Act5-2

 紅蘭の部屋の前に、すみれ、さくら、カンナ、アイリス、そして……マリアの全員が揃っている。
「マリア。あなた、偉そうなことを言っていたわりには、結局、くるのね」
 すみれが鋭い口調で言う。
「いえ、その、私は花組の副隊長として、隊員のみんなと一緒に活動しなくてはならないわ」
 下手な言い訳である。こと恋愛に関してはすみれの方がよほど素直だ。
「まあ、いいわ。それよりも中が気になるわね」
 すみれは扉に耳をよせた。他の全員もそれに習う。
 すると、そこから聞こえてきたのは……
『大神はん。本当のことだけ言ってや。うちに気をつかったりしたら、余計、惨めになるさかい』
『わかってる』
『ほな………大神はん、うちの……こと……どう思う?』
 とぎれとぎれだが、言葉としては聞き取れる。
『素晴らしいよ。こんな……見たことないよ』
『……もっと近くに……』
『……紅蘭しか見えない……』
『ほんま? うち、ごっつ嬉しいでぇ!』
 さくらとすみれの視線が合う。そして二人は小さくうなずきあうと、おもむろにドアを蹴破った。
「ちょっと! 何をしてるんですか!」「ですの!」
 勢いよく踏み込んだ二人だが、そこは紅蘭の部屋のこと。たちまちコードに足をひっかけて派手に転倒。そして、コードを引き千切られたために、大神が被っていた紅蘭の発明品は大爆発をおこした。
「あ! 大神はん!」
 爆発の煙の中からゆっくりと現れた大神は、しばらくは呆然と直立していたが、やがて黒焦げのまま、床へと崩れ落ちた。
「きゃぁぁ! 大神さん!」「中尉!」「隊長!?」「お兄ちゃん!」「隊長、しっかりしろ!」
 次々と室内に現れる花組の面々だ。紅蘭は驚きから立ち直ると、不機嫌そうな視線を彼女たちに向けた。
「みんな、立ち聞きしてたんか? 趣味悪いでほんまに」
 だが、すみれは敢然とそれに反論した。
「あら、紅蘭。あなたこそ趣味が悪くてよ。中尉にそんな怪しげな代物を被せて洗脳して愛の語らいをするなど!」
「はぁ?」
 紅蘭は呆れたような表情だ。
「なに言うてんねん。これはうちの開発した新型霊力感知器“みえーるくん”やで! あらかじめ特定の霊力情報を入力しておくことで、その霊力の持ち主のみを追いかけることができる上、個人携帯可能な小型化に成功した画期的なもんや。うちの霊力情報を入力しておいて、その実験を大神はんにしてもろうておったんに!」
ちなみに、先程の会話、全てを再現するとこうなる。

 “みえーるくん”を背負い、その防塵眼鏡型の表示装置を装着し、霊力の持ち主を示す光点を見ている。
「大神はん。(実験なんだから)本当のことだけ言ってや。(本当は失敗作なのに、成功してるなんていって)うちに気をつかったりしたら、余計、惨めになるさかい」
「わかってる」
「ほな、実験開始や。大神はん、うちの発明品の使い心地、どう思う?」
「素晴らしいよ。こんな小型軽量な霊力感知器は見たことないよ。きちんと紅蘭の霊力を捉えている」
「それじゃあ、それをもったまま、もっと近くにきて、反応を試してみてや」
「ちゃんと光点は動いてるよ。それに、紅蘭(の霊力を示す光点)しか見えない」
「ほんま? (“みえーるくん”がうまく動いて)うち、ごっつ嬉しいでぇ!」

「もう、おかげで折角の“みえーるくん”が台無しや!」
 紅蘭は怒り心頭だ。
「大神はん。いくで!」
 先程の爆発でまだ煙をあげている大神をひきずりおこすと、紅蘭は部屋をでていこうとしている。
「ちょっと、紅蘭。隊長を連れてどこにいくの?」
 マリアが慌てて呼び止めるが、紅蘭は振返りせずに答える。
「花やしき支部や。あそこなら実験に邪魔も入らないさかいな」
 彼女をとめる資格があるものは誰もいなかった。

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