Act6-8

「まずは小手調べというこう!」
 ヒルコは腕をかざすように振り上げると、一気に振り下ろした。妖力が神武に投げつけられるかのように放たれたのだ。
 狙われたのは立ち上がろうとしているカンナ機である。このままでは、カンナ機は再び直撃を受け、今度こそ立ち上がれなくなってしまう。
「カンナ! 防御は俺に任せろ!」
 大神が自分の霊力をカンナにめがげて放出する。これは、練り上げられたものではないから、集束度が低く、そのまま敵にぶつけても効果はあまり得られない。しかし、相手の霊力(妖力)による攻撃を逸らしたり、拡散させたりするのには十分である。
 だが、それは今までの話だった。
「な!?」
 大神の放った霊力の固まり――霊気が四散した後も、ヒルコの放った妖力が消えない。それでも、霊力にぶつかることで、僅かばかりの時間と攻撃力の減衰を得たことで、カンナは辛うじてその攻撃を避けた。
「隊長! こいつの攻撃力は、とんでもねぇぞ!」
 カンナも思わず叫ぶ。大神の霊気防御がなければ、カンナ機はどうなっていたかわからない。
「どうした? 今更、私の偉大さが理解できたのか?」
 その言葉にすら説得力を感じてしまう。
「さあ、次は誰にするかな?」
 ヒルコは花組を見回す。
「よし、あいつにしよう。今度は加減はせぬぞ!」
 ヒルコが再び手を振り上げる。その視線は、未だうずくまったままのさくら機に向けられていた。
「さくらくん、立ち上がれ、よけるんだ! さくらくん!」
 大神の必死の呼びかけにもさくらは反応しない。彼女の心は閉ざされてしまかったかのようだ。
「喝!!」
 ヒルコの腕が振り下ろされる。それでもさくら機は腕一本動かさない。
「さくらくん!!」
 大神は意を決し、高機動装置を全開にした。
「隊長、何を!?」
 一番近くにいたマリアですら、止める間はなかった。
 大神機は今にも攻撃をうけんとするさくら機の目の前に割って入る。さくら機を覆い隠すように立ちはだかったその機体は、当然のようにヒルコの攻撃の直撃を喰らった。
 霊気防御も破られる以上、自らが盾となるより他にさくらを救う手はなかった。
「隊長!」
「大神はん!」
「中尉!」
「お兄ちゃん!」
「隊長ぉ!」
 花組の悲鳴があがる。

(え、なに!?)
 さくらはまるで夢の中の出来事であるかのように、繰り広げられる戦闘を眺めていた。
 帝都を護らなくてはならないという思い。ヒルコを救いたいという思い。そして、大神への想い。さくらは自分の中の矛盾は抱えきれなくなった。そして、無意識のうちに、その原因となった「ヒルコとの戦い」と「自分」を切り離すことで、自己防衛をはかろうとしていたのである。
 すなわち、それは自分の心を外界から遮断することである。五感から得られる情報を、自分のものとして判断することを停止したのであった。
 だが、今、目の前で起きていること。
 純白の神武が、その輝きは失い、そして、左腕をもがれ、排気管を失い、脇腹にあたる部分の装甲版を抉り取られ、ゆっくりとその場に崩れ落ちていく。
 外界との遮断を望んだ筈のさくらは、なぜか、その情報だけは判断しようとしている。
 そして、彼女は、この情報を自分が欲した理由を瞬時に理解した。
 なぜならば、それは、愛するものが自分の為に命を投げ出したということだったからだ。
「お、大神さん!?」
 夢の中などではない。
 さくらは現実を取り戻した。そして、彼女が把握した最初の事実は、大神が倒れたということ。
「大神さぁーん!」
 さくらの声が、戦場にこだました。

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