Act5-5
「じゃあ、大神はん。うちの実験室にいこうか!」
花組所属に戻ったとはいえ、花やしき支部長代理まで努めた紅蘭である。彼女の実験室は依然として残されていた。
「待ってくれ。一応、弓大佐のところに挨拶していこう」
紅蘭の後を継いで花やしき支部長代理に就任したのは、風組隊長でもある弓慶一郎(ゆみ・けいいちろう)である。帝國陸軍技術士官であった彼は、霊子兵器については世界屈指の技術者である。が、それゆえ保守的な用兵側と度々衝突し、陸軍内部で孤立していた。だが、その腕を買っていた米田に華撃團設立時に引き抜かれたのである。
「大神一郎、入ります!」
「李紅蘭、入ります!」
弓大佐の私室までたどりついた二人は、その扉を開ける。
「やあ。よくきたね」
弓はにこやかに迎え入れる。
「おひさしぶりです。弓大佐」
大神が肘を開かない海軍式の敬礼を決める。
「大神くん。よしてくれ。私のことはQで構わないといっただろう」
Qとは「弓」の音読からきた彼の渾名である。
彼自身もそれをいたく気に入っているようで、華撃團内部ではすっかり「Q」で通っている。
「ところで、君たちがくるというので、色々容易させてもらったものがある。紅蘭、第3装備実験室に大神くんを案内してくれたまえ」
「ははーん。アレを見せる気やな」
紅蘭にはピンときたらしい。
「そういうことだ」
Qもニヤリと笑う。
知らぬは大神ばかりというわけだが、ともかくそこまで行かねば始まらないようだ。
大神は紅蘭に案内されるまま移動する。
「さあ、ついたで!」
第3装備実験室は霊子甲冑の装備などを試験する花やしき支部でも最も大きな実験室である。
『大神くん。まずはこれをみてくれたまえ』
Qの声がスピーカーから流れてきた。実験制御室からの彼の遠隔操作により、実験室の床が開き、装備がせりだしてくる。
『これが、神武用新型兵装の一つ、一五試霊子速射砲だ!』
従来の霊子速射砲に比較すると、銃身が何倍も長い。おそらく、これを神武に取り付けて腕を伸ばせば、銃口が地面についてしまうだろう。
『では、試射するぞ。的は三〇糎のシルシウス鋼板だ』
けたたましい蒸気音とともに、銃身が回転し、射撃が始まる。目標とされたシルシウス鋼がみるみる切り裂かれていくのが肉眼でも確認できる。
「凄いな!」
大神は嘆息する。
口径は同じだが、長砲身になっており、初速が向上している。貫通力は比較にならないほど強力になっているようだ。
『装薬も改良してある。薬室を新形状にしたから、耐圧が増している』
抑えてはいるが、得意気なQの声が響く。
『続けてはこれだ』
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