サクラ大戦 第一幕 あたしだけの大神さん   作・97

 時は太正十五年。
 ちょうど黒鬼会を倒し、虚勢を張っていた隊員達も、それぞれの休日を楽しんでいる。
 黒鬼会の統率者であった京極を倒した闘いは…「死闘」と言うニ文字が相応しかった。
 倒されても倒されても立ち上がり、やっとのことで魔装機兵新皇を倒し、帝都の平和を守ったのは記憶に新しい。
 そう…今、さくらは、その恐ろしい闘いを思い出していた。
 あの時は恐怖が体を支配し、動かなくなってしまった自分が愚かでしょうがない。
 今までの闘いで、多少は腕前も上がっていたし、コンビネーションにも磨きがかかっていた。
 しかし…今までの常識で図れる相手とは訳が違った。
 ケタ外れのパワー。
 凄まじい機動力。
 どれをとっても華撃団の光武では歯が立たないように見えた。
 そんな事を考えているうちに、さくらの目の前を、白い物体が凄まじい速さで横切った。
 大神機だ。
 みんなが恐怖に慄き、闘わなければいけない「華撃団」としての使命感と、人間の本性である、自己防衛の本能が争ってるにも関わらず、だ。
 大神は自らの恐怖を断ち切って、正しく「化け物」というに相応しい新皇に、単身向かっていった。

「大神さん」
「隊長」
「お兄ちゃん」
「大神はん」
「少尉」
「少尉サン」
「隊長…」

 と、花組隊員みんながそれぞれの声を上げた。
 その声は奇跡的にも、大神に人間を超越した力を与えた…。
 一撃を加えた後、新皇の腕の間をすり抜け、両手に握られたシルスウス刀に渾身の力を込めて。
 その渾身の力を込めた刀を振り下ろすその姿は、今現在、おかれている状況も忘れて見とれてしまうほどだった。
 一番冷静な判断力を持つマリアでさえ、うっとりとしていたような気がする。
 そして…まずカンナが

「隊長に続けぇー!!」

 と叫ぶと、みな我に帰り、思い思いの武器で新皇に向かっていった。
 花組独自のコンビネーション、増大する霊力で善戦こそしたものの…やはり新皇は強く、紅蘭機が…カンナ機が…織姫機が…すみれ機が…、またたく間に倒れていく…。
 辛うじて生き長らえていた、レニ機、マリア機、アイリス機も…新皇の腕一振りで倒れていった…。
 ついに大神機とさくら機だけになってしまった。

「さくら君、みんな俺の指揮のせいだ すまない」

 と、大神は自分の指揮の甘さを悔やんでいる。
 しかし、さくらはまったくその指揮を失敗だ、と思うことはなかった。
 言葉による指揮はなく一見、バラバラに動いている様にも見えた。
 しかし…見えない糸でつながっている花組の心は、絶妙なコンビネーションで緩急巧みに使い分けた、素晴らしい攻撃を展開していた事は…紛れもない事実だ。
 みんな100%自分の力を出した、と言えるであろう闘いぶりだった。
 恐怖が先立っては、絶対に、あんなに素晴らしい動きは恐らく出来ないだろう。
 いかに常人離れした花組隊員の精神力を持ってしても無理だ、と思う。
 どうして恐怖心がなくなったか、と言えば思い当たる事はたった一つだ。
 大神に対する信頼感と、大神を通じて繋がるみんなの気持ち以外、他にない。

「いいえ大神さん。立派な指揮でしたよ」

 なんて楽天的で、すでに勝利したような発言が口を付く。

「君は絶対俺が守る!」

 力強い大神の発言に、さくらは、この状況で嬉しささえ湧き上がってくる。
 この言葉はさくらを勇気付け、剣技を冴え渡らせるのに、十分なくらいだった。

「ええ!! 絶対…勝って帰りましょう!!」

 さくらは、僅かな笑みと勝利の誓いを述べ、凄まじい速さで大神機とさくら機は…左右に散った。
 その後の展開は言うまでもない。
 凄まじいまでの霊力の宿る刀が、縦横無尽に新皇に迫り狂う。

 ミカサにいた、米田が…かすみが…由里が…椿が…かえでが、何千年ぶりかの様に思えた安堵のため息を漏らした。
 京極の断末魔の叫びと共に、新皇は動きを止めて、床に体を横たえた。
 今までの強暴で、荒れ狂ったような動きが嘘の様だ。
 さくらと大神は今までの中で自信を持って一番と言えるスマイルを浮かべていた。
 作ろうと思っても絶対、作れないものだ。
 達成感と安堵感の二つの織り成す快感は、ミカサに戻ってきた2機の光武の傷だらけの体を、逆に生き生きと見せるほどだった。
 最初は…無傷なのか? なんて、あるはずのない想像までさせたほどである。
 みんな通信で勝利は知らされていたものの、今まで何があるかわからないことを実体験で知ってきた人達だから、鵜呑みには信じられなかった。
 限界寸前の光武をなんとか煙を上げながら動かす隊員たち。
 隊員たちの顔は勝利の喜びに溢れている。
 その中でさくらと大神だけは、一際輝いて見える。
 お互いを支え合いながら、闘い、勝利した事が…さらに二人の笑顔を輝かせる。
 お互いの存在が特別なものである事は、周りのものでもわかるほどだ。
 いつもは突っかかっていくすみれでさえ、

「今日は主役を譲ってあげますわ」

 なんて強がっている。
 アイリスも羨ましいのか

「ずるーいアイリスもお兄ちゃんと遊びたいー」

と違った意味での嫉妬を感じている。  そんな隊員達の姿を見かねてか

「さあさあ、米田長官の許しも得てるし、今日は帰ってパ−ティーよ!!」

 なんて、今までの緊張をふっとばすようにかえでが言った。
 ここまで楽しく笑ってる過ごしている時間も珍しい。
 歌劇団としても、こんなふうにニコニコして稽古や舞台を行っていきたい、と思うさくらだった。

 もちろん、その後のパーティーは、いつにない開放感でワイワイガヤガヤ…と、もちろん楽しかったのだが。
 意中の大神さんは、新皇との闘いのときに感じられた

「あたしの大神さん」

ではなく

「みんなの隊長大神少尉」

になっていた…。

「あの時は確かに大神さんの心が感じられたのに……」

 誰にも聞こえないような声で、そっとつぶやく。
 もちろん、大神の心が感じられないわけではない。
 しかし…感じられるのは、隊長としての気遣いややさしさであり、隊長、隊員としての関係を抜きにして、その気持ちを受けられるかどうか、と聞かれれば…正直YESと言えるほどの自信は、なかった。

「あたしはこんなに好きなのに……」

 今まで押さえてきた気持ちがつい口に出る…涙が出そうだった。
 確かに、パーティーは楽しい。
 みんなもハイテンションで、曇った表情をしている人なんか、誰一人としていない。
 どこからどう見ても、楽しそう。
 …その一言に尽きる。
 しかし、さくら自身も楽しくない訳はない。
 強いて言えば楽しいのだ。
 しかし…大神の心を感じられないことの方が、その楽しさをはるかに凌ぎ、悲しささえ募らせる。
 さくらは、かえでに断って早めにパーティーから抜け出そう、と思った。
 ドアから出ようとした瞬間あの時の白い光武のように、大神がさくらより先にドアに手を掛け、危うくぶつかる所だった。

「あっゴメン さくら君も酔い覚ましかい?」

 もちろんさくらはまだ20歳になり立てで、お酒は弱い。
 もちろん酔いのためなのだが、さくらは…そんな程度しかあたしの事は知らないのか、と思うのに十分だった。
 やはり自分は隊員としてしか思われてない、と思ってしまうのも、仕方がない。
 もう涙が流れそうな顔を隠して…

「失礼…します……」

 と、やっと搾り出したような声で断り、誰が聞いても普通ではない事がわかる。
 それはいくら酔っている大神にも理解できた。
 もう走り出して、見えなくなりそうなさくらを追い掛けた。
 足はさすがに大神の方が速い。

「どうしたんだい さくら君」

 やっと追いついた大神は、さくらの肩をつかみ、声をかける。

「だって大神さんが…あたしの心を苦しめるんです…」

 焦りと二人っきり…という状況だからこそ、出た言葉とはいえ、紛れもないさくらの本音だ。

「俺が何かしたかい? 気に触ったのなら謝るよ」

 と、色恋沙汰には弱い大神が頭を下げる。
 ここまで言ったら、普通わかるだろうが相手は「お堅い」大神である。
 さくらは、本音を言ってしまった恥ずかしさで耳まで真っ赤になる。
 その言葉から推理されて、本音の隠された意味を理解されかねない発言だった。
 しかし、今も目の前で、大神は腕を組み、「何かしたかな?」などと考えている。
 大神のお堅いのも筋金入りの様のようだ。
 さくらは開き直って

「中庭にいきましょう酔い覚ましする予定だったんでしょ」

 と、半分、怒り調子で言う。
 大神もそれを察してか、素直にしたがう。
 ここまで怒るなんてやはり何かしたんだ、と思ったらしく、

「謝るから許してくれよ…。さくら君」

 と平謝りだ。
 もうさくらも、いい加減、怒りが募る。

「大神さんが…あたしがこんなに好きなのに隊員としてしか接してくれないから…!
 …寂しいんです…。
 …もっと、隊員じゃなくて…一人の女のコとして…接してください……」

 言ってしまった。
 さくらは真っ白になった。
 勢いで言ってしまった、って言葉が相応しい。
 当の大神は、まだ状況が把握できない、といった感じで…ボーっ、としている。
 さくらは、その沈黙が耐え切れず、大神の返事を聞かずに、自分の部屋に戻ってしまった。
 自分の…イザ、と言うときの度胸のなさが情けない。
 気持ちを打ち明ける、ということは…こんなにも難しいのか、と思った。
 自分の気持ちを、素直に打ち明けられた、と言う自信がない。
 ヤケになって、つい言ってしまったようにさえ見える。
 その気持ちの答えを伝えに、大神が来てくれる、と思った。

 しかし…大神は来なかった。

 それを答えと置きかえると、大神は自分の気持ちを受けとめてくれなかった事になる。
 それがとても悲しい。
 やっぱり自分は大神の事が自分は好きなんだな、と思った。
 どんどん自分の中で大神の存在が大きくなっている。
 その事が自分でもよーくわかる。
 その分、来てくれなかった事が…さくらにとって一番悲しかった。
 その後、何度か歌劇団の仲間が、パーティーに誘いに来てくれたそうだが…
 さくらは、それが気づかないほどベッドに横たわり、声を殺して泣いていた。
 もう涙が枯れ果てた頃大神との見まわりの時間になった。
 いつもはさくらから積極的に誘って、二人で夜の劇団を見まわるのだ。
 いつもは一日で一番楽しい時間である…はずだった。
 だが、今日はその時間が一生来なかったら良いのに、と思うほどだった。
 大神も気まずいだろうし、今日はさすがに来ないだろうな、と思った。
 しかし、コンコン、といつもの音が、さくらの部屋に響いた。
 一番顔を合わせたくない相手だ。

「大神だけど…。見まわり…するんだけど、一緒にどう?」

 言葉の節々がおかしい。
 その事で、さくらはつい吹き出してしまった。
 今まで泣いていたのに、大神の声を聞いただけで…元気になれる。

 やっぱり好き。
 振られても好き。

 そう自信を持って言える。
 まだ振られた悲しさは…ある。
 しかし…大神はこうして誘ってきてくれている。
 今までと変わらない生活が出来る。
 それだけで満足だ。
 さくらはできる限りの笑みを作って

「大神さん!! 行きましょ!!」

 と、こっちから声をかけて、ドアから出ていった。
 しかし…気まずさを拭い去ることは出来ず、自然と沈黙が訪れる。
 その沈黙を破ったのはさくらだった。

「あたしの気持ちを知ってもらっただけで結構です…大神さん、今まで通り付き合ってもらえますよね?」

 さくらはそれきり黙りこくって、何も言わなかった…いや、言えなかった、という方が正しいか。
 さくらは

「もちろんさ 気持ちにはこたえて上げられなかったけど」

 などという答えを予想していた。
 それに反して、大神は何も答えない。
 やさしい表情は変わらないが、黙々と見まわりを続けている。
 自分の事を嫌いになった、と言いに来たのか…なんて最悪な考えが頭をよぎる。
 その不安のせいで、さくらは大神の見まわりのルートが、いつもと違うのに気づかなかった。
 いかに冷静な判断力が鈍っていたか、が分かる。
 さくらの大神に対する気持ちの大きさも分かるだろう。
 意識して、最後に大神は今日の出来事のあった中庭に入った。
 その時、やっとさくらはわかったようだった。

(ここで言われるんだ)

 そんなもう悪い想像しか浮かんでこない。

「さくら君。いや、さくら」

 いつにない、強い口調で言った。
 さくらは恐怖で身がすくみ上がっている。
 もしかしたら新皇との闘いよりも、恐怖心は大きかったかもしれない。
 だが、大神はそんなさくらの胸中とは裏腹に、いつもの優しい…そして、いつもとは違った…今までにない、真剣な表情で。

 大神はさくらに向きあった。

「今まで中途半端な態度でゴメン…俺はさくらが好きだ。
 …隊員としてでなく、一人の女のコとして。
 …俺でよかったら…。」

 大神が言い終わるか終わらないか、の内に

「大神さぁ〜ん」

 と、歓喜の声を上げて抱きついた…もしくは飛びついた、と言う方が正しいかもしれない。
 大神は目を白黒させている。
 それだけさくらの抱きしめる力が大きいのだが。
 大神は

「この帝劇には沢山の人がいる… 
 でもみんなが寝静まった後なら
 さくらと俺の二人っきりで…俺の気持ちを告げられる、と思ったんだ。
 僅かな時間とは言え不安にさせてすまない。
 それに…やっぱり気持ちを打ち明けられた、この場所で返事も返したかったんだよ」

 さくら、と呼び捨てで呼んでくれる事が、女のコとして扱ってくれてる証拠であり、何よりも嬉しい。
 これからはもっと生活が楽しくなる事が、限りなく現実に近い実感、として感じていた。
 まだ春は始まったばかり。
 彼女は世界一の幸せを感じていた。
 さっきまで恐怖や寂しさで頬を伝いそうだった涙が、正反対の意味で頬を伝う。
 部屋で泣いて…また中庭で泣く。
 これほど泣いた日も珍しい。
 それも、2種類の涙での事だ。
 さくらは、まだ涙のせいでまだ大神に答えられないでいた。
 もっとも答えは決っているのだが……。

「とっても、嬉しいです」

 なんの飾りもない一言。
 しかし…これほどさくらの気持ちを表した一言はおそらく、この世には存在しないだろう。
 涙声で消え入りそうな声…普通に聞いたなら、大した感動もしないであろう。
 舞台でこんなセリフを言うものなら、すみれに

「これだから田舎者は…」

 と怒られてしまうに違いない。
 しかし、大神は感動せずにはいられなかった。
 どんな答えが返ってくるか、は正直わかっていた。
 だが、ここまで心の底から喜びが湧き上がり、気持ちを高ぶらせる言葉は…他にないだろう。
 大神は、今までにない嬉しさと感動を感じていた。
 自分の好きな女のコが、自分の気持ちを素直に受けとめてくれている…ただ、それだけの事なのに。
 胸が熱くなり、自然と顔がほころぶ。
 それはさくらも同じ事だった。

 嬉しい。

 ただ…単純に、ただ…それだけ、だった。
 今にも理性の歯止めが効かなくなって、どうにかなりそうだった。
 大神は、今までと変わりない微笑みを称えている。
 しかし、それは今までの隊長スマイルではなく

「あたしの大神さん」

 そのものの微笑みだった。
 さくらは、初めて強烈に、一人占めしたいものを見つけた、と思った。
 誰でも、一人占めしたい、と思ったことがあるだろうが。
 彼女ほどの、強烈で凄まじい独占欲は感じたことがないはずだ。
 しかし、独占欲特有のワガママのような不快感はなく…。

 好き。

 ただ、その一言の気持ちが起こした、一途な思いだった。
 それは、大神にもよくわかる。
 けなげ、とか、一途、といった類いの言葉が、とことん似合うさくらだが…それはいつも稽古や演技などに向けられ。
 大神自身は知ってこそいたものの、実際にその気持ちを受ける対象になったことは…残念ながらなかった。
 しかし…今は、こんなにも大きく、けなげで一途な想いを受けている。

 稽古しているさくら。
 剣術の練習しているさくら。
 霊子甲冑の中の凛々しいさくら。

 確かに…どれをとってみても、けなげで一途ではあるがその程度が違う上、向けられてる対象も違う。
 対象が違うと、向けられる気持ちの大きさも変わるものだがこれはいい例だろう。
 さくらは今、まさに今まで一番、心の通った時は、いつだろうか? …と考えていた。
 それはもちろん「あの時」である。
 しかし…今日が、そのクリスマスを抜いて、「今から」の一番になるのだが…。

 過去で一番の想い出である、大神と行ったクリスマスの教会。
 その時は、心臓がドキドキ言って、自分が自分ではないみたいだった。
 その時の隊長としての大神は優しくて、さくらが好きな大神そのものだったが…。
 けれど、まだ、お互いの気持ちを知らない分、一線より先に踏み込めず、キスが未遂に終わったのは…言うまでもない。
 しかし…今はお互い両思いであったことがわかった上に、今、いるのは誰もいない中庭だ。

 絶好のチャンスである。

 その上、ちょっと大神は誰にでもやさしくできる性格から、思わせぶりなところが多々ある。
 今…しなければ、いつ出来るか、分からない。
 そんな気持ちが…さくらの心をよぎった。

「大神さん…キスしてください。……言葉だけじゃ………信じられないんです…………」

 決心を固めたのが、確実にわかる態度だった。
 大神も…震える手を、やっとの事で動かし、肩に触れる。

「………良いんだね さくら?」

 答えのわかってる質問をする…。
 何も言わないで頷くさくら。
 ゆっくり目を閉じるさくら。
 そんな行動一つ一つが…大神には愛しく思えた。
 大神は黙って顔を近づける。
 初めて触れ合う唇と唇。
 さくらにとっては、初めての体験だった。

 大神の体温、感触、息遣い…全てが感じられる。
 これが好きな人を感じる、と言うことなのか…と思った。

 さくらにとっては、永遠にも感じられた時間だったが恐らく数秒の出来事だったのであろう。
 大神はそっと唇を離す。
 二人とも何も言わず、沈み掛けた夕日のような真っ赤な顔をしている。
 もう一度

「さくら…俺は君が好きだ」

 大神は言った。

「…私もです……」

 腕をつかんで…さくらも答える。
 さくらは、いくら時が過ぎ…例え、離れ離れになったとしても…絶対変わる事のない感情だ、と確信する事が出来る
 いつまでも大神の腕をつかんでいたい気分だった。
 その気持ちは大神も同じようでまだ多少、顔が赤い。
 その日は、長く、いつまでも心に残る、特別な見回りとなった。




 翌日…。
 大神は、またいつもの

「みんなの隊長大神少尉」

 になっていたが。
 どこにいても、今は大神の温かい気持ちを感じる事が出来るから…不安はない。
 もちろんベッドを涙で濡らす事もない。
 さくらの心は「幸せ」の一色しかない。
 いつものようにヤキモチを焼く事もない。
 花組で大神と共に守った、この帝都で…
 …一番大好きなこの帝都の街並みで…
 大神と…
 何をしようか?
 平和になり、出撃する事もない。
 そんな幸せの中で…さくらはワクワクしていた。
 何故ならば…

…今、さくらは大神と恋人同士になったのだから…。




小説メニューに戻る