Act5-10
隊員達が勝利の喜びと安堵を噛み締める。
だが、それは束の間にすぎなかった。
「ご無沙汰だったな。帝國華撃團の諸君」
「貴様は、ヒルコ!」
突然、虚空にヒルコの姿が現れる。
「おお。覚えてもらっていて光栄だよ。大神一郎くん」
「ふざけるな。貴様の幹部は全て討ち果たしたぞ。次はお前の番だ!」
いきる大神だが、ヒルコは心から楽しそうに笑った。
「幹部だと!? やつらなど捨て駒にすぎんよ。そう、彼らはその死に値するだけの仕事はやってくれているのだ」
「なに!」
「見るがいい。大神よ。帝國華撃團よ! わが術が発動するのを!」
しかし、今度は紅蘭がニヤリと笑った。
「甘いで、ヒルコ。お前らが埋めた『楔』を、うちたちがそのままほっといてただけだと思ってんのんか?」
紅蘭がなにやら釦を押す。すると泉岳寺に埋められた『楔』が唸りをあげはじめた。それは次第に大きくなっていき、やがて、バリッという断末魔の声をあげてとまった。
「『楔』を共鳴させて、限界以上の振動をあたえてやったんや。『楔』は粉々やで。それに、今ごろ、他のところのやつも同じよーになってるさかい。何しても無駄やで!」
『楔』は通常攻撃では傷一つつかない。紅蘭と風組、夢組の共同研究により、ようやく開発された『楔』の破壊方法だ。
「ほう。そんなものもあったかな」
だが、ヒルコはおちついている。
「虚勢をはってても駄目やで。帝國華撃團に同じ手は二度と通用せーへん」
「はっはっはっはっはっはっ!」
ヒルコは堪えきれなくなったとでも言いたげに笑う。
「これだから人間と言うものは単純だ。前と同じ物をおいておくだけで、同じ事をしていると勝手に勘違いしてくれる!」
「なんやて?」
「『楔』など目くらましにすぎんよ。本気で君たちはこれに気づいてなかったのかね?」
パチンとヒルコが指を鳴らすと、地中から異形の物体が姿をあらわした。
「これこそ、わが術をなすための祭器、『鐸』だ」
それは『楔』に比べると圧倒的に小さい。
『楔』を見つけたことで、その対処にやっきになっていた帝國華撃團は、『鐸』を発見することすらできていなかった。
「今こそ、数千年の恨みを果たさん!」
ヒルコが祝詞を唱える。
「やらせないぞ!」
大神以下、七機の神武はそれを阻もうと攻撃するが、全てヒルコを素通りしてしまう。
「隊長! あれは幻です! 実体は別のところに!」
マリアが気づいた時には遅かった。
「今こそ、我が力を見るがいい! 『征邪破正陣』!」
不気味な地鳴りが響く。
太陽は光りを失い、空は闇にとざされる。
そして、禍々しい妖気が地を覆う。
「黄泉平泉坂は開いた! 今より、常世も我々のものだ!」
常世、すなわち現世と黄泉との道は神社仏閣によって封印されていた。しかし、ヒルコはそれを破壊すると同時に、法陣によって新たな道を開いたのである。
「なんでこんなことをするんだ!」
思わず大神が叫ぶ。
「なぜだと? 大神一郎。貴様は父母から子として認められなかった哀しみがわかるか? 弟妹達はは神として崇められながら、姿形が醜いというだけで捨てられた私の気持ちがわかるか!」
それは、先程までの自信に満ちた声とは違う。
「だから決めたのだ。私の父母が、弟妹が全勢力を傾けた常世を支配してやるう。高天原に君臨する我が妹、アマテラスの子供を貶めてやると!」
「それで、陛下のおわす帝都へ黄泉平泉坂を……」
「そうだ。生まれながらにして現人神である睦仁に、生まれながらに神を失格とされた私が鉄槌を与えるのだ! どうだ、愉快な話であろう」
ヒルコは高笑いする。いかにも憎々しい。だが、さくらはポツリと呟いた。
「……そんなのって、悲しい」
「なんだと?」
「だって、それじゃあ、復讐のためにずっと生きてたというの? そして、復讐が終わったら、どうするの? それこそ、生まれた意味がないじゃない!」
「黙れ!」
突然、さくら機の目の前で爆発がおきた。その勢いでさくら機がよろめく。
「さくらくん。大丈夫か?」
「え、ええ……」
だが、さくら機はかなりの損傷をうけたらしい。
「くそ。いずれにしても、このままではまずい。ヒルコを倒すぞ!」
「了解!」
さくら機を除く各機が戦闘態勢をとる。
『やめるんだ、大神!』 通信回線に米田大将が割って入ってきた。
『皆の神武は損傷しているし、さくらは戦えねぇ。まして、こっちは準備不足。これでは勝てん!』 「くっ」
米田のいう通りだ。
『一旦、下がるんだ! 急げ!』 ぐずぐずしていては撤退もできなくなってしまう。
「……帝國華撃團・花組は戦場を急速離脱、本部へ帰投せよ!」
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