Act3-5

 乃木神社では、黄泉兵が暴れていた。
 太正元年に明冶帝の後を追って自決した乃木希典陸軍大将をまつるこの神社は、原宿にあった乃木邱を改築して完成したばかりで、帝都で最も新しい神社といえる。しかし、その神社は無残に破壊されようとしていた。
「そこまでよ!」
 七色の煙があがる。
「帝國華撃團、参上!」
 七機の神武がポーズをとる。
「ふははは。ようやく来たな、華撃團!」
 空中から声がする。
「誰だ!?」
 大神が見上げれば4人の人影が、宙に浮いている。その中央の男が首領格らしく、口を開いていた。
「君達に自己紹介さしあげようと思って、待っていたんだよ」
「なに!?」
「我が名はヒルコ。帝都を破壊するものだ」
「帝都を? そんなこと、俺達が許さないぞ!」
「ふははは。威勢がいいことだな。だが、我が数千年の恨みは貴様らごときには挫くことはできん。せいぜい、部下達で遊んでやろう」
 すると、ヒルコを守るように並んでいる三人の降魔達が口を開いた。
「我等はヒルコ様の忠実なるしもべ、『暗黒の三戦士』。我は『地の陽炎』」
「同じく『風の不知火』」
「同じく『水の荒波』」
 どれもかなりの実力の持ち主だ。比較的霊力感知能力の低い大神すら霊力をはっきりと感じることができるのがその証拠である。
「荒波。ここはお前に任せたぞ」
「はい。ヒルコ様」
 ヒルコ、そして続いて、陽炎と不知火も姿を消した。
「さあ、どうしてくれましょう」
 残った荒波は中性的なスラリとした外観だ。優男風だが、首の切れ目――おそらくはエラと、指の間の水掻きが異形のものであることを示している。
「まずは、あなたたちの戦いを実際に見てみたいわね」
 荒波がパチンと指をならすと、黄泉兵が更に出現した。
「さあ、やっておしまい!」
 黄泉兵が帝撃に迫る。だが、もちろん、黙っている帝撃ではない。
「いくぞ、みんな!」
「了解!」
 まずは、カンナが先陣を切る。
「チェストォ!」
 得意の空手を繰りだしていく。だが、いつものキレがない。
 大神に組手で負けたことから、気合を入れているのだが、逆に入り過ぎて動きが固くなっているのである。そして、それが焦りをうみ、余計にキレをなくしていく。
「畜生、何なんだ!」
 苛立ちは隙をうむ。
「え!?」
 黄泉兵がいつのまにか懐に入っている。
「やられる!!」
 思わず目をつぶる。しかし衝撃はこない。
「!?」
 目をあければ、視界一杯に広がる純白の機体。
 大神だ。
「サンキュー、隊長!」
「カンナ。落ち着いていけよ」
「わかってるって」
 だが、なかなか調子は戻らない。黄泉兵一匹に苦戦している。
「くそぅ。あたいの全てをここに! 四方攻相君!」
 必殺技を繰り出しても、まだ、黄泉兵は生きている。なおも攻めたてて、ようやくに倒すことができた。
「次は!?」
 だが、すでに他の黄泉兵は一掃されていた。
 他のメンバーはすでに荒波の周囲を取り囲んでいる。
「畜生。遅れをとったぜ」
 急ぐカンナだが、その間にも荒波は戦闘態勢を整えている。
「なるほど。ミロクごときでは、確かに勝負にならないですわね。ならば、私も愛機を使わねばなりませんね」
 荒波が呪文を唱えると、青い機体が姿を表わす。
「我が魔霊甲胄「青穢」を見るがいいわ!」
「くるぞ、気をつけろ!」
 大神の読みはあたった。
「いきますわよ。爆波征天昂!」
 荒波の必殺技が襲いかかる。
 だが、防御態勢をとあっていた、花組の面々はそれを耐えきった。
 ただ、一人をのぞいて。
「え!?」
 走るカンナの目の前に、荒波の技が迫っている。急ぐことに気をとられ、防御態勢をとっていなかった彼女はまともにその技をくらってしまった。
「うわぁぁぁぁ!」
「カンナ!」
 カンナの神武は煙を噴きあげ、ピクリとも動かない。
「マリア! カンナを援護して撤退させてくれ!」
「了解!」
「すみれくん! いくぞ!」
「わかりましたわ。中尉!
 すみれと大神の神武が隣接する。
「髪に揺れるは乙女の心」
「胸に抱くは帝都の未来」
「あなたと」
「きみの」
「情熱よ、ここに」
「赤熱鳳仙花!」
 合体技で荒波を怯ませ、カンナの撤退を助ける。
「これが科学の力や! いけ、聖獣ロボ!」
「破邪剣征・百花乱舞!」
 紅蘭とさくらも大神の意図を察し、必殺技を叩きつける。
 その甲斐あって、カンナの撤退は成功した。
「パルーク・ヴィチノイ!」
 戦線に復帰したマリアも必殺技を放つ。荒波も反撃してくるが、花組は一歩もひかない。
「イリス・シャルダン!」
 アイリスが消耗する各機を回復させる。
「もう、しつこい連中ね。そういうのは嫌いなのよね」
 荒波は、もう一度、爆波征天昂を放つ。
 大神たちがそれを防御しきって、視界がはれると、荒波も青穢も姿を消していた。
「くそ、逃げるか?」
「そうとってもらっても構わないわよ」
 どこからともなく声がする。
「不利な戦いを意地と面子だけで続けるのは得策ではないからね。次は万全をきしてやらせていただきますから、楽しみにすることだわ」
 そして、その声すらなくなった。
「……勝ったのか?」
「そうやで、大神はん。敵が撤退したさかい、勝利や! さ、いつものいくでぇ!」
 紅蘭が音頭をとった。
「勝利のポーズ、決めっ!」
 だが、そこにカンナの姿はなかった。

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