Act5-6
さらに大きな兵装がせりだしてきた。
『一四試霊子加農砲だ。これは口径自体をあげてある』
説明されるまでもなく、その大きさは一目瞭然であった。
『撃つぞ』
実験室の空気が震え、まるで空気の壁を叩きつけられたかのような衝撃が大神と紅蘭を襲う。海軍でもっと大口径の砲に慣れている大神はともかく、紅蘭が思わず二三歩後ずさるほどだ。しかし、それだけにその威力は強大であった。的となったシルシウス鋼板は文字どおり吹き飛ばされている。
「こいつは!」
かつてないほどの威力だ。
大口径砲の宿命である発射速度の低さと取り回しのしにくさ、そしてそれに伴う近接戦闘時の脆さを除けば、すなわち支援兵器として考えれば、これほど頼もしい兵器もないだろう。
『今日、見せられるのはこの二つだけだが、他にも開発中のものはある。いってくれればいつでも取り付けるからな』
上機嫌であるQの声に送られて第3装備実験室を出た大神達であったが、紅蘭の表情は今一つ暗い。
「あんなぁ、大神はん。Qはんの前ではいいにくかったんやけど」
意を決したように紅蘭が口を開いた。
「さっきの兵器なぁ。確かに今までのもんより格段に協力や。けど、弱点がある」
「弱点?」
「一つは、いろんな意味で機械の限界ギリギリの性能をだしてるさかい、兵器としての寿命も短くなってるし、整備も難しいこと。ほんで、もう一つは、強力がゆえに、えろう扱いにくいものになってしもーとるんや」
「そういうことか」
考えてみれば、あれだけの威力。反動だけを考えても従来の数倍だろう。
そういえば、Qは技術力がある分、技術が暴走しがちな癖があったのを思い出した。
「世の中うまくはいかないもんだな」
敵が強力になっていくのに神武自体は性能が向上していない。それを操縦者自身の技量向上と集団戦術により対抗してきたが、すでに限界に近い。それを打開できるかとも、大神は期待したのだが。
「まあ、大神はんが悩んでもーてもしょうがあらへん。Qはんや月組のみんなにまかせておかんとな。それよりも、うちの会心の発明をみてーな!」
紅蘭はとある一角に大神を連れてきた。
「なんだいここは?」
「使ってない倉庫やったから、うちの個人的な発明をおかせてもろーとるんや」
大神も見た事のある『えんかいくん』や『まことくん』などもあれば、何なのか見当もつかない怪しげな発明品の間をぬっていく。そして、その最も奥に、紅蘭の“会心の発明”はあった。
「どや、これがうちの『紅神(ほんしぇん)号』や!」
そこにあったのは、紅い羽布張の単発複座複葉機であった。
「ついこの前、完成したばかりのほやほややでぇ」
確かに真新しい。
「そうか……ようやく、現実になろうとしてるんだね」
大神は、かつて紅蘭が語ったことを覚えていた。彼女が子供のように目を輝かせて語った夢のことを。
「い、いややなぁ。そんな風にいわんどいてんか」
照れ隠しに紅蘭は大神の頭をすぱーんとどついた。
「い、いててて……」
いささか力が入りすぎだ。だが、紅蘭は気づかず、紅神号の解説を始める。
「この紅神号の発動機は、うちの開発した蒸気霊子併用型、祝(いわい)11型や。こいつは星型十気筒に真式霊子機関の簡易型を組み合わせたもんやで。この前、大神はんが海におとしてくれた蒸気自動二輪の発動機はこれの試験機も兼ねてたんや」
「ふーん」
とりあえず聞いてはいるが、大神には半分くらいしか理解できない。
「で、紅蘭。いつ初飛行するんだい?」
「問題はそれや。大神はん、今までの説明で、なんで複座になってるかわかったやろ?」
「え、いや、その……」
わかっていない。
「だからやな。霊力の強い人間が二人おらんとちいとばかしパワーが足りんのや」
大神の背筋に流れる冷たい汗。
「ということは……」
「そや。後席は大神はんや。これから初飛行するで!」
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