Act6-5

「いくぞ!」
 七色の煙が舞い上がり、神武の勇姿が戦場に現れる。
「帝國華撃團、参上!」
神保町交差点付近に降り立った彼女らのまわりは黄泉兵であふれかえっている。そして、その源となっている、ぽっかりと地面に空いた穴を容易に確認することができた。
「あそこが黄泉平泉坂だ。一気に突入するぞ!」
 大神の指揮のもと、花組は戦闘態勢をとる。
「神崎風塵流・鳳凰の舞!」
 群がってきた黄泉兵が一度に消える。
「消えたくなければ、道を塞ぐな!」
「チェストォ!」
 黄泉兵が怯んだ隙に、マリアの霊子速射砲が道を示し、カンナがそれをこじ開ける。
「紅蘭、そいつは黄泉平泉坂を壊せる鍵だ。落とすなよ!」
「まかしとき!」
 紅蘭機はなにやら楔状のモノを大事そうに抱えている。一見したところは何かの祭器にみえた。
 黄泉兵もそれを察知してか、紅蘭機を攻撃しようとするが、大神達はそれを許すわけもなく、紅蘭を中心にした輪形陣を組む。
「真宮寺くん。動きが鈍いぞ!」
 さくらの動きにキレがない。さくらが手を抜いているとは言わないが、戦いに集中できていないのが大神にもあからさまにわかった。自然、苛立ちが増していく。
「もらった!」
 大神が黄泉兵を打ち倒した。しかし、やや態勢が流れたところを、別の黄泉兵が狙う。
「ちぃ」
 神武を捻るようにして、その黄泉兵と相対しようとするが、間に合わない。
「隊長! そのままでいいぜ!」
 間一髪。カンナ機が黄泉兵の死角から正拳を突き出した。よろめいて大神機から離れたところを、後方からのマリア機の射撃で仕留められる。
「助かったよ、カンナ」
「なーに。いいってことよ」
 いつもながら快活なカンナだ。だが、彼女はここで声をおとした。
「ところで隊長。さくらと喧嘩でもしたのかよ?」
「な、なにを根拠に!」
 不意をつかれて、大神も動揺する。
「あのなぁ。さくらのことを、今まで『真宮寺くん』なんて呼んだことがあったかよ!」
 返す言葉もない。
「何があったか知らねぇが、さっさっと仲直りしちまえよ。夫婦喧嘩は犬も食わねぇっていうしよ!」
「誰が夫婦だ! 大体、戦闘中だぞ。真面目にやれ!」
「おっとっと。くわばら、くわばら」
 カンナはおどけるようにしながら、大神から離れていった。
(くそ。俺は隊長失格だな)
 隊員と露骨に対立し、それを他の隊員に窘められるようでは。
「アイリスはそのまま。すみれは後方を確保。紅蘭とマリアは穴の入り口に陣取る連中へ制圧射撃を実行してくれ。制圧後、カンナと……さくらくんは突入してくれ」
 ためらいがちながらも、大神はさくらをいつものように名で呼んだ。
「了解!」
 短い返答にさくらがどう感じているかはわからない。だが、動きには、まだいつものキレは戻っていない。ヒルコとの戦いに対する迷いがすてきれていないようだ。
(とにかく今はいけるとこまでいくしかないな)
 大神はさくらのことを気にとめることをやめ、戦闘に集中することとした。
「よし、俺に続け!」
 高機動装置が始動し、大神機が地面を滑る。一気に先頭のカンナ機、さくら機を追い抜くと、当たるを幸いに黄泉兵を蹴散らしていく。高機動装置によって得た速度は、黄泉兵を薙ぐのに十分であった。
「やりやがるな、隊長。俺もいくぜ!」
「お兄ちゃん、待ってぇ!」
「よっしゃ。うちもいきまっせ」
「私がいかなくては、話になりませんことよ」
「さくら、遅れないで!」
「は、はい!」
 一丸となって穴へ突入する。阻もうと、黄泉兵は後から後からわいてくるが、花組の敵ではない。それを駆逐しながら、無我夢中に奥へ奥へと進んでいく。
「なんでぇ、ここは?」
 カンナ機が足を止めた。
 今までの通路然とした場所とは違う、大きく開けた場所に出た。
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