Act6-6

「ミカサを建造していたという大空洞じゃなくて?」
 すみれが周囲を見回しながら言う。
「それは違うやろ。それならもっともっと広い筈や」
「そうね。むしろ、あの穴の入り口からは現世とは異なる異空間につながっていると考えるべきだと思うわ」
 紅蘭とマリアの見解を大神も支持する。
「だとすれば、この場所には何らかの意味がある筈だぞ」
 大神機のモノクル・カメラがせわしく左右に動く。
「あれは?」
 この広間を囲むようにして同じ形の石がある。一見すると自然石のようにも見えるが、それにしては規則的に並びすぎている。
「紅蘭、どう思う?」
「ちょっと待ってや」
 紅蘭がその石の一つに近づき、観察する。
「ははーん。わかったで。ここは黄泉平泉坂を封じていた結界のあった場所や」
「結界? でも、黄泉平泉坂はどこにでも開けるものだろう? 場所を特定できないんだから結界なんて張れないんじゃないのか」
「それはその通りや。だけど、一度に開くことのできる黄泉平泉坂は一つだけなんや。だから、これは黄泉平泉坂そのものに対する結界やね」
 いわば、水道の元栓を締めるようなものだ。
「なるほど。ここさえ封じておけば、現世に結界をおかなくてもいいということか」
「うーん。理屈ではそなんやが、これで封印できるほど黄泉平泉坂は甘くないようや。ここにある黄泉平泉坂への結界と、現世にある黄泉平泉坂を開かせない結界とで組みになって封じることができるみたいや」
「そういうことか」
 しかし、ここが黄泉平泉坂を塞ぐための第一歩となることは間違いない。
「よし、紅蘭。そいつを降ろして、結界を張ってしまおう」
「はいな」
 紅蘭がここまで抱えてきていた祭器を広間の中央に降ろそうとした、その瞬間だった。
「不義昇臨!」
 上空から声がしたかと思うと、すさまじい衝撃波が襲来する。その目標は紅蘭だ。
 慌てて回避行動に移るが、間に合わない。まるで木の葉が風に舞うようにして吹き飛ばされた。
「紅欄!」
 さくらの悲鳴にかぶさるように、不気味な声が響いてくる。
「久しぶりだな。帝國華撃團!」
 攻撃の張本人、ヒルコの姿がそこにはあった。
「ここまでたどりつくのは、さすがだと言っておこう。だが、貴様らの祭器は失われたぞ。これで黄泉平泉坂を塞ぐことはできまい」
 ヒルコが勝ち誇る。
 しかし、逆に大神が勝ち誇ったように口を開いた。
「ヒルコ。アレが本当に祭器だと思っていたのか?」 「なに?」
「あれは見てくれだけのハリボテさ」
 だが、ヒルコは取り合わない。
「強がりはそのぐらいにしておけ。ならば、あの祭器から発せられていた霊力は何だ?」
「……それはやな」
 紅欄機が立ち上がってきた。
「うちの機の霊子蒸気機関から霊力を流し込んでいただけや。我ながら、急ごしらえにしてはよく出来たと思うとるんやで」
「なんだと? そんなことをして、何になるというんだ?」
「そんなこと決まっている。お前をここにおびき出し、倒すためだ!」
 大神は力強く宣言する。
「このヒルコを、神を倒せると、本気で思っているのか?」
「思っている。いや、倒さねばならないんだ! 相手が例え神だとしても、帝都の護りたることこそ、我らが使命!」
 大見得を切る。それは自分自身を鼓舞するためでもあった。
「見上げたものだよ、大神一郎!」
 ヒルコの声は怒気を含んでいる。
「だが、最後に笑うのは、この私だ!」
 その声を合図に、無数の黄泉兵があらわれた。花組は瞬時に取り囲まれた形となっている。
「それくらい、読めている! さくらくん!」
「は、はい!」
 さくら機に隣接すると、大神は霊力を集中させていく。
「瞳に写る輝く星は」
「みんなの明日を導く光」
「今、その光を大いなる力に変えて」
「破邪剣征・桜花乱舞!」
 だが、その掛け声とは裏腹に技は出ない。さくらの霊力がいつもほど高まらなかったのだ。
「さくらくん!」
「ごめんなさい。大神さん、私……私……」
 さくら機ががっくりと膝を折り、動きを止めた。

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