Act5-9
陽炎の必殺技の態勢に入ったその時だ。
「させるかぁぁ!」
その声は空からだった。
思わず陽炎が見上げれば、彼をめがげて一直線に迫るものがある。
「大神一郎、参上!」
大神は後席にもついている操縦幹を目一杯に倒し、急降下している。
「お、大神はん。無茶やで。機体強度が、こないなスピードには耐えられまへん!」
現に機体の構造材があちこちで悲鳴をあげ、補強のためのワイヤーが音をたててちぎれていく。
やがて、いやな音がして翼がもげた。それでも機体についた勢いはかわらずに突っ込んでいく。
「きゃぁぁぁぁ!」
スピンする機体の中で紅蘭が悲鳴をあげる。もはや、高度的にも落下傘での奪取も不可能だ。
しかし、大神はここで死ぬ気はない。
「紅蘭。しっかりしろ。飛び降りるぞ!」
「飛び降りるゆうたかて、下が地面やないか!」
「いいから、いくぞ!」
紅蘭を無理矢理ひきずりだす。というと、簡単に聞こえるが、回転して横Gがかかる機体での動作は容易ではない。しかし、大神は瞬時にそれをやりとげ、紅蘭を抱えて宙を舞った。
主を失った紅神号は、しかしなおも、陽炎をめがげて飛行している。
「ぬぅ」
陽炎も赤穢の機体を捻ってかわす。紅蘭号は赤穢の至近には落下するが、火薬をつんでいるわけでもなく、大した効果はない。だが、陽炎を怯ませ、マリアを助けるには十分であった。
「大神さん! 紅蘭!」
だが、大神と紅蘭の危機はまだ去らない。彼らは上空から落下し続けている。
「アイリスにお任せ!」
アイリスが黄泉兵を振り切った。そして、瞬間移動で、大神達の落下地点へと滑り込む。ほぼ同時といっていタイミングで大神と紅蘭はアイリス機の腕の中へと落下してくる。
「お兄ちゃん、紅蘭。大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ」
紅蘭はやや呆然としているが、大神は落ち着いている。花組なら、誰かが助けてくれると信じていたのだ。
「で、お兄ちゃん?」
急にアイリスの声が厳しくなった。
「いつまで、紅蘭とそーしてるの!」
言われてみれば、大神は紅蘭を抱きしめたままだ。慌てて両手を離す。
そのオタオタした姿は先程までの自信に満ちた頼もしい大神とは一変している。このあたりが、花組のメンバーに慕われる要因だろう。
「と、ともかく、いくぞ、紅蘭。神武に乗り込むんだ!」
「はいな!」
すぐに純白の機体と深緑の機体が姿を見せた。
「改めて、大神一郎、参上!」
「李紅蘭、参上!」
ようやく、花組の揃い踏みだ。
「くっ。『石龍轟烈火』!」
陽炎も必殺技が神武を襲う。確かに強力な技であり、攻撃をうければ、下がって回復する必要がある。
だが、一度失ってしまった戦場のモメンタムを取り替えすまでにはいたらない。集団戦術も、黄泉兵がこれだけ掃討されてしまうと、うまく機能しない。陽炎とそれ以外で戦力に差がありすぎたのがいけなかった。
「パールク・ヴィチノイ!」
マリアの必殺技が炸裂し、赤穢を守っていた黄泉兵は全て倒れた。
「よし、とどめだ。いくぞ、紅蘭!」
「よっしゃ、まかしとき!」
紅蘭機と大神機が互いの間に霊力を集中させていく。
「疾風にして静水の如く」
「深山にして烈火の如し」
「飛龍上雲!」
「龍駆咆哮!」
「凄絶! 天昇烈界破!!!」
霊力の奔流が陽炎を襲う。
「さすがだな、帝國華撃團」
陽炎は息も絶え絶えになりながらも、口を動かす。
「やはり、我が力ではこの程度。だが、ヒルコ様は必ずや我が無念を達成してくださる筈だ。そう、事は為ったのだからな!」
直後、赤穢は爆発し、陽炎の姿もその中で消えていった。
「今の台詞……一体、どういうこと?」
マリアが首を捻る。
「なーに。あんなん、ただの負け惜しみや。それより、いくでぇ!」
紅蘭が場をしきった。
「勝利のポーズ、決めっ!」
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