Act3-8
「カンナ。開けてくれ」
大神が乱暴にカンナの部屋のドアをノックする。
「そんなにしたら、ドアがこわれますことですわよ」
カンナが顔を出した。
「カンナ。今から地下の鍛練室にいくんだ」
「いやですわ、中尉。私は空手など、もういたしませんわ」
実際、カンナは変貌してからこの方、一度も鍛練室へ足を運んでいなかった。
だが、大神は厳しい口調で続ける。
「いいからくるんだ。これは命令だ!」
強引にカンナを引っ張って連れていく。
「自由組手だ。準備はいいか?」
「中尉。いいかげんにしろ……いえ、してくださいな」
「いくぞ!」
嫌がって、構えもしないカンナに、大神は次々と技を叩き込んでいく。
「うわ、ちょ、ちょっと!」
態勢が整っていないカンナだが、さすがにうまく攻撃をかわしている。しかし、じりじり後退していく。
「よけてばかりじゃ、駄目だぞ!」
大神が中段蹴りを放つ。よけようとしたカンナだったが、足を滑らせた。
バランスを失った彼女の脇腹に、大神の足がめり込んだ。
「くっ……隊長、あてやがったな!」
「まじめにやらないヤツには制裁だ!」
無茶苦茶である。大神は寸止する気はさらさらないのだ。幸い、カンナの鍛えあげた筋肉がダメージは最小限に食い止めている。
「いくら隊長といえども、もう、我慢ならねぇ!」
そんなカンナを無視するように、大神が右の裏拳を出す。だが、裏拳は当たれば大きいものの、モーションが大きく見切られやすい。
カンナは右手で大神の拳を遮ると同時に、カウンターの右上段蹴りを入れた。小気味のいいくらいの音がして、大神の顔面を直撃する。元来、カンナの修めた琉球空手霧島流は実戦武道だ。その威力は折り紙つきである。
「ぐわっ!」
大神が吹き飛ばされた。仰向けに倒れた彼の顔面は血に染まっていた。
「た、隊長! 大丈夫か!?」
我に返ったカンナが大神に駆け寄る。
「ああ。さすがだな、カンナ」
大神は流れ出る鼻血をおさえながら上半身を起こした。
「それよりも、元に戻ったじゃないか」
「え!? いや、えーと………」
怒りで地が出たのだ。
「カンナ。君は自分が嫌いかい?」
「……それは……」
「でも、カンナは変わりたいんだろう?」
そう、カンナは変わりたかった。
マリアが女らしい服を着、喜劇にでるようになった。
サクラとすみれが男っぽい役をやれるようになった。
紅蘭は昔からの器用さに磨きがかかってきた。
アイリスは日一日と成長してきた。
みんな、変わっている。成長している。
だが、自分は……
役はいつもと同じような役。
唯一のとりえの空手も、思うようにいかない。
成長するどころか、退化しているではないか。
そうしたら、自分に何が残るというのだろう?
マリアのように冷静さはない。
さくらやすみれのように女っぽいわけではない。
紅蘭のように知識があるわけではない。
アイリスのように強い霊力を発揮できるわけではない。
「あたいは……」
しかし、そこから先は言葉がでない。
彼女自身、本当は何をどうしたいのだか、答えがだせないのだ。
「らしくないぞカンナ! カラにこもったりして」
「隊長……」
「誰だって、自分に嫌気がさしたり疑問を抱いたりする時はあるさ。けど、それを自分の力にかえていかなきゃ、自分が自分である意味はないぞ!」
「わかんないよ、あたい。どうすればいいいんだよ!」
「今の組手でわかったろ? カンナは琉球空手霧島流第二十八代継承者なんだから、それを否定しちゃ、答えは見つからないさ。自分に素直でなきゃいけないってことだ」
それはかつて、あやめに教えられたことだ。
「同じ帝撃の仲間に、無理に装うなよ。答えが欲しければ、一緒に探せるさ!」
「隊長!」
カンナの目にうっすら涙が滲んでいるように見える。
「だいたいだな。カンナがおしとやかだったら、ただの筋肉質の食いしんぼだぞ。社会の為にも帝撃花組切込隊長でいてくれないとな!」
「……そこまでひどいかよぅ!」
一転、憮然とした表情となるが、そこには先程まってあった暗い、迷いの表情はない。
「さあ、みんなのところにいこう!」
その時、警報音が響き渡った。
「でたな! いくぞ、カンナ!」
「おうよ!」
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