Act2
すみれの別れ

「ふぅ。おちつくな」
 大帝國劇場の隊長室に入るなり、大神はそう呟いた、
 久々の大帝國劇場だが変わりはないし、米田大将をはじめ、椿や由里、かすみといったメンバーも変わりがない。
(また、ここでの生活がはじまるのか)
 そう感慨にふけっていると、ドアをノックする音がする。
「はーい。大神は留守ですよ」
「はははは。大神はん。相変わらずな」
「その声は紅蘭か!」
 慌ててドアをあける。
「李紅蘭、ただいま花やしき支部から帝國華撃団・花組に復帰しました!」
 紅蘭は、花やしき支部長代理として帝劇を離れていたのである。
「元気そうだね。立ち話もなんだから、中に入りなよ」
「あははは。大神はん、うまいなぁ。そう言って何人の女の子を泣かしてきたんや?」
「い、いい!?」
「冗談や。冗談。残念やけど、みんなサロンにおるさかい、そっちで話せぇへんか?」
 言われるままサロンに出てみれば、確かにみんなそろっている。
「紅蘭。花やしき支部は再建できたの?」
 マリアが真っ先に声をかけた。
「そやね。そこそこ被害はうけてたけど、地下の工房はシルシウス鋼やから、大した事はあらへん。でも、地上の遊園地部分は全損してしもうたさかい、ようやく営業ができるくらいになったとこやね」
「ねぇねぇ、紅蘭」
 今度はアイリスだ。
「また、ひみつへーきをつくってよ!」
「おお、いいねぇ」
 すかさず、カンナが茶々をいれる。
「空中戦艦ミカサみたいにどかーんとでかい奴をさ!」
 ミカサはさすがに修復不能で廃艦となっていた。
「無理いいなさんな。あないに巨大なもん、一年やそこらでできるわけないやろ。翔鯨丸の修理にだって半年かかったんやで」
「ははははは」
 笑いながらも大神の表情には一抹の暗さがある。
 つまり、現有兵力で戦わなくてはならないということだからだ。
 ならば、できるだけの戦力を整えなくては。
「後はすみれくんがくれば、全員だな。彼女はいつ戻るんだい?」
 何の気なしに言った大神の言葉だが、座を凍りつかせた。
「……? どうしたんだ、みんな?」
 みんなうつむいている。
 しばらくの沈黙の後、カンナが口を開いた。
「あいつは……すみれは、俺達を裏切りやがったんだ!」
「なんだって!? どういうことだ?」
 他の隊員達はまだ顔をあげず、カンナの言葉を誰も否定しようとしない。多かれ少なかれ、皆、同意しているということなのか。
「マリア。説明してくれ。すみれくんはどうしたんだ?」
「………わかりました」
 渋々といった感じでマリアが口を開く。
「隊長が海軍に戻られてすぐでした。突然、すみれさんは花組を辞めると言い始めたのです。その日のうちに米田支配人に辞職願いを出しました」
「それで、支配人は受理したのか?」
「はい。翌日には荷物をまとめて出て行きました」
「帝撃をやめる理由は何だったんだ?」
「それが、何にも聞かされておりません」
「うーん。カンナは理由を知らないのか?」
 あるいはと思い、尋ねる。
「けっ。あたいにもなーんにも話しちゃくれてねーよ。ま、話しにきたとしたって、聞いちゃやらねーけどな」
 何も言わずに出ていったことが、よほどカンナを傷つけているようだ。
「さくらくん、彼女から連絡は?」
「いえ……。こちらからも何度か連絡したんですが、なしのつぶてで……」
 さくらも顔を曇らせている。しかし、どちらかというとすみれに何が起きたかを心配しているという風だ。
「うーん。そうか、そんな事になっていたのか」
「だから、隊長。あんなやつのことなんて忘れちまえ」
 カンナはそう言うが、大神は考え込む。
 勝利したとはいえ、紙一重であった帝都大戦。
 正体不明の敵の実力は未知数。
 ならば……
「帝國華撃団・花組は七人で一つ。一人を欠いたままでは、花組じゃないんだ!」
 そう言って、大神は立ち上がった。
「大神はん! どこにいくんや?」
「米田支配人のところだ!」
 彼はそのまま階段を降り、支配人室へと入った。

次へ
目次へ
TOPへ