Act5-3

「へー。ずいぶん復旧したんだなぁ」
 大神が 帝撃復帰後、花やしき支部を訪れたことは何回かある。それこそ、翔鯨丸での出撃時には毎回ここに出入りしているわけである。しかし、それは純粋に帝撃としての任務としてである。今回のように浅草線を使って、営業中の遊園地としての「花やしき」を訪れるのははじめてのことだ。
「大神はん。復旧ってーのは間違いでっせ。ここは復興したんや」
 紅蘭が胸をはる。
 実際、花やしきの施設は面目を一新し、帝都大戦以前の施設はほとんど残っていない。
「ほら。これなんて、うちの自信作やで」
 紅蘭が指さしたのは新生花やしきでも一番人気の施設、『弾丸列車』だ。後に帝國最古のジェットコースターとして有名なったものである。
「へぇ。排気管が見えないけど、動力は何を使ってるんだい?」
「ははは。甘いで、大神はん。あれは列車に動力があるわけやないんや。見てみぃ、動き出しの最初のところに坂があって、その上まで列車をチェーンで引き上げてるやろ? あれで位置エネルギーを稼ぐんや。そしたら、あとは高低差を利用して位置エネルギーを運動エネルギーに変換してるっちゅうわけやで」
 もちろん、それを実現する為には綿密な計算が要求される。
「なるほど、さすがは紅蘭だね」
「あたりまえやがな!」
 臆面もない。
「そや、大神はん。あれ乗ってみーへん?」
「ええ? あんなに待ってる人たちがいるのに?」
 人気施設とあって長蛇の列ができている。
「なーに。うちが一声かければ、裏から入って最前列に座れますさかい、大丈夫よって!」
 だが、大神は眉をひそめた。
「紅蘭。それはいけないよ。自分達の都合だけで動き、人の迷惑を考えないようじゃね」
「……そやな」
 紅蘭もはっとしてうなだれる。
 大神と一緒にいることで、浮かれていたのかもしれない。
「でも、列に並んで乗るなら、別に構わないよ」
「ほんま?」
 一転、紅蘭の顔が明るくなる。
「ああ。紅蘭がそうしたいならね」
「よっしゃ! そうと決まれば、早く並ぶでぇ!」
 列の後ろにつき、我慢強く順番を待つ。
「それにしても、平日の昼間だと言うのになぁ」
 幼い子供を連れた家族連れはまだしも、恋人同士らしい男女が多い。
「大神はん。それを言うたら、うちらも今、ここに並んでますやん。しかも、二人きりで」
「そ、それはそうだけど」
「どうせなら、溶け込まんといかんで!」
 紅蘭は大神の腕を自分の腕で抱え込んだ。
「こ、紅蘭!?」
「静かにしなはれ大神はん。こうやって、恋人同士のふりをしとけば、うちがあの帝劇花組の團員だとはわからしまへんよってな」
 大神はついつい忘れがちだが、帝劇花組といえば、あれだけの大きさの劇場を毎公演、満員にできるだけの実力があるスタア達なのである。紅蘭がいうことも、もっともだと思ってしまう。
「わかった。こうしていよう」
 が、紅蘭の本心はもちろん違う。やや上気した顔がそれを如実に表している。
 そして、彼方でも、その本心に気づいている人々がいた。

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