Act6-3

「『神』を『保』つとはよくいったものですね」
 さくらが感心したように言う。
「ああ。つまりは、黄泉國を封じるポイントだったってことだ。黄泉國の神々をそのままの状態で保つための土地というな」
 だが、今はそんなことを分析している場合ではない。起きてしまった悪夢をなんとしても食い止めねば。
 大神はそのために口を開いた。
「作戦方針を決めねばならない。一つは黄泉平泉坂を塞ぐことに力点をおくもの。もう一つはヒルコを倒すことに力点をおくもの。そのどちらにするかだ」
 皆に意見を求める。
 それに最初に応えたのは、すみれだった。
「ヒルコを倒せば、黄泉平泉坂は消えるのでしょう?」
「おそらくは。蒸気演算機によれば、まだヒルコの術は安定しておらず、ヒルコが妖力を注ぎ続けていると分析しているからね」
「でしたら、ヒルコを倒せばいいではございませんこと。一石二鳥ですわ」
 だが、それにはマリアが異論を唱えた。
「ヒルコはどこにいるかわからないのよ。それを探し回ってる間に帝都は蹂躪されてしまうわ」
「では、マリアさん。私達に黄泉平泉坂を塞ぐすべがあって? いえ、聞くまでもないわね。私達には黄泉平泉坂を塞ぐ力などないのよ!」
 確かに彼女の言う通りだ。
 かといって、ヒルコの居場所を確実に捉えることもできない。
「うちの“みえーるくん”が完成しとればなぁ」
 今の蒸気演算機でもある特定の霊力・妖力だけを感知するということはできない。
 下手をすれば、天海の六破星降魔陣の時のように、罠にはめられてしまうおそれもある。
(罠?)
 だが、それを思い起こした時、大神の脳裏に閃いたものがった。
「そうだ。罠だよ!」
 大神は叫んだ。
「なにも正面からいくばかりが作戦じゃないさ。ヒルコをおびき出してやればいいんだ」
「でも、どうやって?」
「マリア。考えてみてくれ。ヒルコにおって一番大事なものはなんだ?」
「それは、黄泉平泉坂でしょう」
「そうだ。だから、我々は黄泉平泉坂を攻撃する。我々が坂を封じる手立てを実際にもってるかどうかは関係ない。もっている可能性が皆無でなければいいんだ」
「なるほど。少しでも坂を封じる可能性があるなら、ヒルコはそれを止めにこざるをえんわけやな」
 紅蘭が合点がいったとばかりにうなずく。
「もちろん、この作戦を成功させるためには、ヒルコが出てこざるをえないようにするため、黄泉兵達を倒し続けなければならないがな」
 それでも、これが最も成功率の高い作戦であろう。
「米田長官。この作戦で構いませんか?」
「よし。いいだろう」
 頷きながら、米田は満足していた。
 大神の導いた作戦はこの状況下では最良のものだろう。
(これならば、俺がいなくなっても大神でやっていけそうだな) 齢を重ねれば、確かに優秀な軍人に必要な経験というものをえることができる。しかし、同じく優秀な軍人に必要な頭の回転の速さや新しい知識の導入といった能力は衰えていく。そのバランスが崩れた時、歴戦の軍人はただの老害と化す。
 米田はそれが間近に迫っていることを感じていた。
 自分の後継者となり帝國華撃團全体を指揮できる人間を探さねばならない。
(引退すれば、悠々自適の生活を送りたいものだ)
 だが、そのためにもヒルコを倒さねばならない。
「帝國華撃團・花組は出撃準備をせよ。詳細は大神に任せる」
「了解!」

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