Act3-2

(うーん。何とかして楔を処理するうまい方法を考えないと……)
 次々とおそう難題に考え込みながら、廊下を歩く大神を、さくらが呼び止めた。
「大神さん。どこにいかれるんですか?」
「ん。昼だから食堂で昼食をと思ってるんだけど」
「そうしたら………大神さん。私と一緒に食事しませんか?」
「あ、ああ。構わないよ」
 はにかみながら言うさくらの可愛さに思わずどもる大神である。
「よかった。お弁当をつくりすぎちゃって」
 食事は食堂でもとれるが、隊員達は、味を変えるためや、単に趣味などからしばしば弁当をつくっている。
 しかし、さくらが広げる弁当はどうみても、つくりすぎなどではなく、大神のためにつくったものであることは明白だ。
「うわぁ。おいしそうなお弁当だね」
「えへへへ」
 だが、そこに割ってはいる高笑い。
「おーほっほっほっ。さくらさん。そんなブタの餌、中尉にふさわしくなくってよ!!」
「す、すみれくん!?」
 すみれは大神の前に重箱をおいた。
「中尉。築地の一流の料亭から取り寄せました材料を、神崎家お抱えの料理人に調理させましたのよ。やはり、中尉にはこれくらいのものでないと、ふさわしくございませんもんね」
 重箱の中にはなるほど、確かに高級そうな料理がつまっている。
「ちょっと、すみれさん!」
「あーら。なんですか、さくらさん」
「後からでてきて、随分な言い草じゃありませんか!」
「失敬な。中尉には、そーんな貧相なお弁当を食べさせるわけにはまいりませんわ」
 睨み合う二人は、やにわに大神に顔を向けた。
「大神さん! どっちを選ぶんですか!」
「大神中尉! どちらを選ぶんですの!」
 大神は詰め寄る二人に、気圧される。
「え、ええと、その……」
 言い澱んでいると、二人はまずます詰め寄ってくる。
(えーい! これしか考えつかない!)
 やにわに大神は両手に箸をもった。そして、二人の弁当のおかずを同時に掴むと、同時に口に押し込んだ。
「は、はは。両方ともおいしいよ、うん!」
 二刀流で培った器用さが、すんでのところで大神を救ったのだ。まさに芸は身を助く。
「大神はん。あんたも世渡りが上手になったなぁ」
 半ば同情しながら紅蘭が呟いていた。

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