Act2-7
「みっともねぇ、戦いしやがって!!」
大神が帝劇に帰るなり、米田の雷がおちた。
「いつもいつも翔鯨丸の援護があるわけじゃねぇんだぞ!」
「面目次第もありません」
ただでさえ疲労こんばいの大神は、ますます疲労の色を濃くする。
「海軍さんってのは、甘っちろいとこのようだな。すっかりボケちまったんじゃねぇか?」
「お言葉ですが」
さすがに大神は語気荒く反論する。
帝國海軍士官学校といえば、東京帝大を上回る超難関校だ。そこを首席で卒業した彼には、海軍に対する誇りは人一倍である。
「帝國海軍を侮辱するとは、いくら米田大将でも許せません!」
「ならば、帝國華撃團をどうすればいいか、わかっているな」
大神は怪訝な表情をする。
米田が一転、柔らかい口調になったからだ。
「大神。お前は今日からしばらくの間、隊長もモギリも休業だ! 自分がいいと思うまで俺のところに顔を出すな!」
「お、大神さん……」
支配人室のドアを開けた大神を、さくらを始めとする帝國華撃團のメンバーが心配げに取り囲んだ。
「マリア。君は明日から花組隊長として指揮をとってくれ」
「隊長!」
「はは。隊長は僕じゃない。しばらくは君がそうだ」
「そんな、大神さん!」
「お兄ちゃん!」
「大神はん!?」
「どういうことでぇ、隊長!」
隊員達が口々に驚きを表わす。
「米田大将に言われたよ。しばらくはモギリも休業だよ」
そう言って去ろうとする大神を、しかし、さくらが呼び止める。
「大神さん。どういうことですか、説明して下さい!」
だが、大神は説明はせず、代わりにこう答えた、
「ごめん。疲れているんだ。一人にしてくれないか」
翌朝。
「大変よ! みんな起きて!」
さくらが他の隊員の部屋をノックして回る。
「どうしたの、さくら?」
「うーん、アイリス、眠いぃ〜〜」
「なんでぇ、なんでぇ。朝っぱらからよぉ」
「どないしたん。そないに大騒ぎしよって」
叩き起こされた隊員達は揃って不機嫌そうだ。
だが、さくらはおかまいなしである。
「これを見て!」
さくらが差し出したのは、一通の手紙である。
「これが、大神さんの部屋に!」
「……さくらはん。あんた、朝っぱらから大神さんとにいったんかい?」
紅蘭の鋭い突っ込み。
「え? いや、その……」
さくらは顔を赤くして口ごもる。
「そ、それよりも、とにかく、これを読んで!」
ごまかされているような、と思いながら一同はその手紙を見る。
途端、寝ぼけているどこの騒ぎではなくなった。
「そ、それで大神はんは?」
「どこにも見当たらないんです。それに、荷物もないものがあるんです!」
紅蘭に問われるまでもなく、さくらは帝劇中を捜しまわっていた。
「それじゃ、隊長は帝劇から出ていっちまったってことか?」
今度はカンナだ。
「そうみたいなんです」
「冗談じゃねぇぞ! 一体、何があったんてんだ!?」
だが、当然ながら、それに答えられるものは誰もいない。
「これは、米田大将に聞くしかないわね」
マリアの言葉に皆がうなずく。
そして、彼女達はそのまま支配人室へとなだれこんだ。
「おうおうどうした。みんな恐い顔して」
朝から酔っぱらいの米田である。
「米田長官」
「なんでぇ、マリアのねーちゃんもそんなに気張ると皺が増えるぞ」
だが、マリアは全く取り合わない。
「大神隊長がこの手紙を残して出て行かれました」
「ん!? どれどれ」
帝國華撃団・花組のみんなへ
しばらく帝劇を離れます。
心配ないので、安心してくれ。
マリアを中心に留守をよろしく頼む。
大神一郎
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