死を選ぶ。だが・・・華撃團・・・・地獄の道連れに貴様らも死ね・・・・」
 ハーデスの体から不気味な光が発せられた。
「自爆するぞ!全員回避!!」
 花組はすばやく物陰に退避した。
「黒騎士団・・・未だ滅びず!」
 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォッ!!
 ハーデスは壮絶な自爆を遂げた。
 大神たちは何とか無事だった。
「み、みんな大丈夫か?」
「は、はい・・・何とか・・・」
 全員損傷はほとんど無かった。
「おい、あれは・・・」
 玉座の前に黒い玉が転がっている。
「何ですの?あれは・・・」
 大神たちが近寄ろうとすると突如、地震が起こった。
「いかん!天井が崩れる!脱出だ!!」
「了解!!」
 妖魔城の崩壊が始まった。
 花組は素早く脱出し、翔鯨丸に乗り移った。

 やがて、妖魔城は完全に崩壊。
 冥界黒騎士団はここに壊滅した。
「終わった・・・・これで・・・・」
 大神は廊下の窓から富士山を見ている。
「よお、大神。」
 鉄馬が声をかけてきた。
「あ・・・その・・・・」
 鉄馬が浩忠だと知っていたため、大神は何と呼ぼうか迷っていた。
「ははは・・・もう中佐と呼ぶ必要は無い。帝撃にいる時は真宮寺鉄馬だ。敬語は必要ない。」
「は、はい・・・・」
 使う必要は無いと言われても、すぐに変えるのは難しい。
「今回の戦い。よく頑張ったな。俺も教官として鼻が高いぜ。お前が花組の隊長を任されているのがよくわかったぜ。」
「あ、ありがとうございます!!」
 とその時、鉄馬は後ろの人影に気付き、ニッと笑った。
「さて、邪魔者は消える。じゃあな。」
 鉄馬と入れ違いにさくらが来た。
「・・・大神さん。」
「さくらくん。」
「あの・・・ありがとうございます。あたしをあんなに叱って下さって・・・」
「ああ・・・あのことか・・・いや、俺も言いすぎたと思っている。ちょっとキツかったかな?」
 さくらはクスッと笑う。
「ええ・・・かなり・・・でも、気にしないで下さい。あれぐらいでないと、あたし、立ち直れたかどうかわかりませんでしたから。」
「そうかな?・・・・でも、よかったね。お兄さんが生きていて。」
「はい!あたしを助けに来てくださった時は感激して泣きそうになりました!」
 大神もさくらも満面の笑みを浮かべている。
「さあ、艦橋に戻ろう。みんなが待っている。」
「はい!いきましょう、大神さん!」
 2人は翔鯨丸の艦橋に向って走っていった。


 照和2年、晩夏。冥界黒騎士団は壊滅。帝都に平和が訪れたのだ。

To be continued・・・


キャスト

大神一郎
  陶 山 章 央

真宮寺さくら
  横 山 智 佐

神崎すみれ        マリア=タチバナ
  富 沢 美智恵      高 乃   麗
アイリス           李紅蘭
  西 原 久美子      渕 崎 ゆり子
桐嶋カンナ         ソレッタ=織姫
  田 中 真 弓       岡 本 麻 弥
レニ=ミルヒシュトラーセ 藤井かすみ
  伊 倉 一 恵       岡 村 明 美
榊原由里         高村椿
  増 田 ゆ き       氷 上 恭 子

藤枝かえで
  折 笠   愛

ハーデス
  難 波 圭 一

アトラス      イオ          ジャガー
  水 島   裕    古 川 登志夫    玄 田 哲 章
サタン       紅のミロク       白銀の羅刹
  家 中   宏    引 田 有 美    小 野 英 昭
金剛        土蜘蛛        猪
  立 木 文 彦    渡 辺 美 佐    大 川   透
木喰
  八奈見 乗 児


山本五十六     山口和豊      吉田善吾
  納 谷 悟 朗    羽佐間 道 夫    宝 田   明
田中義一      高橋是清      神崎重樹
  青 野   武    田 中 信 夫    江 原 正 士
星野和義      花小路頼恒
  増 岡   弘    北 村 弘 一


米田一基
  池 田   勝


真宮寺鉄馬
  堀   秀 行


次回予告

俺は佐伯清志!!
福岡から来た銃の名手タイ!!
そやけん、人は俺のことを勇士って言うと。
俺もその名が気に入っとる。
次回 愛の戦士たち
『束の間の平和』
照和桜に浪漫の嵐!!
テメェの体に風穴通すぞ。


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