Act6-2

 花組以外の面子はそれぞれの仕事に戻るべく指令室から散っていく。
 だが、紅蘭は、その中の一人を捉え、声をかける。
「良子はん」
 瀧下良子が振返る。
「良子はん。うち、手伝わなくていいんやろか?」
 紅蘭は事実上の神武整備責任者でありながら、花組としての職務のために動きがとれないことを気にかけている。
「いいのよ、紅蘭。前にもういったでしょう。あたし達と紅蘭がすごした年月は無駄だったわけじゃないと。私達に任せておきなさい」
「そやけど!」
「紅蘭。前線で戦うのがあなた達、花組の戦いであるならば、これは、私達の戦いよ」
 良子は踵を返し、地下格納庫へと向った。
「良子はん……」
 その後ろ姿を紛れもなく戦いに赴く戦士のそれだ。紅蘭はなにも言葉をかけることができなかった。
「紅蘭。作戦会議を始めるぞ」
 呆然としていたが、大神の声で我に帰り、慌てて卓に戻る。
 そこに残っているのは米田と大神以下の花組だけだ。
「さて、みんな。地図を確認しておこう」
 大神が帝都の地図を大型受像機に映し出す。
「黄泉兵の現在の勢力範囲はこうだ」
 陸海軍により確認されたそれが赤く表示される。すでに帝都の1/3を超えようとしている。
「早いわね」
 すみれが溜息交じりに言う。
「いや、むしろ遅いくらいよ」
「そうだな。マリアの言う通りだ」
 大神もマリアの意見を支持した。
「帝都中心部における建造物の多さが一番の要因だろう。それに、雪組が出動している」
「雪組がですか?」
 マリアが驚きの声をあげる。
 雪組は光武・神武が活動できないような特殊な状況下での戦闘を想定して編成された部隊である。しかし、その編成が本格化したのは大神が最初に花組の隊長になった太正十三年四月頃からであり、結局、『帝都大戦』に戦力として投入されるまではいたらなかった。
「この状況下で初陣というのはきついのではないですか?」
「確かにそうだ。だが、重要拠点を中心に遅滞戦術をとっている。雪組のマイヤー隊長は世界大戦に参戦していた経験ある指揮官だし、米田長官も直接指示を出しているから、しばらくは持つだろう」
 雪組隊長、ハインリヒ・フォン・マイヤーはかつて帝政独陸軍中尉であり、第一次世界大戦を戦い抜いた。その彼が何故、雪組隊長となるに至ったかについても興味深いエピソードがあるのだが、それはここで語るべきものではないだろう。
「宮城への侵入は?」
「まだだ。おそらく宮城そのもの霊的結界はまだ完全に破られてはいないためだろう」
 もっとも、宮城への侵入も時間の問題だろう。
「さて、肝心の黄泉平泉坂だが、黄泉兵の分布や妖力から見て、ここに開いたと考えられる」
 大神が指し示したのは、神田神保町である。

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