Act3-7

 3日が過ぎた。
 カンナの態度は相変わらずである。。今は、サロンで蓄音機を聞きながら、ハーブティーを飲んでいる。
「うーん」
 大神は自室で頭を抱えていた。
 米田にも相談しにいったが、「俺に理由がわかるか。隊員のことはお前が何とかしろ」と言われただけである。
(こんな時、あやめさんがいてくれたら)
 だが、彼女はもういない。
 自分が副司令格であり、花組をひっぱっていかなくてはならない。気を取り直して、部屋を出る。
「あ、さくらくん」
 ばったり、さくらと出会う。
「あ、大神さん」
「どうだい。何かわかったかい?」
「いえ、何も……」
 もちろん、カンナのことだ。
「うーん……」
 と、そこに紅茶を飲み終えたのか、カンナが通りかかった。
「あら。お二人とも、仲のおよろしいことで」
「カ、カンナ」
「カンナさん」
 なにか、だいぶやつれたようにも見える。
「うらやましいですわ。私も中尉と楽しくお話させていただきたいですのに」
「え、うん。いつでもいいよ」
「いえ。お二人の語らいを邪魔するほどあたい、いえ私は野暮ではありませんので、失礼いたいますわ」
 去りゆくカンナの背中を呆然と眺めていた大神だが、ハッと我に帰った。
「さくらくん。俺はカンナの様子を観察してみるよ」
「頑張ってくださいね、大神さん!」
 要は尾行するということである。カンナはそんな大神には気付かず、階下へ降りてゆく。やがて、食堂にさしかかった。
 そこには、マリアとアイリスがいる。アイリスが何やらおやつを食べているところだ。マリアはアイリスの面倒を見ているところらしい。
「あら、アイリス。いいわね」
「カンナおねーちゃん! 一緒に食べる?」
「遠慮しておきますわよ。ゆっくり、おやつを楽しみなさい」
 「食堂の主」とまで呼ばれたカンナが、素通りしていくとは。前と変わったことはわかっているとはいえ、やはり、驚きをかくせなさい。
「あ、お兄ちゃん」
「しーっ!」
 カンナを追って食堂を通ろうとした大神は慌ててアイリスの口を塞ぐ。
「カンナに気付かれないようにしてるんだから、大声を出さないでくれ」
「はーい」
 素直なアイリスである。
「しかし、相変わらずの調子だなぁ」
「けど、カンナおねーちゃん、このケーキを見て、食べたそーにしてたよ」
 アイリスが言う。
「え、そうだったかな?」
「うん。だって、お腹がグーッってなってたよ!」
 突如、大神の顔が真剣になる。
「アイリス……その時、カンナの心を読んだか?」
「えっ……その、えっと……」
 アイリスは言い淀む。彼女は普段は力を使わないように強く戒められている。中でも心を読む能力は特に使ってはいけないといわれているのだ。
 とはいっても、心を読んでいるかどうかは、他人からはわからないから、時々、悪戯心が頭をもたげ、力を使っているののである。こういうところは、アイリス自身は嫌がるだろうが、まだまだ子供だ。
「怒らないから、言ってごらん」
「……あのね、とっても難しいかったの」
「難しい?」
「うん。食べたいけど食べたくなくて、普通にしたくなくて、普通にしたいの」
 心が揺れ動いているということだろう。
「でも、はっきりしてるのは、変わらなくちゃ、って思ってることだったよ!」
「そうか。ありがとう、アイリス」
「えへへ。お兄ちゃんに褒められちゃった!」
 アイリスは満面に笑顔を浮かべる。
「アイリス。調子にのっては駄目ですよ。力をむやみに使ってはいけないのですからね」
「はーい。わかってますよーだ」
 マリアがすかさず手綱をしめるので、アイリスはふくれてしまった。
「はははは。じゃあ、もういくからね」
「お疲れ様です、隊長」
「お兄ちゃん。頑張って!」
 食堂を出ると、すでにカンナの姿は見えなくなっていた。
(変わらなくちゃ……か)
 その言葉が、今回の鍵に思えた。だが、まだ情報が足りなすぎる。
「よし、事情通のところにいこう」
 事務室へ向かう。
「大神さん。何か御用ですか?」
 由里が出迎えた。帝劇の一人井戸端会議とも評される彼女こそ、大神の目当てとする人物である。
「やあ。ちょっと、カンナのことを聞きたいんだけど」
「えーっ。カンナさんですか? そういえば、最近、様子がおかしいんですよね」
「うん。それで、何か知らないかと思ってね」
「そうですねぇ。そういえば、カンナさんって、花組で一番の年長じゃないですか。この前、中学校の同級生が結婚して、その同級の中で未婚で残ってるのは女性ではカンナさんだけらしいですよ!」
 カンナも21歳。太正時代では適齢期も末期である。
「他には?」
「そうですねぇ。大神さんは、自分のことを女として見てくれないのかな、ともいってましたよ。もてますね、大神さん!」
「からかわないでくれよ」
 しかし、次第に輪郭が掴めてきた。
「ありがとう、由里くん」
「どういたしまして。またきてくださいね!」
 大神は、ある決意を固め、歩き出した。

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