愛の戦士たち(第5話) 作・島崎鉄馬 |
第五話「小さな友情」
仏蘭西 シャンパーニュ地方
大神は火車との一戦の後、帰郷しているアイリスからの手紙を受け取り、レニと共に、仏蘭西シャンパーニュへ向っていた。
『お兄ちゃんへ。アイリスのパパとママがお兄ちゃんをアイリスのお家に招待したいんだって。パパのびょーきも治ったんだ。レニも連れてきてね。3人でパリに遊びに行こう!アイリスが案内してあげる!ぜったい来てね。お兄ちゃんの恋人のアイリスより。』
(恋人ときたか・・・アイリスも相変わらずだな。)
3日前 帝劇支配人室
大神は仏蘭西へ行く許可を米田に貰いに来ていた。
「・・・・・いいだろう、行って来い。」
「ありがとうございます!」
横で座って聞いていた浩忠が不機嫌そうに言う。
「俺は好かんな、戦いの最中に休暇を取るなど。」
「そう言うな浩忠。大神はずっと働き詰なんだ。たまには休暇ぐらい取らせてやれ。」
「・・・・・大神、一つだけ忠告しておく。武器は持っていけ。連中のことだ、お前らの動きは先刻お見通しだろう。」
「はい。」
大神は浩忠の忠告どおり、拳銃と二刀を持ち、レニにランスを持たせて仏蘭西へ向った。
アイリスの実家、シャトーブリアン家はここ、シャンパーニュの大富豪。家でもある巨城やイリス号という豪華客船も所有している。
(で・・・デカイ!!これがアイリスの家・・・)
大神もレニも門の前で間抜けている。
(とりあえず、呼び鈴を・・・・)
ジリリリリリ・・・・!
数秒後、覗き穴から門番が顔を出した。
「どちら様ですかな?」
「あ、大神一郎と言います。こちらレニ=ミルヒシュトラーセです。アイリス・・いえ、イリスお嬢様から招待されて来ました。」
「大神様ですか!お待ちいたしておりました!ただいま門を開けます!!」
ギギギギギギギ・・・・・・!!
巨大な門が開き、門番に案内され、玄関から入った。
(・・・・・広い・・・・)
大神の眼前にはだだっ広いロビーが広がっていた。
「キャハ!お兄ちゃんにレニだ!!」
2階からアイリスが駆け下りてきて、大神に飛びついた。
「アイリス!久しぶりだね!!」
「うん!やっぱりお兄ちゃんは来てくれた!!」
「当たり前じゃないか。俺はアイリスの恋人だろ?」
「キャハ!そうだね!」
「ようこそ、お出で下さいました、大神さん。」
アイリス両親が2階から下りてきた。
「お久しぶりです。アイリスの父、ロベールです。」
「母のマルグリットです。お元気そうですね、大神さん。」
「はい、お2人もお元気そうで何よりです。」
アイリスは今度はレニに飛びついた。
「キャハ!レニも来てくれたんだ!!」
「うん、だって、アイリスはボクの大切な友達だもの。」
「まあ、本当に男の子のような方ですわね。」
「ええ、実は自分も男の子だと思い込んでたことがありまして。」
「ええ、存じております。お風呂で初めて気付いたんですってね?アイリスからの手紙で聞いてますよ。」
「いいっ!?あ・・・アイリス!!」
「キャハ!だって本当のことでしょー?レニがお風呂に入っているところを見るまで知らなかったって。」
「そりゃあ、まあ・・・・そうだけど・・・」
「・・・・・」
わずかばかりレニの顔が赤くなっているような気がする。
(俺がレニと風呂に入った時は顔色一つ変えなかったのに。レニもそういう感情を取り戻せたのか・・・・)
レニは第1次世界大戦の折にドイツ軍が発動した「バックストゥーム計画」により、感情を一切封じ込まれてしまっていた。現在、大神の努力により、徐々に人間の心を取り戻してきている。
「でも、レニもどうして黙ってたの?」
「だって、隊長ならボクの服のボタンの掛け方でわかると思ったんだよ。」
念のために言っておくが女性用と男性用の衣服ではボタンの掛け方が逆になっている。
「そうは言っても、初めて会ったときはボタンが無かったじゃないか。」
「その後すぐに戦闘服に着替えたはずだよ。」
「あ・・・・そうか・・・・」
「クスッ・・隊長もそういう所までは見ていなかったんだね。」
その晩、大神達はシャトーブリアン家のホームパーティーに招待され、優雅なひと時を楽しんだ。
そして次の日、大神はアイリスとレニの3人で巴里へと繰り出した。
「パパ、ママ、行ってきまーす!!」
「大神さんのご迷惑にならないようにするのよ、アイリス。」
「大丈夫だよー、アイリス子供じゃないもーん!」
大神はロベールと話をしている。
「大神さん、アイリスをよろしくお願いします。あの子を安心して預けられるのは、あなたしかいません。」
「はい、お任せください。では、行ってまいります。」
「お気をつけて。」
3人は巴里に着くと、まず、シャノワールに向った。
シャノワール・・・巴里華撃團の総本部でもあり、劇場でもあるこの建物は日本の帝劇に相当する。
「懐かしいなあ・・・・」
大神はシャノワールを見上げ、感傷にふけっている。
「お兄ちゃん、早く入ろーよ。」
「ああ、そうだね。」
アイリスに手を引かれ、3人は中へ入った。
「あ!大神さんじゃないですか!!」
劇場支配人秘書のメル=リゾンと従業員のシー=カプリスに出迎えられた。支配人であるグラン・マに挨拶するつもりだったが、運悪く不在。時間を潰すために大神は巴里花組と街に繰り出した。
大神達は凱旋門、ルーブル美術館などを見て回り、エッフェル塔に登った。
「わあ、高い高い!!」
アイリスが町を見下ろしてはしゃいでいる。
「遠くまでよく見えるね。」
「そうか、レニは巴里に来るのは初めてなんだな。」
「うん。来て良かったよ、隊長。」
ピーッ!ピーッ!
大神の無線機の呼び出し音が鳴った。
「はい、大神です。」
『エリカです。支配人とちょうど下で会いましたのでちょっと下りてきてもらえますか?』
「ああ、わかった。アイリス、レニ。俺はちょっと下りるけど、君らはゆっくりしてていいよ。」
「うん、わかった。」
「・・・・・・」
アイリスは外を見ていて返事をしない。
大神はエレベーターに乗って下りていった。
「・・・・。どうしたんだい、アイリス?」
「ねえ、レニ。アイリスって、まだ子供?」
「え?」
「アイリス、お兄ちゃんの恋人にもなれない。アイリスがまだ子供だから、お兄ちゃんは何か楽しくなさそう。」
「そんなことはないさ。隊長はいつも笑顔でアイリスと一緒に居るじゃないか。」
「でも、やっぱり・・・アイリス、早く大人になりたいよ。」
「・・・・・アイリスは今のままでいいよ。前にも言ったよね?焦らないで、子供の輝きを無くさないように、今のままで大人になればいいって。」
「・・・・・でも・・・・」
ドゴオオオオオオオォォォォォォォォッ!!
「な、何だ!?」
下を見下ろすと蒸気獣が暴れまわっている。
「敵だ!!」
バシュウウウウゥゥゥゥゥゥッ!!
蒸気獣の一体がロケット弾を放った。
ドゴオオオオオオオオオォォォォォォォォォッ!!
爆発の衝撃でエッフェル塔が激しく揺れた。
「きゃああああぁぁぁっ!!」
「わあああああぁぁぁっ!!」
振動に展望台の屋根が落ち、破片がアイリスに直撃した。
「アイリス!!」
レニはアイリスを起こして呼びかけるが返事は無い。足から血が流れている。
「・・・足が折れてる・・・・くそっ!!」
レニはアイリスを抱きかかえてエレベーターに乗り込んだ。既に他の民間人は下りてしまっている。
「エリカ君とコクリコと花火君は塔の客の救助を!俺とグリシーヌとロベリアは奴らを食い止めるぞ!!」
「了解!!」
3人は蒸気獣に立ち向かうが生身の人間と蒸気獣では流石に優位に立つ事が出来ない。その時・・・
バシュウウウウゥゥッ!
蒸気獣がロケット弾を放った。
「ロベリア、撃て!!」
「ちっ!!」
ロケット弾に向けてマシンガンを撃つ。
ドガガガガガガガガガ・・・・ドゴオオオオオオオォォォォォッ!!
空中で爆発したが爆風で塔が再び揺れた。
その衝撃でレニとアイリスの乗っているエレベーターが停止してしまった。
「くそぉ・・・あと少しなのに!!」
ドアをこじ開けて出るという手もあるがアイリスを抱えたまま下りることは出来ない。
塔の客の救助を終えたエリカたちが戻ってきた。
「大神さん!大変です!!アイリスちゃんとレニ君の姿が見えません!!」
「何だって!?」
「エレベーターが1基、途中で停止していましたが、多分あの中に・・・」
「くそぉ・・・」
その時、どこからか声がしてきた。
『仲間のことが心配か?』
近くのビルの上にイオが立っている。
「何者!?」
「くくく・・・貴様が大神一郎か?思ったより随分優男だな。」
「俺を知っている・・・貴様も天海たちの仲間か!?」
「仲間?ふん、あいつらはただのイヌに過ぎぬ。お前達の実力を知るための噛ませ犬だ。お陰で、あの塔にいる2人の強さもわかったがな。」
「貴様・・・レニとアイリスがあそこに居るのを知ってて・・・」
「くくく・・・あの2人は放っておいても死ぬ。お前らも生身の体では蒸気獣相手にそう長く戦えるはずもない。一石二鳥というわけだ。」
既にそうとうの疲労が溜まっている。その上、蒸気獣に取り囲まれている。
「これで終わりだな、大神一郎!!」
ズギュウーーーン!!
銃声が響き、蒸気獣が爆発した。
「何だ!?」
「ははは・・・・これぞ、『果報は寝て待て』だな。」
煙の向こうから、1体の霊子甲冑が姿を現した。
「加山!!」
「おのれ、加山雄一!邪魔をするな!!」
「大神、今のうちだ!アイリスたちを助けにいけ!みんなは急いで霊子甲冑に乗れ!!ここは俺が食い止める!!」
「了解!!」
「加山・・・任せたぞ!!」
大神はエッフェル塔を登りだした。
その頃・・・・
「・・・・・レニ?」
「アイリス・・・気がついたかい?」
「うん・・・ごめんね。何か、レニに助けられてばっかりで・・・」
「気にしなくていいよ。ボクだってアイリスに何度も助けられたんだから。」
「・・・・・お兄ちゃん、助けに来てくれるかな?」
「来るよ。隊長は必ず来る。いつもいつも助けてくれるじゃないか。」
「うん・・・・」
「ボクは隊長を信じているよ。必ず来てくれるって。」
「うん、そうだよね。」
ギギギギギギギギギ・・・
ドアが開き、大神が入ってきた。
「無事か、2人とも・・・・」
「隊長、アイリスがケガを・・・」
「わかった。アイリスは俺が抱えて下りる。レニ、先に下りてくれ。」
「うん、わかった。」
レニは大神の持ってきたロープを結びつけて下りていった。
「さあ、アイリス。俺にしっかり掴まって。下を見ちゃいけないよ。」
「うん。」
「じゃあ、下りるよ。」
大神はアイリスを背中に背負って下りて行く。
「く・・・・後少し・・・・アイリス、大丈夫か?」
「う・・うん・・・・」
「後少しだ、頑張るんだ!絶対に助けるからね。」
「え?」
「アイリスは、俺が必ず守ってみせる!!」
「・・・うん!」
大神はようやく下まで下りた。
「よし、シャノワールに戻ろう。加山を助けに行くぞ。アイリスは医務室で休んでて。」
「イヤ。アイリスも戦う。アイリスも、悪い奴をやっつけたい!!」
「でも、そのケガで・・・」
「隊長、アイリスが戦うって言ってるんだから。」
「・・・・よし、わかった。でも無理しちゃだめだからね。」
「うん、わかった。」
大神達はシャノワールに引き返し、光武F-Rに搭乗し、エリカたちの後を追った。
その頃、エリカたちはイオに苦戦。劣勢に立たされていた。
「このままでは、みんなやられてしまいます!」
「倒しても倒しても増えている!」
「これじゃあ、キリが無い!」
「イチロー、早く!!」
「もう、残りのエネルギーが少なくなってきました!」
「みんな、諦めるな!大神は必ず来る!信じるんだ!!」
「ふはははは・・・・!よしんぼ大神一郎が来たとしても、俺には勝てんぞ。」
「そうかな、イオ!この俺たちに勝てるか!!」
通りの向こうから大神機とレニ機、アイリス機が来る。
「大神一郎!?」
「行くぞ!そりゃあああぁぁぁっ!!」
3機は一斉に敵陣に突入。陣形を乱した。
「ええーーーーいっ!!」
キイイイイイイイィィィィィィィィッ!!
アイリスの霊力波が炸裂。蒸気獣は次々と消えていく。
「目標、捕捉。・・・攻撃。」
ズンッ!!
巨大なランスが敵を貫く。
「よく戻ってきてくれたな、大神。俺はてっきり、好事にうつつを抜かしてると思ったぜ。」
「言うじゃないか。さあ、行くぞ!!」
「オウッ!!」
大神たちの乱入により、巴里華撃團の士気は一気に上がり、劣勢だったが徐々に優勢になっていった。
「おのれ、大神一郎。2度も俺の計画を邪魔しおって・・・このまま引き下がるイオではないぞ!覚えておれ!!」
イオはビルの上から姿を消した。
翌日、大神はアイリスとレニを連れてフランスを後にした。
その船内で・・・
「アイリス、ケガの具合はどうだい?」
「うん。もう大丈夫だよ、お兄ちゃん。」
「そうか、それはよかった。」
「隊長も流石だね。アイリスを背負ってエッフェル塔を下りるなんて・・・」
「いやあ、本当はものすごく苦しかったんだ。でもね、アイリスやレニ、花組のみんなを死なせるわけにはいかないんだ。そう思うと、苦しくても我慢できたんだ。」
「えっ?じゃあ、お兄ちゃん、隊長としてアイリスを助けに来たの?」
「ああ、そうだよ。」
「・・・・・・」
アイリスは一気に脱力してしまった。
「もう、お兄ちゃんのバカ!!」
「いいっ!?どうして!?何で!?」
「お兄ちゃん、ちっともオンナゴコロがわかってない!!」
船は3人を乗せて日本へと向っていた。
To be continued・・・
キャスト
大神一郎
陶 山 章 央
アイリス
西 原 久美子
加山雄一
子 安 武 人
エリカ=フォンテーヌ グリシーヌ=ブルーメール
日 高 のり子 島 津 冴 子
ロベリア=カルリーニ 北大路花火
井 上 喜久子 鷹 森 淑 乃
コクリコ
小 桜 エツ子
ロベール=シャトーブリアン マルグリット=シャトーブリアン
池 田 秀 一 島 本 須 美
松平浩忠
堀 秀 行
イオ
古 川 登志夫
米田一基
池 田 勝
レニ=ミルヒシュトラーセ
伊 倉 一 恵
次回予告
俺は人間ではない。 |